第9話 ゲーセン


 日曜日。

 俺は公園で俊樹を待っていた。


「俊樹遅いな。何やってんだろ」


 言ってみたものの、あいつのことだからまた何らかのイベントが起きたんだろう。


 土、日で遊びに行くの、久しぶりだな。

 最近の土日は本屋に行くぐらいしか外出してなかった。

 委員長という立場も相まってクラスの陽キャからはノータッチなので、遊びに誘われることはほとんどない。


 誘われたとしても結菜か愛美、そして今待ってる俊樹くらいだ。


 …そう考えると俺、友達少ないな。

 自分で言ってて悲しくなってきた。


 俺が自分の友達の少なさに打ちひしがれていると、


「どうしたの、翔」


 待ち人がやって来た。




 俺達は歩いてゲーセンに向かいながら、俊樹が遅れた理由について話していた。


「遅かったな。何してたんだ?」


「ごめん。ちょっといろいろあって」


「まあそうだろうな」


 やはりイベントが発生していたようだ。

 こいつの日々の中で何もない日などない。


「分かってたなら何で聞いたのさ」


「いや、一応確認したくて。何があったんだ?」


「ここに来る途中困っている人がいたから、手伝っただけだよ」


 さっすが主人公。

 困っている人を助けるということは、誰にでも出来ることではない。それを出来てしまうあたり、やっぱりこいつは主人公だ。


 うーん。俺との約束よりそれを優先したことを怒るべきか、困っている人を助けたことを褒めるべきか。


 まあいいや。人を助けるのは良いことだし、遅れてもちゃんと来てくれたからな。



 今日も冴えわたる主人公力に半ば呆れていると、隣を歩く俊樹が申し訳なさそうな顔で言ってきた。


「遅れてきた分際で申し訳ないんだけど、翔にお願いしたいことがあって」


「何だ?」


「僕が合図したら、僕の前に立って僕を隠して欲しいんだ」


「……」


 こいつはマフィアにでも狙われているのだろうか。



 実際、ゲーセン向かう途中に俊樹は合図して来た。

 その時に俺は周りを見渡してみたが、怪しい人は見当たらなかった。



 ************





「お前強すぎだろ。どんだけ金使ったんだよ」


「あはは…」


 一通りゲームで盛り上がった後。

 俺達はゲーセン内をぶらついていた。


 いや、こいつ強すぎ。

 格ゲー10回やって1回も勝てなかった。手加減してくれたみたいだけど、それでも全然勝てない。


 本当に手加減してんのかと思って、最後に「手加減なしでやって」って言ったら2負けた。


 本当に手加減してくれてたんだな。

 ありがとう。


 そんなことを考えていると、隣を歩いていた俊樹が急に立ち止まった。


「どうした?」


「いや、懐かしいなと思って」


「何が?」


「僕、ここで初めて喧嘩したんだ」


「ああ。前に言ってたやつか。お前が格好良く女の子を助けたっていう」


 そして恐らく高崎さんにフラグを立ててしまったやつ。


「あの女の子、元気かな」


「あれから会ったりしてないのか? それか連絡先交換してたりとか」


「僕、あの後直ぐに帰っちゃったし、あれからここでは会ってないよ。それに…」


 俊樹は一度言葉を切り、


「連絡先目的で助けたわけじゃないしね。とっさに体が動いたっていうか、助けなきゃって思って」


 爽やかな笑顔でそう言った。


 ヤバい。惚れそう。

 こういうところまで主人公かよ。

 俺が女だったら惚れてた思う。


 良かった、男で。


 というか、今のセリフは女の子の前で言うセリフだろ。

 でも、


「お前のそういうところ、ホントに格好いいよ」


 俺はこいつを心から尊敬している。


「人を助けるのって誰にでもできることじゃないしさ。俺だったら見て見ぬふりしちゃいそうだし」


「そんなことないと思うけど」


「普通はそうなの」


 あれ?

 俺なんかヒロインっぽいこと言ってね?


 ま、いいか。


「で、これからどうする? このまま帰るか、それともまだゲームするか」


「うーん。

 今日は帰ろっか。結構お金使ったし」


「わかった」


 それから俺達は他愛ない話をしながらゲーセンを後にした。










 そういえば、俊樹のお願いは結局何だったんだろう?





 ********


 いろんなところで主人公力を発揮する俊樹くん…。


 いずれ俊樹くん視点の話も書いてみたいですね。




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俺と君の話 さくた @sakuta426

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