殺し屋が突然やって来たのでぶちのめしてやった件

だいこん・もやし

第1話(完結)

「ねえ知ってる?この世界にはねえ、黒子がいるんだよ。彼らはみんな、影で世界を支えているんだ」




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ーー





「火事だ!すぐに出動してくれ!ニャンコ隊員!」




その叫びに、わたしは目覚めた。




「はい、了解しました!」(ねみいな、、)




わたしの名前は、ニャンコ・フレイヤー。わたしの仕事は、消防士。わたしの1日は、早い。




5時には起床し、朝のランニング。


7:00には朝食を済ませ、出勤。


その後8:00~勤務。まず車両点検をする。いざというときに動かなければ、もとも子もないからだ。


午前はデスクワークを、午後からは筋トレなどで任務に必要な体力・筋力をつける。


夕方からは再び車両点検をし、常に出動に備える。


仮眠をとりつつ、翌8:00に交代する。




その他にもいろいろとやることがあって、休日はないに等しい。昨日は休日だったが、結局2時間しか眠れなかった。




わたしは仕事に誇りを持っている。わたしは、この世の中を日の目をみない裏で支えている、そう自負している。




そして、今日も火災が起こったらしい。まちの平和のために、今日も他人知れず現場へと向かうーー。




「ーーはい、了解しました!サネス上官!」




「この仕事は、この道15年、ベテランのお前ひとりで十分だろう。さっさと出動してくれ、にぇれん隊員」




「はい、了解しました、、、ただちに」




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ーー





火災現場に向かう途中、わたしはモヤモヤとしていた。




貧乏ゆすりがとまらない。イライラがとまらない。




「なにがひとりで十分だ?なにがベテランだ?なにがさっさといけだ?俺に命令するのが、そんなに愉快なのかよ、、、サネス(あいつ)が上官だって?ふざけるな、、、」




腐りきったこの世界に、嫌気がさしていた。




「昔は、あんなやつじゃなかったのに、、、」




サネス上官とは、入隊以来の同期だ。生粋の上昇思考で、昇進ばかり考えているのは、いまも同じ。だから、さっさと昇格していまはもう上司なんて、アンビリーバボーな話だ。




だが、サネスは『サネス上官』になって、大切なものを失った。ひとの痛みを、思いやる気持ちだ。




むかしはいいやつだった。




あれは、同期のフリークが大きな火災現場の事故で行方不明となったとき。




フリークの生存を、なかまの誰もが諦めていた。だがサネスは違った。




「いいや、フリークはきっと生きている!」




現実は残酷だった。フリークの焼死体が見つかったとき、サネスは、誰よりも悲しんでいた。




「ーーフリーク、お前はこんな黒焦げになるまで、、、苦しかったなあ、、、」




サネスがそうぼやいて涙を流していたのを、いまでもはっきりと覚えている。サネスは、ひとの痛みがわかるやつだ。そう信じていた。




「サネスは、いいやつだった」




思い出に耽っていると、いつのまにか火災現場についていた。




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ーー





「あれは通報人か、手をふる女がひとり。あたりは閑散としているなあ、、、」




通報したという女の案内を受けた。


どうやら、ぼやさわぎだったらしい。




「火は完全に消えましたが、素人としては心配ですので現場を見ていってください」




歩きながらわたしは、別のことを考えていた。


なにが、サネスを変えてしまったのだろうか。




卒なく仕事をこなすわたしへの嫉妬。負けん気の強さ。手段を選ばない、行きすぎた上昇思考。それらがサネスをサネス上官へと仕立てあげたのだろうか。




「ここです、この部屋です。どうぞお入りください」




案内した女がそういうので、導かれるままに部屋に入る。たしかに、ほんの少し焦げ臭い。




「では、失礼します。それで、肝心のぼや騒ぎの現場は、どこですか?」




「ここです、この押し入れのなかです」




「押し入れの、なか?また珍しいーー」




そういいつつ、押し入れを開けてみる。


そして中にあったのは、、、




「これは、、、フリークの!?」




いまでも忘れない、火災事故で亡くなった同期フリークのいつも持ち歩いていた鉄製の小さなお守りだ。




それが、バーナーか何かで焦がされていた。




「あんたは一体!?」




「わたしはフリーク。11年前火災事故で死んだという、あなたのよく知るジョブ・フリークの妹です」




「フリークの妹だと?フリークから聞いたことがない」




「ええ当然。わたしは兄とは絶縁していましたから」




「……なら、絶縁していた兄の遺留品を、それも現場から見つからなかったと聞いていた遺留品を、なぜお前が持っている?」




「……っ!?」




わたしの鋭い質問に、≪女=「フリークの妹」≫の固く笑顔を結んでいた顔が、にわかに冷え込んだ。




いままでのセールスマンばりの愛想をやめ、観念するようにやれやれと本性を表したのだ。




「……ああ、やめたやめた。めんどくさ。敬語ってはなはだ疲れるよねえ?ねえ?」




「……なんなんだ、お前は?ほんとうは、何者だ?」




「ねえ知ってる?この世界にはねえ、黒子がいるんだよ。彼らはみんな、影で世界を支えているんだ。だからねえ、君には、ーー」




そういって、「フリークの妹」は銃を取り出した。




「や、まさか、あんたがフリークを殺めたのか!!」




「それは、君に答える義理はない。どうせあんたは、死ぬからねえ!あはふあははっはは!……それで、最後に言い残すことは?」




「お前は、ほんとうにジョブ・フリークの妹なのか?」




「うん、ほんとうだよ。どうして疑うの?」




「ではなぜ、わたしにジョブ・フリークの妹だと名乗った?有無いわず殺せばいいじゃないか。わたしが知りたいのは、それだけだ」




「最後のことばが、それ?いいよ、せっかくだから答えてあげる。それはあれじゃん、君の動揺を誘うためよねえ。君がキョドってるところを見たかったんだ。殺し屋さんの仕事は楽しくなくっちゃねえ~~。じゃあね、バイバイ」




「まてまて俺はまだ!!」




バン!


鳴り響く銃声は、だれの耳にも届くことはないだろう。


薄れていく意識ーー夢と現実の狭間で、わたしはそんなことを考えていた。




わたしは、死ぬ。静かに、燃えさかる赤い闇のなかで。






ーーわたしの表の姿は、いまここに死んだ。


さようなら、ジェフィ・フリーク。






ーーーー


ーーー


ーー





サネスはひとり笑っていった。




「にぇれん、お前は残念なやつだ。頭はいい。運動能力も高い。それだけの才能がありながら、昇格できなかった。それはお前が他人とのコミュニケーションを疎かにしたからだ。お前が怠けているあいだに、俺は上官と酒を酌み交わし、ときには他人を陥れ、権力の階段を登った」




「サネス、残念なのはお前だ」




「え?……ニャ、ニャンコ、いつのまにこの上官室に、、、なぜ生きている」




「サネスよ、フリークの妹ージェフィーはすべて吐いてくれたよ。苦しみのあえぎ声とともにね。最高にエロかったよ」




「な、なんの話だ?」




「ジェフィは、爪を1枚1枚丁寧に剥がされて、ついにすべてを吐いた。ジェフィは殺し屋だってこと、フリークはお前の命令で妹のジェフィに殺められたんだってな」




「き、貴様!俺のジェフィをどうしたんだ!!」




「サネス、知ってるかい?ひとに一番信用される方法を」




「は?」




「それは、ヒーローになることだよ。消防士は命を救うヒーローだ。まさか日常的に殺人なんてしているとは思わないだろ?」




「……まさか、お前はそのために消防士になったとでも?」




「まさにその通り。わたしは命を奪うために、命を救っている。そしてお前は、フリーク兄妹と同じく火をつけられて死ぬ。黒こげになってな」




「ジェフィを、殺したのか?」




「あの世で死んだフリークに詫びてくるんだな。あばよ」




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ーーー


ーー





わたしは、フリークの両親への報告をまとめていた。






『故人ジョブ・フリークのご両親様




報告いたします。


貴殿の依頼、『愛しの息子ジョブ・フリークは殺害されたのではないか、もし殺害されたならばその真犯人を見つけ出し、暗殺していただきたい。警察には取り合ってもらえないのです。』の件は、調査が完了いたしました。10年もお待たせして申し訳ありません。真犯人は、貴殿の杞憂どおり、故人ジョブ・フリークの妹ジェフィ・フリークおよびジョブ・フリークの同僚であるネス・サネスであると断定いたしました。そしてご依頼通り、殺害が完了いたしました。




殺し屋 E 』




「すまんなサネス、わたしは殺し屋なんだ。お前を案じて見過ごしてきたが、もうそうはいかなくなったようだ。依頼主の要望には、きちんと応える。わたしの運命は、いつだって容赦ないらしい」




わたしは、影でこの世界を支えている。しがない消防士だ。そして、殺し屋だ。

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