十一話 そう囁くんだ…俺のマッスルが
「あまり口外してほしくはない事なんだが…実はその男、とある大貴族の次期領主候補の一人でな。自身の館に連れ込もうと直接屋敷に乗り込んでアルテナ様を無理矢理連れ出してきたのだ。」
俯くアルテナの顔が一層暗い表情に染まっていく。
「もしかして権力を笠に着て無理矢理婚儀を申し立ててるとかそんな感じの話かしら?」
「…ああ。その通りだ。何分王都の中でも大きな発言力を持つギルガム公爵の嫡男でダルトン殿というお方だ。我々も無下に断ることも出来ず、こうしてギルガム領にあるこの男の別荘へと向かっていた最中だったんだ。」
「ほう、そいつは俗に言う貴族というものか。その割には鍛え方が足りん軟弱そうな男だ。」
「まぁ軟弱?というか単純に肥え太っているだけじゃないかしら?」
「フ…
「いやいや、お貴族様の腹をそんな惜しげもなく捲り上げちゃ駄目でしょ!」
「そう…こうだっ!こう…シュシュッ!シュシュッッとッッ!!!うむ…腹直筋も同時に鍛えれば素晴らしい放物線を描く
「
気絶している男の腹で遊ばないで。そしてレイアの話をちゃんと聞いたげて。
「じゃあこの一緒に気絶しているお爺さんは誰?仲間という事は貴方達の執事か何かなのかしら?」
「いいえ。この方はダルト様の執事の方ですわ。レイアの話では過去に数多くの偉業を成しえたとてもお強い方だと窺っていたのですが…突然慌てふためいたかと思えば変な譫言を繰り返しながら急に泡を吹いて倒れてしまいまして…」
「じゃあこの執事のお爺ちゃんは仲間ではないんじゃないの?」
「いや、この方は先の魔王軍との戦でも共に戦った優秀で聡明な御仁だ。今回の件でも色々と手を回してくれてなんとかこの男の横暴を宥めてくれている。」
「え?なんでそんな人が執事なんてしてるの!?というかレイア、貴方も魔王軍と戦っていたってホントなのっ!?」
レイアが腰に差した剣を抜き遠い目で剣先を見つめた。
「ああ。結果は悲惨な結末となってしまったが、こうして命辛々生き延び今は再び機を窺っている…新たな勇者が現れることを祈ってな。」
うわぁ…その待ち侘びてる勇者が目の前の変態半裸男だとは口が裂けても言えない。
そういえばこの子…どこかで見た事がある気がする…
「レイア、貴方もしかして「創生の聖剣」を持つ勇者と一緒のパーティーに同行していたりとかしてないわよね?」
「そんな畏れ多い。俺は先の戦の際、東方方面軍指揮の下で戦っていた。勇者達とは数度会話をした程度くらいにしか面識はないぞ。」
あ、そういえば居たわ。
鼻を伸ばしきった無鉄砲な最初の馬鹿勇者がこの子と話をするなり「想像してたキャラと違う」とか「あの身形で俺っ子キャラはちょっと」とか言って主戦力から外した一人だったわね。
ワタシもその様子をアースガルドから見てたけど、確かかなりの実力者だって国王直々に紹介された剣士だった筈よ。
結局はあのロリコン馬鹿勇者の采配で中央軍とは別の部隊に配置させたとか言ってたけど…その後はあまり知らないわ。
「彼の戦い、各方面軍は見事に魔王の大軍勢を押し留めていたが、やはり魔王の力は強大だったようで肝心要の勇者達が一歩及ばず無惨にも敗退してしまったからな。勇者達と同じ戦場に立って共に戦うことが出来なかった事が今も悔やまれて仕方がない…」
「あ…その…なんかすいまっせん…」
「なぜ貴方が謝る?」
「いやいや、あまり気にしないで。それで?そんな貴方がなぜ一領主の用心棒みたいなことを?」
「俺とアルテナお嬢様は小さな頃から共に育った間柄でな。先の戦い以降、戦況が拮抗状態に戻ってからは再び召集を受けるまでレイティス領のアルテナお嬢様を頼って用心棒として雇って貰っているんだ。俺にも金が必要だからな。」
今まであまり考えてなかったけど、戦いに参加した人達皆が皆兵士とかでは無いのね。
戦いの、しかも敗戦後に生き残った英傑達のその後って案外こんなものなのかしら?
「なんとなく事情は察したわ!じゃあちょっとミコトと二人で少し話があるから二人は暫く閑談でもしてて頂戴な。」
いや、一応此れでもワタシ、「美と豊穣の女神」だからね?
同性の一人や二人、見惚れさせて思考を低下させるくらいは朝飯前ってなもんよ!
其処、自分で言うなとか言わないで。
え?ミコトの真似してルビ振りを増やすなって?いいじゃない!このくらい!
『ちょっとっ!ミコトこっちに来なさい!集合よシューゴー。てかアンタいつまでその豆食べてんのよっ!』
「
『アンタは農家のお婆ちゃんかっ!!其れよりもミコト!この二人…特にレイアと出会えたことは僥倖よ!』
「僥倖?確かにあの上腕二頭筋と上腕三頭筋のキレは女性ながらに目を見張るものがある。あそこまでの仕上がりを得る為に眠れぬ夜もあっただろうに…」
『いや、そんな夜は知らないからっ!とにかく今は二の腕の事は置いておいてレイアについての話をしてるの!いい?ワタシの見立てではレイアは恐らくこの世界の勇者候補…英雄と呼ばれる者達と並ぶ程の才覚を持つ者だとワタシは睨んでいるわ。』
「ほう。俺の様に異世界から招かれた者以外の、この世界の人間でも勇者と成りえるのか。其れは中々に観察しがいのある
『アンタはどうやっても筋肉の話に持っていこうとするわね…いいことっ!レイアは言わばこの世界の勇者候補よ!そして再び魔王と戦おうと虎視眈々と機会を窺っているわ。だったら、レイアといれば積極的に他の勇者達の情報も入ってくる筈っ!そう思わない?』
「確かにそれは間違いないだろうな。」
『ワタシ達の当面の目的は残り六人の勇者と合流する事よ。だから此処はどうにかしてレイアと共に行動できるようになった方がいいとワタシは思う訳よ!』
「俺もあの上腕二頭筋と上腕三頭筋が更なる美しさへと昇華される様を見てみたい。ベクトルは違うがアルテナも更に磨きをかければ新たな美の境地を垣間見る事が出来るかもしれない…」
『いや…それはワタシにはよくわからないけど…』
「そう囁くんだ…俺の
貴様は公安某課のサイボーグか。
「
ちょっと、というか大分ミコトとワタシの考えが乖離している気もするけどミコトが乗り気になっているのはとても助かるわね。
其れにレイアなら他の六人の勇者達に比べてより勇者らしい素養を兼ね備えている筈。
最悪、他の勇者が使い物にならないようでもレイアがいてくれれば他の勇者を補っても余りある程に強力な戦力になる筈よっ!!
そう囁くのよ…私の女神の勘が。
更にミコトのあの変態的且つ未知数の力が加われば…
フッフッフッ…どうやらワタシにも運が向いてきたようね…
「ねねね♪お二人さんお二人さんっ♪」
ここぞとばかりに
「なっ、なんだ急に藪から棒に…」
「ワタシ達もね、実はレイアと同じで魔王討伐の為に機を窺っていたところなのよ。どうかしら?目的を同じくするワタシ達も一緒に居れば少しは力になれる筈よ!」
二人は顔を見合わせて暫く考え込んだ。
「俺は別に構わないが…衣食住の面倒までは見きれないぜ。アルテナお嬢様はどう思う?」
「そうですね…私も令嬢と言われていても其れ程立場が高い訳ではありませんし…お力になるにしても先ずは父に相談してみないとお返事できません。」
「領主様は人選に関してはあれで中々聡いお方だからな。なんの功績も恩義もなければ話すら聞いてもらえないぞ?」
「じゃあこんなのはどうかしら?この男の館とやらの行き来の間、ワタシ達もアルテナちゃんを護衛するわっ!勿論、アルテナちゃんの貞操も含めてワタシ達がこの男の魔の手から守ってあげましょう。」
「この機会を狙って自分達を売り込むアピールタイムって事か。中々良いじゃないか。俺は嫌いじゃないぜ!そういうの。」
「アピールタイム…僧帽筋が騒つく良い響きだ…」
約一名全く違う事を考えている様だけどまぁいいわ。
今までのミコトを見る限り、何かあれば素っ裸になってどうにかしてくれるでしょ。
「そゆことよっ!其の上で今後の事を話するってのはどうかしら?」
「それならば是非っ♪ダルトン様は二泊程の間と言ってましたし、その間にお二人のお話も色々と聞きたいわ♪」
ミコトと話すと筋肉の話しかしないと思うのだけど良いのかしら?
「それじゃ、さっさとこの男の館に向かいましょうかっ!行くわよプラッツ!let's go!!」
「GYAOOOOッッッ♪」
なんだか女神であるワタシがこの物語を進めている感じになっちゃってるけど…
細かい事は気にしないわっ!
そうして、新たなメンバーが加わったワタシ達一向は青空の下、気絶した男の館へと向かって行った。
裸身勇者〜強敵が現れたら『倍化』の力でパーティーメンバーの服も剥き出して全身全霊のナイスバルク!!〜 スバルバチ @subarubachi
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