みにくいあくまのこ

下村りょう

愚かしいと言われようが、言われまいが。

 雨の降る日、虫も鳴かぬ夜。

 私たちは神様に隠れて、柘榴の実を互いに與え合いました。

 数粒目のことです。私が彼女の口許に運んだ漿果が彼女の犬歯に当たり、その薄皮が破けて爽やかな香りが広がりました。それと同時に、彼女の口から胸の膨らみにかけて深い紅が滴り落ちてゆきます。

「あっ! ごめんなさい!」

「あら、いけないわ」

 動揺を隠せない私に対して、聰明な彼女は落ち着いた様子で私の手を取り、こう言いました。

「あなたの指が汚れてしまったわね」「綺麗にしましょうか」

 そしてあろうことか私の指を口に含んだのです!

 ああ、ああ! 彼女の口から時折覗く紅のなんて煽情的なこと!

 彼女の舌は陽光に照らされた蛇のように絡みつき、官能の熱を以てして私の指伝いに心の臓まで思うままに蹂躙し尽くしました。そうして惜しくも離れた彼女の舌と私の指からは、銀の糸が細く伸び、やがて千切れます。それはまるで私たちを迎えようと顔をのぞかせた悲しい結末を物語っているようで……。

「そんな哀しい顔をしないで」

 大丈夫よ。と彼女はその豊満な胸へと私を抱き寄せます。甘く華やかなその香りは、柘榴のものか彼女のものなのか。もう区別はつきませんでした。

 私は彼女に甘えて、その背中に腕を回します。そこに生え揃った大きく硬い翼など、彼女が私に向けてくれる愛に比べれば些末なもの。


 さよなら神様。


 私はもう、あなたの元へは戻れません。

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みにくいあくまのこ 下村りょう @Higuchi_Chikage

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