6日目お題『最後の3分間』
最後の3分間
―――
20××年 ある学者が研究成果を発表した。それによるとあと数十年で地球は滅亡するという。
信じがたい事だがどうやら信憑性は低くないようだった。
でもほとんどの人はそんな不確かな予想よりも目先の幸せを優先し、特に対策等を考える事なくこれまで生きてきた。
年を重ねる毎に次々と起こる天災、社会不安から犯罪が蔓延して悲しみに震える被害者遺族は増える一方。
少子高齢化はどんどん進み、人口減少は止まるところを知らない。
新卒の就職率は過去最低を年々積み重ねているし、中途採用もままならない世の中。
その世の中がもうすぐ終わるという現実を人々はどう受け止めるのか。
ある人は「地球が終わるなんて……」と絶望するだろう。
またある人は「この生き苦しい世の中、リセットした方がよっぽどいい」と、自分だけでなく全ての人間が滅ぶ事を望むだろう。
それではあなたはその最後の
これはずっと素直になれなかった二人の、最後の3分間。
「もうすぐ終わるのかぁ。何か呆気ないというか、こんなもんなのかねぇ。世界が終わるというのに。」
良輔は真っ黒に染まった空を見上げながら言った。
「そうだね。全然実感沸かないし、この黒い雲が現れた時はビビったけどあれから特別何事も起こらない。本当に地球が滅ぶのかな?」
半信半疑といった様子でそう言うのは、良輔の小さい頃からの幼馴染の美弥。
二人は良輔の部屋の窓に並んで立って、外を見つめていた。相変わらず空は真っ黒な雲に覆われている。
数年前に学者が発表した通り、この地球は確実に滅亡に向かってカウントダウンを始めていた。
数ヵ月前に突如として現れた雲は、時々黒い雨を降らして人々を恐がらせ、一向に流れていく気配も見せない。
そのせいで田んぼや畑の農作物は全て枯れ果て、一筋の光も見えない暗鬱とした空気に体調を崩す人が続出した。
地球外に逃げ出そうとする人は後を絶たず、それでもその手段が限られている為、逃げたくても逃げられない人が大勢いた。
そうなると人間不思議なもので、諦めの境地に陥るものである。
この二人も既に諦めており、しかし中々訪れない最後の時に焦れてさえいた。
「なぁ、俺思うんだけど。このまま何もないっていうのもあるんじゃね?」
「えぇ~!?じゃあこの雲は何よ?」
「さぁ?異常気象とか、天変地異?」
「いい加減ね……」
美弥がため息をついたのを横目で見た良輔は、そっと自分のズボンのポケットを探った。
「あー、あのさ……」
「ん?」
「俺らってさ、幼馴染だよな。」
「何言ってんの?今更そんな事確認する?」
からかい口調の美弥に苦笑を返すと、良輔はポケットから何かを取り出して美弥の左手を取った。
「な、何?」
「こんな時に言うのもアレなんだけど。っていうか、こんな時だから言っときたいんだけど。」
「だから何……?」
美弥の顔が手を握られた事とチラッと見えた物のせいで真っ赤に染まる。
良輔は意を決してその物を美弥の細い指に通した。
それはこの黒い雲の下でさえもキラリと輝いて見えた。
「安物だけど。給料3ヶ月分はちょっと無理だった。」
「当たり前でしょ!だってあんたニートだし……」
「一応貯金もしてたし、この何ヵ月かはバイト死ぬ気で頑張ったから。」
「死ぬ気でって……どうせ今日死ぬんでしょ?そんなの意味ないじゃん。っていうか!あたし達って付き合ってたっけ?ただの幼馴染じゃなかったの?」
美弥は今嵌めたばかりの指環を、その口調とは裏腹に優しくそっと撫でながら言った。その言い方が昔と変わらなくて、良輔はこんな時だというのにおかしくなった。
良輔はずっと美弥が好きだった。それは子どもの頃から。
そして美弥も良輔の事を想っていた。
二人は両想いだというのに幼馴染というハードルのせいで、素直に気持ちを言う事が出来ずにいたのだ。
だけどもうすぐ地球は滅びる。このままでは何も言えずに、何も出来ずに終わってしまう。
それならせめて……
家の外では相変わらず黒い雲が立ち込めていて、確実にさっきよりも濃くなっていた。
「美弥。俺と……」
「良輔……」
「世界が終わる3分間だけでいいから、一緒にいて下さい。」
「……はい。」
全てが終わるその瞬間。
あなたは誰と一緒にいたいですか――?
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