拝啓、17歳になったわたしへ

中原 緋色

Re:

 入梅の候、いかがお過ごしでしょうか。わたしは毎年この時期は持病を悪くしていると思います。しかしわたしのことですから無理はしていないでしょう。

 あなたの家で飼っている犬は歳をとりました。最近は足が弱っているらしく、散歩のときも歩くのがゆっくりになりました。わたしも歳をとるわけですね。

 今年も庭の枇杷は実をつけました。また母がジャムを作ったようです。冷蔵庫から去年のものも出てきました。密閉のうえ煮沸消毒してあるのでまだ食べられると思いますが、なかなか勇気がいります。手づくりのジャムは年を越さないうちに食べてしまってください。

 大学には合格しましたが、とある新型のウイルスが世界的に流行している影響で、ことしになってから学舎にはいちども足を運んでいません。あなたの気に入ったおいしい学食も入学してからいちども食べられていません。かなしいですね。

 あとお風呂の湯沸かし機が壊れました。


 "まだ、この世に絶望していますか"とのことですが、あなたは絶望しているのですか?

 そうではないとわたしは思っています。

 今のあなたに云っても鬱陶しいと思われるだけでしょうが、すべてを諦めるにはあなたの見ている世界は狭い。

 友だちが増えました。幼なじみと映画館で偶然再会して、またなかよく話すようになりました。知らない人が怖くなくなりました。外に出るのが楽しくなりました。ウイルスの流行で外出を控えているので今はできていませんが、旅行と写真という趣味が増えました。

 もしあなたがほんとうにこの世に価値を感じていないなら、進学を考えてはいないはずです。


 なんだかんだでわたしたちは、きっとこの世界が好きなのです。

 あなたの努力があったからわたしがいるのです。

 生きていてくれて、ありがとう。



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