第2話 望まぬ再会

今日は土曜日。休日だ。

まぁ、最近の俺の生活は、ほぼ休日に等しいぐらい暇が続いているため、普段とは差ほど変わりがない。

俺は、いつものように使用人を呼ぶ。

書斎部屋に紅茶と菓子を持って来い、と。

だが、その要望はすんなりといかなかった。

「ご親戚のすぐる様が来客しており、お父上様から面倒を見てやれとの伝言です」

そう言うと、一礼して使用人は去った。

親戚の優は、俺より16も年下の従兄弟だ。

面倒を見てやれと言われても困る。

何しろ、俺は子供が大嫌いだ。

すぐ泣くわ鬱陶しいわで喧しい。

あぁ、困った……どうしたものか。

その時、ふと思い出したことがあった。

渡部千代だ。

千代は、子供が好きだと言っていた。

ならば、千代に面倒を見てもらえば良い。

なんだ、簡単な問題じゃないか。

俺は、スマホを手に取り番号を打った。

緊張はしないが、少し複雑な気分だ。

別れた女に、また会おうなどと馬鹿げた話。

「もしもし、千代か?」

少したってから返事が来た。

『うん!私だけど、どうしたの?』

元気な明るい返事。

その元気は一体どこからくるのか知りたい。

俺は、必要な事だけを述べた。

すると彼女は、悪怯れることもせずに、

『分かった、じゃあ西宮駅で待ち合わせね』

そう言って、電話を切った。

懐かしい声だったが、胸がざわつく。

この感じ、やっぱり嫌いだ。

少しだけ俺は黙っていた。

……あぁ、狂う。

「優、少し落ち着こうな?」

電車に反応してはしゃぐ優。

相変わらずうるさい子供だ。

手を振って走ってくる少女が見えた。

さらさらのショートヘアに、見覚えのある鞄を肩に掛けた少女。やはり千代だ。

ゼーハーゼーハーと、息を切らしている。

「ご、ごめバス、遅れて……けほっけほっ」

流石の俺でも心配するほどの咳をする。

いや、そこまで急がなくても怒らないぞ?

「おねちゃ、だれ?」

すると、俺の服の裾を掴んで優が警戒した。

初めて見るし、この咳と息切れだ。

そりゃ、まぁビビるだろうな。

「初めまして!私、渡部千代って言います、好きなように呼んでね~」

息を無理矢理調えて、優に挨拶をする。

俺とは、目を合わせて微笑むだけ。

俺も気まずいので非常に助かる。

「ちーちゃ?……僕、優。平泉、優」

少し打ち解けたのか優も自己紹介をした。

良かった、案外上手くいきそうだ。

早速、優の行きたがってたレストランに行くことにした。

こう見ると、どこかの家族だな。

実に不快だ。

信号待ちで俺はスマホを開く。

親父からメールだ。

『そっちは上手くやっているか』

だそうだ。本当に嫌味ったらしい男だ。

俺は、実の父親が大嫌いだ。

「優くん手、繋ぎたいの?いいよ」

そんな声が隣から聞こえる。

俺は、返信をテキトーに済ませた。

その時だった。

優が渡っている横断歩道に、赤信号で来れない筈の車が物凄い勢いで突っ込んできた。

「ダメっ、優く__」

そう言って、優の方に飛び出す千代。

直ぐに優を抱き抱え俺の方に投げる。

思考回路が止まりそうになった。

優は、俺が奇跡的に受け止められた。

__が、その瞬間。

「よし、ナイスキャッチ!」

彼女の身体が軽々と宙に跳び跳ねた。

……ズドン。

優を受け止めた瞬間、不吉な音がした。

俺の身体が異常な速さで脈を打つ。

息が、呼吸が乱れる。

人が、目の前で跳ねられた。

そうではない。そのことではない。

彼女は、彼女が跳ねられる直前。

俺の方を向いて微笑んだのだ。

それから、何かを覚悟して車に目を向けた。

俺は、暫く立ち尽くしていた。

動くことが出来なかった。

周りの人間が警察、救急車に電話していた。

……結果、俺は何も出来なかった。


「ちーちゃ……?ちーちゃは?」

俺は、優を安心させるために手を握る。

否、俺が落ち着くためかもしれない。

関係者として、救急車に優と乗った。

死んだら、俺が責任者か……?

こいつの家族に、事情を話すのか?

……俺は、どうすればいい?

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二度目の初恋 並風みなみ @Namikaze373

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