第14話 女官の本性
うーん、おれは一体どうなっちまったんだ?
腕を組みながら、ようやく木から降りた頃には空は茜色。
「ん?」
「……」
顔を上げると、庭の前でおれ担当の女官がいた。
あー、そういえばこの人に呼び止められたような気がする。
最近試験受ける広間までついてきてくれてるみたいだし……なんかごめん。
「悪ぃ、待っててくれたのか……?」
「は、はい。…………、あの、精霊騎士様は……?」
「ノワールは、部屋に戻ってもらってて……」
「そ、そうですか……」
「もしかして、まだ怖いのか?」
「…………。、は、はい。ああ言ってくださいましたけど、やっぱりまだ、闇の精霊様のお側はなんとなく怖くて……」
「…………」
そういえばこの女官は、ノワールが闇の精霊だから怖がってたな。
闇の精霊は災いをもたらすとかなんとか……。
ノワールは否定してたけど。
「けどおれみたいな田舎者も、あんたはやなんじゃねぇのか?」
「いえ、いえ、あの、でも今までの試験結果を見る限り、
「そっかァ……」
最高にたくましくていいと思うわぁ……。
「でも悪ぃんだけど、おれ、聖女になる気はねぇんだよなぁ」
「ええっ! な、なんでですか! なってくださいよ! 私の出世と安泰の生活のために!」
わあ、この人意外とすげえ人だったんだな……。
このたくましさ、嫌いじゃねえ。
「私は下級貴族の末娘で……ここに放り込まれたんですけど!」
え、突然の身の上話?
それ聞かなきゃダメなやつ?
「いじめが、すごいんですよ……ココ……」
「…………」
顔が…………迫真……。
でもなんとなくそんな気するわ。
「下級貴族の末娘なんて、役に立たないだろうってオッサン神官に呼び出されて体触られたり、夜ベッドに呼び出されたり。それをなんとかやり過ごしても先輩女官たちに毎日ネチネチいびられるし、今は聖女候補のお世話でだいぶマシですけど……フィーネ様の食事はいつも残飯しか渡されません」
「え、そうだったのか?」
「本当に気づいてなかったんですか!? あの人たち、『
「えぇ……そりゃなんかひでえ話だと思うけど……マジで気づかなかったわ」
「おぎゃー!」
つーかおれもなかなかやられてたのか。全然気づかなかったぜ!
そんですげぇ、叫ばれた。
相当色々溜まってるんだろうなぁ、この女官。
「悔しいと思わないんですか! そこまでされていて!」
「腹は立つけど今更だし。ただで飯食わせてもらってんのに文句は言えねぇし」
「これだから平民は!」
「うんまあ、そうなんだよ。だから聖女なんでおれぁがらじゃねぇから、やりたくねぇ。無理だろう、どうせ」
「そ、そんな事言わないでくださいよ! あいつらにギャフンと言わせたいんです! なってくださいよ、あなたが! 聖女に!」
「…………」
がばりとすがりつかれても——……。
「…………よく、分からん」
「っ」
「だっておれはただの田舎娘で、平民で……取り柄もなくて、女らしさもなくて、嫁の貰い手もねぇと言われてきて……それなのに突然聖女になってくれとか言われても……」
分からない。
他の聖女候補が聖女に相応しいかと言われれば、おれだって首を横に振る。
あいつらは相応しくねぇ。
でも、じゃあおれが相応しいのかというとそんな事もねぇだろう。
聖女ってのは精霊と心を通わせる神聖な存在。
「なら! 聖女っぽくなりましょう!」
「は、はあ?」
「今からでも間に合います! これから聖女らしくなればいいんです! 私がお手伝いしますから! つけ焼き刄でもないよりましです!」
「そ、そりゃあそうかもしれねぇけど……え、ど、どうするんだよ!」
「まずは見た目! それからその言葉遣いを直しましょう! すぐには直らないと思いますし、とにかく明日の最終試験に受かれば晴れて聖女様です! 私の復讐のためにもぜひ頑張って聖女様になってください!」
「し、私情!」
「私情に決まってますよ! 当たり前でしょう!」
いっそ清々しいなぁ!
「……け、けど! おれなんかが、聖女らしくとか……」
「なれます!」
「っ……」
聖女——イメージは、清楚で可憐でおしとやか。
ヴェールで覆われて優しげに微笑んで花畑の真ん中に座って、精霊と楽しげに語り合う。
そんな、そんなものに……おれが……。
「無理無理無理! なれるわけねーよ!」
「演じるだけでいいんですよ!」
「え、演じ……」
そ、その手が……!
っていやいやいやいや! おれが演じるっつったってねぇ!
出来る気がしねーよ!
「で、でも……」
「でももだけどもしかしもとにかくまずはやってみてから!」
「…………」
こ、怖い……。
こいつ、本当こういうやつだったのか……。
「ふふふ、ここまできたら私の担当聖女候補を必ず聖女にして、私を虐めてバカにしてきた奴らに一泡吹かせて踏みつけてやるのよ……ふふふ、ふふふふふ」
「…………」
…………たくましい…………。
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