第100話 長い静寂
長い長い静寂に感じられた時間だったが
「・・・こんなみどりでいいの?」
と彼女はやっと口を開いた。
「・・・長い道のりだったと思う・・自分でも自分がわからなかった・・でも、今ほんとに、そばにいてほしいと思ってる。」
「・・・・。」
「・・・みどりさん、信じてくれるかどうかわからないけれど、みどりがいないと・・・どうしようもないんだ。」
「・・・・。」
みどりはだまったままだ。
「・・もしかして、俺に嫌気がさしてる?」
「・・そんなんだったら、ここにいないよ、私。」
「・・じゃあなんでちゃんと返事をしてくれないの?・・」
「・・・・。」
核心にふれようとするとみどりはだまってしまう。
彼女にはいったいどんな秘密があるのだろう。
「・・・今のままじゃ、だめなの?」
「・・・もちろん・・・今のままで、幸せだよ、俺は。」
「・・・じゃあ、どうして?」
「今からの将来・・じゃあどうするの?・・・君の立場はずっと幽霊だよ・・・・?病気にもなるし、赤ちゃんだって生まれるんだよ?」
「・・赤ちゃん・・」
自分はドキっとした。
彼女に対してこの赤ちゃんとという言葉は使ってはいけない言葉かもしれなかったからだ。
ただ彼女は
「・・赤ちゃん・・ほしいなあ。」
彼女はそういって寂しそうに笑った。
彼女には何か秘密がある。
そう思ったが自分はそれ以上何も言えなくなった。
「・・少なくとも、Y子とのことは・・近いうちになんとかする・・。」
自分は軽い失望を覚えた。
どうして正式に入籍をするということに彼女は喜んでくれないのだろう。
彼女はおそらくY子か真智子さんのことで抵抗を感じているのだろう。
そう思った。
「・・ごめんね・・・俺、追い込んじゃったかな。嫌だよね・・こんな俺の正式な奥さんだなんて。・・」
自分はみどりをソファにおいてベッドに入った。
これまで、みどりをないがしろにしていた自分が呪わしくてしかたがなかった。
軽い眠気を催した頃、背後にみどりの気配がした。
彼女は後ろから銀次郎をだきしめた。
「・・あなた」
自分はハッとなった。
「・・今、あなたって・・・言ってくれたの?」
「・・・うん。」
「・・それって・・・・」
「・・・私は、あなたが心配しなくても、どこにもいかないわ。・・・」
「・・・・。」
「・・入籍なんかしなくても、わたしはあなたの妻でしょう。・・・今までも・・これからも、かわらないんだよ・・。今でもすごく幸せなの・・・。」
「・・赤ちゃんができたら・・。」
「・・そうね・・それがしんぱいね・・・それからのことはそこで考えましょ・・・。」
自分は寝返って彼女に真剣な顔をして聞いてみた。
「今・・俺の子供ができちゃったら・・みどりは堕ろしちゃうつもり・・?」
「・・・・」
彼女はおしだまって、やがて真剣な目でいった。
「・・・今度子供を殺すようなときは・・私が死ぬときよ。・・わたし、・・生むわ。絶対。・・あなたの赤ちゃん、ほしい。」
本気で言っているのはふだんのみどりさんをみているからよくわかった。
だからそれ以上はもう聞かないようにして、そのまま寝ようと思った。
「そのまま寝ちゃだめ・・・みどりにキスしてからよ、あ・な・た。」
自分は彼女の額に軽い口づけをしてやすんだ。
※私小説の団体名・個人名・会社名などすべて仮名です。
自殺志願の女性と旅をした話 山咲銀次郎 @Ginziro-yamazki
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