第16話 人情
ゴブリンどもを始末した後、いよいよ廃屋の中へと踏み入ろうとボロボロになった扉を開けた。
「ほぉ~‥‥これまたずいぶんと大きいの~」
中にできていた巣はとても大きく、廃屋のほぼ8割がたが巣に変貌を遂げていた。
そして儂が中に入ったことを察した何匹かのポイズンビーが羽音を立てて威嚇してくる。しかし、襲ってくるような気配はない。まるでこちらを怖がっているかのようにそこから動かない。
そのままそこから動かないでいてくれれば楽なんじゃがの~と、思っていたのも束の間動かないでいたポイズンビーのうち一匹が更に大きい体のポイズンビーに頭を噛み砕かれ殺された。
「貴様が女王‥‥じゃな。」
こやつは凍らせてそのまま持ち帰り、巣はこの廃屋ごと焼却してしまえばよかろう。それで全ての依頼は完了じゃ。
そして魔法を詠唱しようと口を開こうとしたとき‥‥儂の耳をつんざくような奇声が襲った。
「ギィィィィ~~~ッ!!」
儂の耳を襲ったその奇声は女王の物で、その声を聞いた配下のポイズンビーは一斉に羽ばたき、こちらに向かって毒針を飛ばしてきた。
「お~お~‥‥恐怖による支配かの?ずいぶんと怖い女王様じゃな。」
すいすいと飛んで来る毒針を避けつつ詠唱を始める。
「落雷 サンダーボルト」
儂の手に現れた小型の魔方陣から雷が放たれ、ポイズンビーがなすすべなく一匹‥‥また一匹と雷に打たれ墜ちていく。
そしていよいよ残るは女王のみとなると、あろうことかこの巣を捨て逃げ延びようと廃屋の屋根を突き破って外へと逃げてしまう。
「まったく‥‥往生際の悪いやつじゃ。」
やれやれ‥‥と思いながらも右手と左手でそれぞれ違う魔法を準備する。
「必中 ロックオンレーダー」
ロックオンレーダーの魔法で目の前に画面が現れ、飛び去る女王を補足する。そして右手の人差し指をたてて女王が突き破った屋根の隙間から女王を狙う。
「狙撃 スナイプボルト」
人差し指の先にできた魔方陣から魔力弾が放たれ遥か上空にいた女王を貫いた。一撃で即死した女王は飛ぶ力を失い、再び屋根を突き破り儂の目の前に墜ちてきた。
「ふっ、てこずらせおって。これにて依頼完了じゃな。」
女王の死体をアイテムボックスにしまい、廃屋に火を放った。そして巣がきっちりと灰になるのを見届け儂は街への帰路に着いた。
来た道を戻り、牧場が近付いてくると何やらこちらに手を振っている輩がいるのに気がついた。
「あっ!!おーい嬢ちゃん!!」
手を振っていたのは先程牧場で助けた男だった。大きな声で儂のことを呼んでいる。
「じょ‥‥嬢ちゃんとな?」
しっかし嬢ちゃんとはのぉ~‥‥儂はもうそんな歳ではないはずなのじゃが、まぁこの見た目じゃし仕方ないかのぉ~。
はぁ‥‥とため息を吐きながら、何用かと男に近付く。
「おぉさっきは助かったぜ、さっきは礼を言い忘れててな。」
「礼などいらんのじゃ、儂は依頼で来ただけじゃからな。もうポイズンビーどもがここを襲うことはあるまい。儂が巣を潰してきたからのぉ。」
「マジでか!?お嬢ちゃんちいせぇのにすげぇんだな!!」
固い手で儂の頭をポンポンと撫でてくる男‥‥こうも子供扱いされると少し腹が立ってくる。
「ぬぁぁっ!!子供扱いするでないっ!!儂はこう見えてもお主より長いこと生きておるわ!!」
「ハッハッハ!!最近の子供は冗談も言うようになったか!!まぁいい、嬢ちゃんこいつは俺からのお礼だもらってくれ。」
「じゃから儂はっ‥‥ってなんじゃこれは?」
グリグリと頭を撫でられている最中、男は大きな革袋を差し出して来た。
「おう、ウチで育ててる牛の搾りたての牛乳とチーズだ。うめぇぞ?」
「むぅ‥‥よいのか?儂はただギルドの依頼で来ただけなのじゃぞ?」
「なぁに言ってんだ、ウチの為になることをしてくれたんだ。お礼をすんのは当たり前ってな。ほらほら遠慮せずに受け取ってくんな。」
ぐいぐいと押し付けられ渋々それを受けとると、男は大声で笑いながら牧場の方へと戻っていった。
「ふむ‥‥これが人情というものなのかの。また一つ知識が増えたのじゃ。」
人情というものを知り、人というものの暖かさを改めて感じたグリアだった。
生ける魔導書は人間になりたい。 しゃむしぇる @shamsheru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生ける魔導書は人間になりたい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます