深夜の逢瀬Ⅱ

「貴方はウィルフォード領で起きたウィンブルの戦いを知っていますか?」


「ああ、その戦はよく知っている。ウィルフォード公爵が不在の時を狙って他国が侵攻。リーナ嬢率いるウィルフォード領の騎士団が追い払った戦いだ」


「半分正解です」


「半分?」


「総大将は私でした」


「何を言って――」


「リーナは戦闘に特化していて、作戦立案とかリーダー格が行う業務は出来ない、もとい私に任せておけばいいと思っている節がありまして……」



 実際、どこへ言っても「アインに聞きなさい」「アイナに聞きなさい」としか言わないのだから困った戦姫様である。


 結果として、ウィルフォード公爵のいない領で指揮を取れる者は、アインかウィルフォード公爵夫人だった。


 しかし、何を思ってか、公爵夫人はアインを総大将に任命。戦いの終息を命じた。


 この戦いは優れた作戦により、怪我人こそ出たものの、死者が出なかったという快挙を打ち立てた。


 つまり――



「戦略法典に記載されているウィンブルの戦いの指揮は貴殿が?」


「そういうことです」


「なら、もっと評価されているはずだ!

 あの戦いの英雄譚は私の憧れだ。本来であれば私が貴殿を知らないはずないではないか!」


「私が平民だからですよ」



 残念なことに王国は現国王がどう思っているかは別として実力主義ではない。あくまで血統主義なのだ。


 無論、それを否定する気はアインにもない。

 血統によってアドバンテージがあるのは事実だし、その優位を利用して優れた才能を開花する者たちが多くいる。


 だが、平民であるアインがそれに匹敵する功績を打ち立てれば、貴族はまず偽装を疑うものなのだ。


 そして、真実だと分かれば平民のくせに調子に乗って――と、制裁を加える準備を始める。


 彼らにとって、理由などどうでもよいのだ。目障りな平民が消えればそれで。



「だから、私は目立たず陰ながらに国を守護することにしました」


「陰ながらに国を守る?――陰の守護者。

 噂で聞いたことがある。

 誰も素顔を知らない、敵からは 《軍神》、味方からは 《守護者》と呼ばれる正体不明の魔法剣士がいるというものだ。まさか貴殿が?」



 アインは口に人差し指を当て、他言無用で――とこぼした。


 その返答にフラウは驚愕した。否定しなかったのだ。


 アインはフラウをベッドに座らせ、自らは窓際に腰を落ち着けた。


 そこから先、アインが口にしたことは、イリヤは当然のこと、公爵も殆ど知らないであろう事実だった。



「貴殿の人生は中々に波乱万丈だな」


「アインでいいですよ。

 流石にこれから毎日顔を合わせるのにそれだと言いづらいでしょう?」


「なら、私のことはフラウと」


「わかりました。フラウの言う通り、波乱万丈ではありますが、人生の半分は問題児たちの所為ですから、毎回の如くお仕置きはきっちりしてますよ」



 アインはそういいながら、教授のことを思い出す。


 こないだの結界もそうだが、今頃リーナに責められているだろう。


 更に強化した結界を用意しようと思っていたが、他のことに時間を使ってしまって全く考えていなかったことにアインは気付いた。


 まだ、最低でも二ヶ月はガーランド領に滞在する予定であるため、その期間中には何かしら用意したいものだとアインはため息をついた。



「さて、話し込んでしまいましたが、そろそろ……」



 そう言って、アインが顔を上げるとフラウは眠気が急に来たのか船を漕いでいた。


 部屋に連れて行くことも考えたが、それなりに遅い時間で使用人は既にいない。

 加えてフラウの部屋をアインは知らないのだ。


 完全に手詰まりになり、仕方なくフラウをそのままアインの使っているベッドに寝かしつけた。


 アインは魔法で部屋の温度を上げた後、適当なタオルケットを用意してソファーへと腰を下ろすのだった。


§ § §


 ソファーに座って寝るのはいつぶりだったか――そんなことをふと思い返しながら目を開くと、いつの間にか朝になっていた。


 一応、魔法で部屋は暖かくしていたが、タオルケット一枚で寝ていたため、どうも眠りが浅かったようだ。


 その所為で、いつもより遅い時間になってしまったらしい。


 寝坊した分、早く起きて動かなければと動こうとしたアインだったが、何故か動く事が出来なかった。


 そういえば、タオルケット一枚の割に温かいなと感じたアインは、カーテンを魔法で開けて部屋を明るくする。


 すると、隣にはアインに抱きついて気持ちよさそうに寝ているフラウの姿があった。


 どうしたものかと考えるアイン。

 そもそも、ベッドで寝ていたはずが、何故隣で寝ているのかとかはもはやどうでもよく、見つかる前に穏便に済ませる方法を考えなければいけなかった。しかし――



「先生? もうすぐ朝食ですが、まだ寝てらっしゃいますか?」



 イリヤがやってきてしまったのだ。


 流石にいきなり入ってくるなんてことはな――



「初日から寝坊なんてだらしないと思いませんか?

 フラウもいないので捜索を手伝ってもらいた――」



 いきなり扉を開けたラウラと目が合う。


 アインはソファーに座っていて、隣にはフラウが抱きついて、今の音に気付くこともなくぐっすりと寝ている。


 再びラウラの方を見れば、目が笑っていないイリヤが仁王立ちしている。



「先生?」


「イリヤ? 私も今、起きて状況を整理してるんです。少し話を――」


「問答無用!」



 朝から凄いことになったことは言うまでもない。


――

あとがき

 というわけで、三章終幕です。

 また暫くおやすみ貰って、四章~六章(最後まで)書けたら、続きを投稿しようと思いますので、場合によっては今月末になるかも……

 私が書いてる中では一番PV数が一応多い「才女の異世界開拓記」とか、その他の作品読みながらお待ち頂ければと思います。

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魔法と剣の教育事情 初仁岬 @UihitoMisaki

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