夏祭り2
優衣に送ったメッセージの返事は一言だけだった。
――分かった。
上手く説明できたか微妙だったが、今後は気を付けると伝えておいた。
ハッキリ言えば、七海と二人きりで会うことが迂闊だった。
俺が男だったから問題はなかったが、俺が女で七海が男だったらそのままNTR的な展開になった可能性も十分ある。
そういう意味ではしっかりと反省しないと。
まあ、七海の諦めの悪さは俺もちょっとは分かる気がする。
仮に優衣が誰かと付き合っていたら?
多分、やれることは全てやっていただろう。
それこそ、今回の七海のように。
夏休みが終わった後、学校で会うのが気まずいな。
☆
夏休みも終盤となった。
最後の思い出作りに、俺は優衣と二人で地元の神社で行われる夏祭りへ向かった。
二つ隣の駅で待ち合わせをして、浴衣姿の優衣と共にお祭りへ。
小夜から聞いた話だが、俺達の学校の生徒の大半は先日行われた大規模な花火大会の方で遊んだらしく、地元の方にはあまり行かなそうとのこと。
まあ、近くに住んでいないなら、わざわざ行かないか。
仮にクラスメイト達に見つかっても、もういいかな。と優衣とここ数日メッセージでやり取りをしていた。
「こんばんは」
「ああ、こんばんは、やっぱりその浴衣は似合っているな」
「ありがとう、睦月さん」
「うん、本当に似合ってる」
先日、メッセージで送ってきてくれた画像の浴衣姿よりも可愛い優衣がそこにはいた。
「行こうか」
「はい」
俺は優衣に手を差し出し、優衣も手を差し出してくれた。
二人でしっかりと手を握りながら、俺と優衣は夏祭り会場の神社へと向かった。
「今日はやはり熱いな」
「そうですね」
神社へ向かう道は徐々に人が多くなっていく、半分くらいは浴衣などを着ているがやはり私服も多いな。
「私服にするべきか悩んだが、この暑さなら、甚平で良かったか」
「そうですね。甚平とか浴衣って結構涼しいですから」
安物でも結構涼しくて汗も乾きやすい、夏は割と着ることが多いけれど、改めて涼しさを実感したよ。
「人が多くなってきたな、もう少し近づけ」
「暑くないですか?」
「大丈夫だ」
優衣と少し距離を詰めて歩いていく。
会場まで何を話そうか考えていると優衣が話しかけてきた。
「あっという間でしたね。高校に入学してから」
「うん、あっという間に時間が過ぎたな」
アプローチをし始めて、結果的に付き合えるようになって。
「はい、だから、そろそろ良いかなって」
「良いって?」
夏祭り会場の神社の鳥居が見えてきた。
今年はどの出店で買い物をしようか。優衣は何が好きかな?
「お泊り……です」
優衣の言葉を聞いて、理解するまで数秒かかり。俺は歩きながらも優衣の顔を確認した。
優衣は顔を少し俯きながら真っ赤にしていた。
「な、何故今言う?」
「睦月さん、ドキドキしてなさそうだったので」
「いや、ドキドキ。まあ、ワクワクかな」
「私はドキドキしていました。なので、その余裕そうな表情を崩したいなって」
「そ、そうか、嬉しいよ」
「花火、買っているんですよね?」
「あ、ああ」
「なら、お祭りが終わった後、ゆっくりと花火をしましょう。睦月さんもドキドキし続けたら、私の気持ちを少しは分かるかもしれませんし」
優衣の気持ち?
「恋人が気づかない間に、行為を持っている異性を部屋に入れる恐怖と何事もなかった安心感とか」
「ほんと、それについてはごめん」
「はい、だからこれはちょっとした意趣返しです」
優衣は俺の顔を見て、こう言った。
「帰りに多めに食べ物を買って行きましょう」
「えっと、なんでって聞いていい?」
俺の言葉の返事はとても素敵な笑顔だった。
優衣はことあるごとに俺に密着してきた。露骨にはしなかった。
それでも、十分、俺が優衣を女の子として意識するには十分だった。
「前から思っていたんです。昔のことがありますから、性的な目で見られるのは嫌です。でも、好きな男の人がまったく意識されないのは嫌だなって」
「十分、意識していると思ったけど?」
「変態なのは認めます」
「うっ」
「けど、まったく性欲が無いのは無いのでちょっとムカつきます」
「我が儘だな」
俺が笑うと、優衣は少しだけ怒ってこう言った。
「睦月さん、理性が強く過ぎです。実は何度か文芸部の部室でエッチなことをすると、内心期待と言いますかそうなるんだろうなーって」
「まあ、そうなりかけたこともあったな」
「それなのに、そこまでやらない。最初は我慢してくれている。と思っていましたけど、途中からワザと焦らされているんじゃないかと」
「そう思っていたのか」
「けど、あの失敗で、睦月さんが私のことを考えてくれているって分かりましたから。ネットで調べたら意外と女の子が初体験の失敗の原因で破局することあるみたいですから」
へー、そうなんだ。それは知らなかった。
けど、男が失敗して振られるならまだ分かるが、女を振るってよほどのイケメンかヤリチンなんだろうな。そいつ等。
「だから、もう覚悟を決めます。それに次は誰かに取られる可能性もありますから」
「気合が入っているのはいいけれど、無理はしないでくれよ」
「無理じゃありません。確かに焦っているのは事実ですが、それでもやっぱり睦月さんともっと仲良くなりたいですから」
俺の態度が少なからず距離があるように思えてしまったのか。
うん、気を付けないとな。
いや、やはりおっぱい枕とか際どいことしているから距離は感じないはずだ。
やはり先日の七海と二人きりになったことが原因だな。
マジで気を付けよう。
「お、神社に着いたな」
「うん、着きましたね」
「じゃ、楽しもうか。優衣」
「はい、睦月さん」
俺と優衣は改めて手を繋ぎ直して、夏祭り会場へと足を踏み入れた。
「全部ひっくるめて、ひと夏の思い出って憧れていたんです。好きだった少女漫画みたいなシチュエーションが」
「分かった。やりたいことあったら教えてくれ、彼氏らしく彼女の為に頑張るよ」
「ありがとうございます」
とても素晴らしい一日だったと、俺は断言できる。
夏祭り会場で、出店を見てまわり。食べ物を半分個にして食べ。
最後にやった金魚すくいで四匹の金魚をゲットして、話し合って俺の家で飼うことにした。
今夜泊まれるというので、追加で出店で食べ物を買って、スーパーにも寄って色々購入して、二人で俺の家に帰った。
ちょっとだけ、庭で手持ち花火をしてお互いになんというか、密着し合ってキスをして。
なんか、もう、お互いにいいかな?
と言う雰囲気になって、部屋に戻って。
「汗、大丈夫ですか?」
「うん、って、俺もか」
お互いに目が合って、苦笑いを浮かべながら俺が「一緒に入るか?」と優衣に問いかけると頷いてくれた。
改めて、ドキドキしてきて、二人で脱衣所入って服を脱いでちょっと長めにシャワーを浴びた。
そして、お互い着替えるのも面倒くさくてバスタオルを身体に巻いて、二人でドキドキしながら、自室に戻ってベッドで始めようとしたところで。
家の近くで放火事件が起こり、サイレンが鳴り響いた。
幸い近くと言っても距離があり、消防車直ぐ来たので、俺の家に直接何かあったわけではない。
後で知ったが、今回の放火は別の県で連続放火をしでかした犯人だったようで、
追いかけていた警察のサイレンなどが引っ切り無しに鳴り響いて、俺達の雰囲気はぶち壊された。
「……ゆ、優衣?」
「…………もう! 何なの!!」
色々、頑張っていた優衣だったからこそ、悔しかったらしく。
泣き止むまで時間がかかり、落ち着いた時にはお互いに気疲れを起こして結局今回もそういうことはお預けになった。
気分とタイミングって、本当に大事なんだな。
うん、本当にさ。
君(のおっぱい)が好きなんだ! アイビー @karumia4
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。君(のおっぱい)が好きなんだ!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます