第19話 精霊王の一族
「ノワール……!」
消える。
「っ……!」
……消えた。
「…………」
なんでだ。どうして……。
「…………、……わ、わたくしの騎士を無事に送還させたのよ……」
「…………」
「お、お父様! これでわたくしが聖女よね!? ね!」
「お、おお! そ、そうだな! お、思いの外、予想外の送還方法ではあったが……これで問題はない! ちゃんと最後の試験を終わらせたのだからな! ああ! ジェニファ! お前が聖女だ!」
冷たい床。
初めて人前で泣いたかもしれない。
後ろで繰り広げられる茶番に、拳を握りしめた。
「っ——……」
わいのわいのと、盛り上がる。
この醜悪な感じ。これで精霊と心を通わす聖女だと?
ふざけるな。なに、勝った気でいる。
おれは、まだ……負けてない。諦めてない。
ノワールが望んでくれたんだ。簡単に諦めてなるものかよ。
「さあ、精霊たちよ新たな聖女が選定された! その声を聞き、我らの声を届ける我らの聖女だ! 新たな聖女に祝福を!」
神官が叫ぶ。
広場に光が舞う。まるで雪のようにしんしんと降ってくる。
それらは小精霊。
でも、その中に大きな色のついた光の球がいくつか降ってくる。
……あれは?
『認めない』
『わたしも認めない』
『否、否、否』
『やり直しを要求する』
「……なっ、なんですって!?」
「…………」
大きな光の球が喋った。
あれも精霊なのか。
他のよりデカくて……それからなんかすごそうな感じがする。
立ち上がって天井に浮かぶそれらを見上げると、その中で一際でかい白い光がおれの方へと漂ってきた。
『ルウを聖女にしなかった理由はなに? なぜ? なぜわたくしの子らが選んだ娘を弾いたの?』
「え、な、なん……こ、子ども……?」
『そうよ。精霊騎士はみなわたくしの子どもたち。聖女選定を行う際に、聖女に相応しい者を審査させていた。けれど……今回は特にひどい。これまでは目を瞑っていたけれど、今回お前たちはわたくしの子……ノワールに
「……な、な……っ、なにを、言って……? だって、精霊は怪我をしても精霊界に戻れば治るって……」
え? そ、そうなのか?
じゃあノワールは、大丈夫なのか?
胸を貫いたけれど、精霊界に戻ったから無事なんだろうか?
でもこの大きい光の球——女の声がする——は、ノワールが本当に怪我をした、って……。
「なあ、なあ、あんた! あんたノワールの事知ってるのか! 大丈夫なのか!? ノワールは……死んでない!?」
『……残念だけれど、少し危険な状態です。精霊騎士は人間界に行く時に試験で戦う事がある。その時に殺してしまわぬように武器に魔法をかけます。でもそれは、他者を傷つけない魔法。自分自身には適応されないのです。そんな事は想定していなかった』
「!」
ノワールは、さっき自分自身を剣で刺した。
……他者を傷つけない魔法。でも、自分には適応されない。
そんな事は……想定されていない。
そりゃそうだ、聖女選定で精霊騎士同士を戦わせる試験はあったけど、精霊騎士が自分で自傷して精霊界に帰ろうとするなんて誰が想定する?
ノワールはそこまでしてジェニファの聖女決定を拒否した。
おれに、なって欲しいって……言ってた。
体が震える。
熱い。どうしていいか分からない。
いろんな気持ちがぐちゃぐちゃになってる。
また涙が溢れてきた。
ああ、くそう!
『その想定していない事が起きた。起こしたのはお前たち』
「な、なにを……わ、わたくしが聖女に相応しいから、今度こそ正しく選定したのよ! なぜ何度もわたくしを否定するの! 今度こそわたくしを聖女に認めなさい! いつまで聖女不在にさせるつもり!」
「ジェ、ジェニファよ、まさかまた、精霊たちはお前を否定するのか? おお、なぜだ精霊たちよ……! ジェニファには精霊の声を聴く才能がある! 対話も出来る! 今、このように! なのになぜ否定する? なぜ受け入れない? ジェニファのなにが不満なのだ!」
……親父の神官は精霊の声が聴こえないのか。
そしてあいつ、ジェニファ……この試験が初めてじゃねぇのかよ!
多分ジェニファの奴が変な事を吹き込んで何回も受けてるんだな、聖女選定を。
いや諦めろよ! 聖女選定なんか何回も受けるもんじゃねぇだろ!
どんだけなりてぇの聖女に!
こんな、こんな小汚い事までして!
『イヤだわ。またあんな事言ってる』
『あたしらは友人が欲しいのであり、
『何回言っても聞き分けがない娘じゃな』
『弟にあんな怪我をさせた女をわらわたちが受け入れると思うておるのか? なんたる醜悪! 恥を知れ!』
ほら見た事か! めちゃおこじゃねぇか!
……ん? 弟?
あの一際でかい白い球は母親で、色とりどりの大きめな球は姉たちなのか?
友達が欲しい?
……聖女って精霊たちのお友達選定って事だったのかー!?
っていうか、弟!
ノワールの? ノワールの姉貴たち!?
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