戦うべき人③(小話)


「はかせー!」


 吸血鬼ヴァンパイア討伐から戻ったアルテナはハンターたちの協会の支部にある研究室に元気に顔を出した。

 そこには何人もの研究者がいたが1人の老人が声のする方を覗く。

 アルテナもその姿を見て近づいていった。


「おぉ、アルテナ、傷は平気かぃ?」

「かすり傷だから、大丈夫!」

「刺されたんじゃろぅ?」

「刺されたよ?博士がくれたナイフでね?」


 そう言いながら確かにアルテナを刺したナイフを取り出す。

 そのナイフの先端を指で押すとその刃は持ち手に隠れて行った。同時に血が出る。

 それを見て博士と呼ばれた老人は高らかに笑った。


「こんな玩具に騙されるとは!どうやった?」

「まぁ。血は私自身の血だから匂いとかは騙されるかもだけどさ……」


 そう言いながら説明を始める。

 あの時、転んだあの一瞬でアルテナは程よい場所にナイフを投げ置いた。

 それこせアルテナが今持っているナイフなのだがそのナイフはいわば玩具のように刺せば持ち手に隠れ、離せば出てくるタイプのもので、これを少し細工してアルテナ自身の輸血した血が飛び出すようになっていた。

 あの男は自分の力を過信し、また勝てると確信したのだろう。疑うことなく転がっていたナイフを取り案の定それで刺してきたのだ。

 あとはアルテナ自身が少し演技すればいい。


「きっとお前さんの血の匂いに酔っていたのだろうなぁ」

「……皮肉だよね。ハンターの私の血が、相手にとってはご馳走だって」

「だが逆に言えばソレが武器になるだろぅ?」

「まぁ、ね」


 不貞腐れたように頬を含まらし言うアルテナをあやすように老人は笑った。

 釣られるように笑う。

 それから老人のデスクの上にある書類に目がいった。


「ねぇ、それ……」

「ん?あぁ、奴らヴァンパイアの情報だよ。もう同業者が何人もやられてる、……コレはお前さんには早いのぉ?」

「そう言ったら諦めるとでも?」

「思っとらんよ。とりあえず休め。話はそれからじゃ」


 説明もままならないまま、アルテナ諦めは悪いことをよく知っている老人はとにかく休養を促した。

 それが、これからアルテナの運命を変える吸血鬼ヴァンパイアとの出会いとも知らずに。


End.

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ショートストーリー詰合せ 澪華 弥琴 @miko-rei

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