第12話 苦労性の結果
さてそろそろ母の魔王軍、その中でも母に次いでナンバーツーにあたる総参謀長についても書いておきましょう。
彼の名はグレンリード、母の弟で私の叔父にあたります。
魔王軍と魔国アルレシャは叔父がいなければ回らないといっても過言ではなく、政戦何れにも長けた有能な方です。
私が生まれるまでは、魔王の継承順位の第一位であり母の後を継ぐ可能性が高かったので、私的には魔王位を狙っているのではと幼かった頃に思ったりもしましたが、
叔父曰く
「魔王なんて気が重い仕事は姉さんにずっとやっておいてもらって、自分は時折やってくる勇者御一行の方々の(罠での)もてなしをやっていたい。」とのこと。
実際魔王城に到達した父のパーティを罠で分断し、徐々に徐々にと罠で戦力を削ぎ、最終的に父以外を戦闘不能に追い込んだのはこの叔父の仕掛けた戦略と罠だったりします。
以前に書いたように、この魔王城の罠一筋縄にはいきません。
前衛をやり過ごして三人目が通った瞬間に起動する罠や、元々触らなければ作動しないが、罠を見つけて解除しようとすると作動する罠など、これでもかと嫌がらせのような罠が仕掛けられています。これらを考えたのがこの叔父です。
前回このことを書いた時は叔父が仕掛け人だとは思わなかったので、
「私よりよほど邪悪なのでしょう。」などと書きましたが、その後にこの魔王城の罠の制作者について色々聞いた結果叔父だと判明したので、前回の記載に関しては訂正します。
「叔父は間違いなく邪悪です。」
あと考えた者の顔を見たいといいましたが、新しい罠を考えている叔父は非常に嬉々として、目を輝かせています。
怖い。
というわけで叔父は非常に嬉々として日々勇者一行に対して仕掛ける罠を考えています。
中にはそれ意味あるの?という罠も含まれていますが、まぁそんなもんです。
一例をあげると、踏んだら猫の鳴き声がニャーと鳴く罠。
それって罠なのか?というかいりますそれ?
ちなみに一回踏まれるとその信号が魔王ネットの総参謀長のページにリンクしており、つぶやきに「にゃー」というつぶやきが投稿されます。
…いや、どう考えてもいらないでしょその機能。というか魔王城内で猫の鳴き声がしたってどういう風に対応しろというんでしょうかね。
叔父的には、「猫の鳴き声がした、猫はどこだとさらに一歩踏み出すと、その先の床に頭上からタライを落とす罠を仕掛けておいて、タライを落とす。そのタライを見上げて気が上を向いた瞬間、一拍遅れで直下の落とし穴が作動し、侵入者をバランスを崩させ落とすという二連式の罠考えたぜ」って感じだったそうです。
それ単純にタライと落とし穴だけでいいんじゃ…と思った貴方。
魔王の娘から同意ポイントを1ポイント差し上げます。
我が叔父ながらこの人は馬鹿なのか天才なのかよくわかりません。
いや、馬鹿だったら私の国はとうに破綻しているはずなので、馬鹿ではないのですが、罠に関してだけは馬鹿だと言い換えるのが正しいかもしれません。
そんなこんなな叔父ですが、さすがにあの母の弟であるだけあって、かなりの苦労性です。
魔王の補佐役といえば聞こえはいいでしょうが、実際には魔王の母が広告塔で、国を回しているのは叔父とその配下の高級官僚(テクノクラート)です。
魔族だから魔王一人で国を治めているんだろうと考えている方もいらっしゃいますが、そんなことしたら魔王は真っ先に過労死です。
勇者が封印に来る必要なんてありません。
隣国との外交、市場の食物の値段設定、ごみの回収を行う魔物たちの給与計算、そんなものまで一人でやっていたら魔王と雖も半年も持ちません。
そういったことを叔父とその配下が行っていますが、その最終決済はやはり魔王が行わなければなりません。が、この魔王知っての通りそこそこ天然かつ気ままな性格をしている部分があり、書類が溜まってくると転移魔法でしれっとどこかへ逃げる時があります。
結果決済が滞って叔父たちが慌てふためく羽目になります。
そういう事が続いた結果魔王が逃げないように、監視と移動妨害の罠を執務室周辺に仕掛けたのが叔父の罠人生の始まりです。
うん。完全に母が悪いですねこれ。
母の気ままなふるまいは娘の私もよく承知しているので、本当に叔父にはお疲れ様ですという言葉しかありません。
そうして始まった母と叔父の罠を仕掛け、見破りのイタチごっこの結果、魔王城の罠のバリエーションと規模は過去最大レベルに達しました。
なので実は「対勇者用」よりも「対魔王用」の罠のほうが多かったりします。
無論勇者に対しても起動するのですが、なんというか通常の罠では魔王へはダメージが入らないので攻撃力がえげつない罠が混じってたりします。
ちなみに父のパーティ壊滅の齟齬の原因になった前衛さんが踏んだ罠はこの対魔王用罠の一つです。
なので通常の罠なら応急処置用の魔法やなんかで対応ができたのが、この罠はダメージが大きすぎ、よほど高価な回復ポーションなどでないとどうにもできず、パーティ離脱の原因となりました。
叔父的にはそのもう一個先にあった勇者用の罠を踏んでほしかったようなのですが、そちらは残念ながらスルーされてしまい、日の目を見ることなく終わりました。
ともあれ本来はとても有能ですが、母のせいで苦労性と罠に目覚めて変な方向へ全力で尖ったのが我が叔父の総参謀長です。
今日書くのはとりあえずこれだけ、叔父の面白いエピソードはまた今度書くことにします。
魔王と勇者の間に生まれた娘ですが 自分のアイデンティティを探して旅に出ます @kai6876
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