二度目の初恋

並風みなみ

第1話 過去の記憶

遡るは二年前。

俺は、彼女と別れた。

それも最低な別れ方だった。

俺が在り来たりで理不尽な理由を付けて、別れ話を切り出す。すると、相手は笑えるほど必死になる。

それは、毎度変わらない出来事だった。

だが、二年前に別れた彼女だけは、何故か反応が違ったのだ。

彼女__渡部千代わたなべちよは、人間の心理を疑うほどの、普通ではありえないような別れの受け止め方をしたのだ。

『そっか……悲しいけど、元気でね』

そういって、清々しい笑顔を見せたのだ。

その一言が今でも脳裏で木霊すのだ。

どうして焦らなかったのだろう。

もしかすると、痩我慢なのだろうか。

でも、彼女の笑顔からは感じられなかった。

怒り焦りも、これから始まる筈の孤独感も。

何一つ、感じられなかったのだ。

だが、俺にとっては都合の良いことだ。

あっさり別れてもらえれば、時間を無駄にすることもないだろう。

無論、その時の俺にも今の俺にも罪悪感などこれ一つとして存在しない。

女は、心を穴埋めるための道具なのだ。

親父は、俺に言い聞かせた。

母は、聞いていないフリをする。

俺は、その冷たい光景を無いものにする。

須賀原家は、心すらない冷たい家だ。

何の不自由もない裕福な冷めた家庭。

親父は、名のある会社の社長で、恥も知らないほど堂々と浮気する男。

母は、俺が産まれて直ぐに育児放棄した女。

親父と母は見合い結婚で初めて知り合ったそうだ。結婚してからも会話を交わすことがなかったと、幼い頃から俺の教育係を務めているに奴に聞いたことがある。

俺は、この状況に馴れてしまった。

……だからこそ、彼女とは別れて正解だったのかもしれない。

千代は、俺の心の奥底を微かに揺らした。

気が狂う前に別れて正解なのだ。

そう思う俺は、ただ醜いだけ。

愛に餓えてるだけなのだとは、思わない。

否、思いたくないのかもしれないな。


そう言い聞かせながら、俺は生活をする。

これから、世界が急変することも知らずに。当たり前の生活をするのだ。

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