戦うべき人②


 片手を伸ばす。最後まで話した男はその伸ばした手から凄まじい量のコウモリを出してアルテナに飛ばした。

 軽く舌打ちをして瞬で身をかがめる。

 コウモリたちは真っ直ぐ飛んでいき夜の街に消えた。

 しゃがんだまま男を見たアルテナは手をももに巻いたベルトに触れ銃を持つ。そのままの体勢で血を蹴り前に出た。

 男の前に来たアルテナは身を翻しその美しい足で男の足を蹴ると男はよろめきバランスを崩した。

 瞬間、口角を上げ不敵に笑うとそのまま転ぶフリをして手を地につき力を入れて飛んだ・・・

 ハッとして上を向けば、重力など関係ないと言うようにそのままの体勢で屋根の下にまるでコウモリのようにぶら下がったままいつの間にかとったアルテナのナイフを投げる。

 避けられない。

 舌打ちをしながら体を捻るが数秒遅かった。ナイフはアルテナの手や足を擦りまた落ちる。

 ナイフでついた傷口が熱く、真っ赤な血液が切れた傷口から下に伝う。


「……ほぅ」

「……なに?」


 ぺろりと口の周りを舐め、笑う男を見て背筋がゾッとした。

 ぐるりと回転し、地に降りると、ふ、と姿が消える。

 何が起きたか分からないまま辺りを見渡すが姿はない。ふぅ……と首筋に生暖かい風が吹いた。


ゾクッ


 背筋が震えたのがわかる。反射的に振り向き銃を向けて1発打った。

 男はまた一瞬で姿を消しまた後方に逃げるとクスクスと笑う。

 また勢いよく振り向くと足元に滴り落ちた自身の血に滑り膝を着いた。

 そんなアルテナを見て男はまた笑う。殺すのが勿体ないと。ご馳走だと。


「なぁ、ひれ伏せよ、命は惜しいだろう?」

「は、誰が~……っ!」


 座り込むアルテナの前に立った男が言うと下から睨みつけた。

 そんな強気な彼女の存在が楽しくて仕方が無くなった男は彼女の傷口がついた足を踏む。

 声にならない声が辺りに響いた。

 そんな苦痛に苦しむ姿を見た男は気を良くして力の抜けた手を握り引っ張る。

 腕に滴る血を舐めとり、男はまた満足そうに言う。本当にご馳走だと。

 甘い匂いだ。甘く馨しい香りのする絶品。

 そう高らかに笑った。

 それでもなお、踏みつけた足はどかさず今度は近くに落ちていたナイフを広い上げて踏みつけたアルテナの足に刺した。

 声にならない断末魔が響き渡る。

 あまりの痛みに頬が涙で濡れた。男はそんな姿を見てニヤニヤと笑う。


「どうする?俺と来るか?」


 戦意が薄れるのが分かる。アルテナは男の言葉に小さく頷いた。

 高らかに笑うと刺したナイフを抜く。傷口が燃えるように熱かった。

 男はそのまま膝まずきアルテナの足をもつ。バランスを崩したアルテナは手で体を支え男を見た。

 男は足についた血を舐め始める。


かちゃ


 金属音が聞こえたと同時に男の動きが止まりアルテナを見た。

 目の前には銃口。

 アルテナが不敵な笑みを浮かべたと同時に銃声が響いた。

 撃たれた男は灰になり服だけを残して消えた。

 深いため息を着くとその場に横になる。それから空を見た。

 綺麗な星空が建物の隙間から見える。

 あぁ、綺麗だ、とても。そんなことを思いながらアルテナは小さな声で呟いた。


「自分を過信しすぎた結果よ」


 アルテナのその小さなつぶやきは夜の街に消えていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る