私はあなたを、あなたは彼を、彼は誰を愛するの?

ぷんつけ

第1話 あなたしかいないのよ、私には

私は、紫瞳(むらさきひとみ)。

正直言って、美人だ。

これは、主観的な判断ではなく、客観的な判断だ。

昔から、可愛い、可愛いと言われて育ったし、小学生の頃は、瞳ちゃんの家に遊びに行こうツアーなるものが、クラスの男子生徒の間で開催され、クラスの女子の9割方から無視されたという、もらい事故のような目にあったことがある。


が、モデルや女優として生きていけるほどの美貌はない。


私は、紫瞳(むらさきひとみ)。

正直言って、賢い。

これも、主観的な判断ではなく、客観的な判断だ。

教育熱心な家ではなかったため、中学受験をすることはなかったが、中学受験をするクラスメイトよりも、テストの点数は良かったし、飲み込みも早かったと思う。中学校でも、成績は常に学年上位で、難無く県内トップの高校に進学した。


が、中学校生活の間に1度も学年1位をとったことはない。


私は、紫瞳(むらさきひとみ)。

そろそろ、お気づきかもしれないが、私はおしい女だ。

何事も突き抜けることができない。いつも、上がいる。

良く褒められるけれど、自分が1番わかっている。

上には、上がいて、私はその人達と比べられると褒められたものではない、と。


それでも私は思い続けている。

何かで、1番になりたいと。この自分の、突出はしていないが、平均的に高い能力を掛け算して、何か1番になれることはないのか?と。

高校に入学してはや2年。私は、ついに高校生活最後の年になってそれを見つけた。


それは、学校1、頭脳明晰かつ容姿端麗な男である、山形翔(やまがたしょう)の恋人になることだ。


恋愛という部門では、私は1番になれるのではないかという自負がある。

一般的に、男性は自分よりも賢い女性を好まない傾向にあるらしい。かと言って、何も物事を知らない女性も困りものだろう。つまり、中途半端な私の賢さが、逆に強みになっている。

それに、美人すぎないのもいい。美人すぎると高嶺の花になってしまい、近寄りがたいと思われてしまう。気兼ねなく、会話することができるそこそこの美人。

うん。どこかのアイドルのコンセプトに近くて、完璧だ。

そして、何より私は客観視できる能力に長けている。

客観視できるということは、恋愛において最強の武器だ。

相手が何を望んでいるか、が手に取るようにわかる。「彼氏が何を考えているのかわからない。」なんて言う、女子の気持ちが私はわからない。


ただ、唯一の懸念点が、私の恋愛経験の乏しさだ。

私は、これまで自分の恋愛市場価値が下がることを恐れて、誰とも付き合ってこなかった。中学時代の恋人なんて、作るだけ時間の無駄。高校には、もっといい男がいるはずだ。その私の考えは半分正解で、半分不正解だった。なぜならば、私は山形翔よりも良い男にこれまでの人生であったことがないからだ。


山形翔は、謎の多い男だ。

彼とは中学の頃から同じ学校で、学年1位を取れなかったのは、ほとんど彼のせいでもある。校外模試でも、県内1位をとったことがあったことがあり、どうも彼は都会の全国的に有名な高校に進学するらしい、という噂が立っていたにも関わらず、なぜか普通に私と同じ高校に進学した。

無茶苦茶モテるにもかかわらず、彼女がいた気配もない。

かと言って、女の子に興味がないわけではないらしく、よくクラスの人気者の男子達と下ネタを喋っては盛り上がっていた。

クラスの女子達が、「彼の下ネタは、官能的な詩のようね。」と訳のわからない称賛を送っていたことは今でも記憶に残っている。

誰に対しても、平等に優しく、明るい。それでいて、時に寂しそうな目で遠くを見つめてたりするところなんて、クラスの他の男子が同じ性を所持している生命体だとは思えない程、山形翔の存在は際立っていた。


山形翔の彼女になれば、私は少なくとも高校1良い女になれる。

いや、全国的に見ても、山形翔のような良い男は少ないと思われるため、全国レベルの良い女になれる。


これまで、何にも1番になれることができなかった私。

中途半端に能力があるが故に、1番になれるかもしれないという無責任な希望を抱かされ、その後、結局なれないという絶望の底に突き落とされて来た私。

もう、そんな惨めな思いをするのは嫌だ。

これまで、ずっと考えてきた。どうすれば、1番になれるのかを。

そして、高校生活最後の年になってようやくその方法が見つかった。

そう。私が1番になるという夢を叶えることができるのは、



「山形翔。あなたしかいないのよ。」





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