第5話 桃之井惟の底力②

 明くる金曜日の1時限目。


 朝のSHRが終わり次第集まり出した生徒も、1年生だけで悠に200人近くに達する。

 天気は快晴。まさにスポーツ日和である。


「――それではこれより、クラス対抗1年生スポーツ大会を開催します!」


 そして体育委員長の威厳ある一言により、ついに決戦の幕が切って落とされた。

 ただし惟の出場するのはソフトボールの第二試合であり、第一試合の進行によりけりだが、30分から1時間近くは待機の時間である。この時間を使って各チームはミーティングを行い、またアップ等をして体を温める。それはまた惟たちD組も例外ではない。


「じゃあ皆一回軽く走ったり柔軟したりしておいて。その後ミーティングして、また試合直前に全体で練習するから」


 ソフトボールリーダーの指示に、周りにいる選手がコクリと頷く。


「何をここまで本気になっているんでしょう、この人たちは……」


 約束通り一応応援に参加するつもりで来ていた直美は、グラウンドと校舎とを繋ぐ道、その傍らに立つ桜の木の木陰で、チョコンと小さく体操座りをしていた。

 もともと背丈が大きい訳ではないために、その様は実に幼く可愛らしげに映る。


「そうしているとあどけない子どもみたいですね、足柄さん」


「桃之井惟さん、ですか」


 直美は振り返ることなく、正面を見つめたまま返す。と言っても試合風景など一切見ておらず、視線はただ虚ろに青空を捉えている。


「どうしたんですか、こんなところで。あまり楽しそうには見えませんけど」


「あなたの応援に来てるんですよ。昨日あれだけ応援に行くと言ってしまいましたしね。……まさかこれほど退屈だとは思わなかったですけど。それは楽しくないわけですよ」


「あー、それはまあ……そうですね……」


 惜しげもなく毒づく直美に、惟は「あはは……」と苦笑いを溢す。


「……あの、それでさっきは何を呟いてたんですか? その、本気がどうとかって」


「ああ、それはですね、どうしてこの人たちはここまで本気になれるのかって思ったんです。こう言ってはあれですけど、たかがスポーツ大会ですから。……? どうしたんですか、そんな顔して?」


 問われ、少し呆けてしまっていた惟は、


「あ、いえ、足柄さんでもそんなこと言うんだなって思って。足柄さんってものすごく真面目な優等生ってイメージがありましたから」


「……あのですね、私だって時には息抜きしたいときもあれば面倒になることもあります。常に真面目でいるなんて無理ですよ。それに勉強は好きですけど、運動は基本的に好きではありませんから」


「なるほど。足柄さんも人間だったってことですね。まあ、少しは気付いてましたけど」


 ふふっと微笑む惟に、直美は「何ですかそれは……」と呆れて溜め息を吐いた。


「でも、私も分かります、足柄さんのその気持ち。ご存じの通り運動神経悪いですから、私も。だけど、他の人の気持ちも多少は分かるんですよ。スポーツ大会だけでも活躍したい、良いところを見せたい。いや、もしかしたらスポーツ大会だからこそってのもあるかもしれません。運動が得意で、逆に勉強が苦手って人もいますからね。そういう人たちにとって、スポーツ大会はまさに格好の見せ場なんですよ。――どうですか? 少しは参考になりますか?」


 覗き込むように尋ねられ、直美は皮肉っぽい笑みを浮かべる。


「いや、さっぱり分からないですね、やっぱり」


 すると惟も諦めたように吐息を吐き、


「ですよね。私もそんな気がしてました」


 と困り眉をした。


 と、


「あっ、いた。桃之井さん、そろそろミーティング始めるよ」


「あ、うん。分かった!」


 グラウンド脇にある倉庫の方からやってきた少女が惟に声をかけた。


「あれ、足柄さんもいたんだ。応援に来てくれたのかな? ありがとう」


「いや、いえ、成り行きですから……」


 笑顔を向ける少女に、直美は目を逸らしつつ答える。明らかに仰々しいというか、明らかによそよそしい。


「もう行くから、先行ってても大丈夫だよ」


「オッケー、分かったー」


 そうこう惟と会話を交わし、少女は倉庫の方へ戻っていく。それを見送った惟は、溜め息混じりに振り返った。


「もしかしなくても誰か分からなかったとかですか。一応彼女は学級委員なんですけど」


「……悪かったですね」


 直美は拗ねたように口を尖らせ、惟は「別に悪くはないですけど……」とまた苦笑いを溢した。


「まあ、良いです。じゃあ私は行きますね」


「ええ、どうぞ」


 去り際、惟はニコッと笑みを湛え、


「期待してますね、足柄さんからの応援!」


「……!」


 直美は思いっきり面食らって顔を赤くした。


 ・ ・ ・


「さあ、みんな絶対勝つよ!」


「「「おぉー!」」」


 円陣を組んだ惟たちは、さながら高校球児のように雄叫びを上げる。


 先の試合。時間にして53分。A組とE組の戦いは、4-7でE組の勝利となった。そしてまさに今、第二試合、D組とF組の戦いの火蓋が切られようとしているのだ。


「整列!」


 審判役の体育教師の号令により、DF両チームメンバーがホームベース付近に並ぶ。その数計20人。


「これより、D組とF組の試合を始めます。――礼!」


「「お願いしまーす!!」」


 お互いに頭を下げ、そしてそれぞれ攻撃と守備に入る。D組は後攻で、惟もレフトに入った。


 木陰にいた直美も、整列とともにグラウンド脇に移動。他のD組の応援メンバーの中に形だけでも加わり、静かに試合開始の瞬間を待つ。


 直美の目線の先、ピッチャーが数球の投球練習をする間、野手も互いにキャッチボールや捕球練習を行うのだが、キャッチングがネックであった惟も、練習の甲斐あってか上手くキャッチボール出来ている。また、もともと良かった送球も見るからに調子が良さそうである。


「これは私の応援がなくても上手くいきそうですね、全く……」


 直美は呆れの混じった安堵の吐息を溢す。


 しかし、現実はそんな予想のように順調にはいかなかった。


 初回両チームともに何事もなく終わり、まず2回裏。惟の第一打席。ツーアウト2塁でD組、先制点のチャンス。


「桃之井さん、打てー!」クラスメイトの声援を受け、惟は昂る気持ちを抑えて打席に立つ。


 バットを握る手にも自然と力が入り、第1球、外角低めストレートを空振り。


 第2球目、真ん中低めのストレートを見逃し。ツーストライク。


 第3球目、はたして外角高めのストレートを空振り。3球三振に喫し、先制とはならなかった。


「ドンマイ、桃之井さん。切り替えて守備しよう!」


 仲間からの声かけに、打席から帰ってきた惟は僅かに陰りかけた表情で「う、うん……」と頷く。


「まだ最初の打席だったからしょうがない」


 惟もクラスメイトも直美でさえも、そう思った。


 そして、翌3回表。ピンチの後にチャンスあり。F組にとっては流れからして先制を狙えるまたとない回である。


 さて、F組の攻撃。先頭打者を難なくアウトに打ち取り、ワンアウトランナーなし。


 次の打者を迎え、第2球目。


 真ん中高めに浮いたボールは、快音を響かせてレフト方向に高く上げられる。



「オ、オーライ……!」



 咄嗟に一歩後ろへ動き、そこから前進してくる惟。打球は浅く、伸びもない。



 残り3メートル、2メートル、……。



 捕れることを確信し、惟は僅かに頬をほころばせる。



 ――捕れた……!



 が、しかし。



「あっ!」



 落下地点には入れたものの、ボールはグローブの土手に当たり、前へ放逸した。

 急いで転がるボールを拾い上げ、顔を上げる惟。だがバッターは、すでに1塁を回っている。


「桃之井さん、内野に返して!」


「う、うん!」


 言われ、懸命に返球するも、遅いかな。中継は間に合わず、2塁を陥れられてしまった。


 結果として、このランナーがタイムリーヒットを受けてホームに生還することになった。3回裏、F組による先制点である。


 そして、この失点を機にして翌4回と5回にもそれぞれ1点ずつ取られ、3点目に至っては惟の送球ミスが原因での失点であった。この事実が惟にショックを与えたのは言うまでもない。何せ苦手だった捕球ならいざ知らず、まだ得意であった送球で足を引っ張ったのだから。


「桃之井さん、大丈夫だから切り替えて。すぐに取り返せるから……!」


 そう励まし慰める学級委員の声も、今は惟の耳には届かない。惟の表情は薄暗く曇るばかりである。


 ただ、これでD組が勝ちを諦めたかというと、そんなはずはなかった。


 5回裏、6番の学級委員から攻撃。相手ピッチャーは二番手に変わったばかりで、明らかに攻め時である。


 その初球。内角甘めに入ったスローボールをアジャスト。打球は鋭く上がり、外野の後ろに設えられた柵を越えていく。



「「ホームランだぁ!」」



「よし!」


 立ち上がって歓声を上げる仲間たちにガッツポーズを掲げる学級委員の少女。


「すごい……」


 これには応援席で眺めていた直美も思わず息を呑んだ。まさしく反撃の狼煙である。


 この波に乗り、続くバッターもライト前ヒットで出塁。


 と、ここで惟に打席が回ってきた。盛り上がるベンチの押せ押せムードも止まることを知らない。


 ふと、一打席目の結果を思い出し、惟の脳裏に微かに不安が横切りかける。しかし、みんなは信じてくれている。ならばと、その不安を振り払うように頭を振り、バットを強く握る。



 ――打てる。絶対に打てる! だって、あれだけ練習したんだから。それに、みんなの期待も背負ってる。ここは意地でも打つんだ!



 そうして、ワンボールからの2球目。低めに来たボールを振り抜いて、



「当たったっ!」



 打球は少し鈍い音とともにピッチャーの横をセンターに抜けていき、



「……!」



 いや、抜けていかず、ショートがシングルハンドで処理し、そのままセカンドベースを踏んで一塁に送球。あっという間にダブルプレーになってしまった。


「「あぁ……」」


 落胆の声が広がる中、惟は俯いて帰ってくる。


「しょっ、しょうがないよ桃之井さん。F組の二遊間はソフトボール部に入ってるらしいし、あんなプレー普通出来ないから」


「う、うん……そう、なんだ……。でも、私がチャンスを潰したことに変わりはないから」


「桃之井さん……」


 小さな惟の背中に、学級委員の少女はこれ以上かける言葉が見つからなかった。それだけ惟の落ち込みは激しいものであり、また惟の喪失した自信も大きなものであったのだ。


 これまでの頑張りは何であったのか。昨日までの自信は何であったのか。いや、今思えば頑張ったとは言え、そこまで上手くなった訳ではなく、自分で勝手に上手くなったと思い込んでいただけではないのか。そもそもいくら頑張ったとしても自分のセンスでは上手くなるはずもないはずではないのか。直美に信じさせるなんて言っておいて、結局信じてもらえるような実力などついていなかったのではないか。


 そんな自己疑念とでも言うべき自己嫌悪に近い自らへの不信が、これまでわだかまっていたものが一斉に解き放たれたように、惟の頭の中に怒涛のように押し寄せていた。


 そして、その落胆ムードのまま、5回裏の攻撃が終わり、6回の表裏、7回の表も終了し、ついに3-1の点差のまま、7回裏最終回、最後のD組の攻撃を迎えた。


「最終回、絶対に諦めずに、最後まで全力で逆転して勝つよー!」


「おぉー!」


 円陣を組み、最後の最後の気合いを入れる。全員の気持ちはただ一つ。即ち、勝利のみ。


 その思いのもと、7回裏の攻撃は4番バッターから始まり、センター前ヒットで出塁。続く5番バッターはファアボールでノーアウト1・2塁になる。ここで回ってきたのが学級委員の少女であり、右中間にタイムリーを放ってあと1点差。なおもノーアウト2・3塁である。


「あと1点で同点だよー!」


 2塁から届く励声に、再びベンチが湧き立つ。


「本当、すごいなぁ……あの人は……」


 足取り重くネクストサークルに向かう惟の瞳には羨望と自己卑下の眼差しが現れ、


「何ですかあの人。運動神経抜群人間なんですか」


 また直美の目には、奇異と幾分の感心が現れている。


 と、その瞬間、どこからともなくザワツキが広がった。


「「……!」」


 その声の向く先を見て、惟も直美も驚愕する。

 何とキャッチャーが立ち上がり、敬遠を指示しているのだ。たかがスポーツ大会のソフトボールに試合においてである。ただそれだけ、F組も勝利を強く望んでいるのだ。


 そして、ノーアウト満塁で打席に立ったのが、惟であった。


「桃之井さん、打ってー!」「桃之井さん頑張れー!」


 ここでシングルヒットを打てば同点。2塁打を打てば逆転サヨナラ勝ちである。だから自ずと、ベンチの応援も応援席の声援も温度が上がっていく。


 しかし、惟は違った。惟だけは、この状況を酷く後悔し、酷く憂鬱な気持ちでいた。



 ――どうせ私は打てないんです。そう……どうせ私は、運動が出来ないんです……。



 かつて、ほんの1時間前にはあった自信も瞳の輝きもここにはなく、あるのは自らの能力への失望と暗きこの試合の結末と直美を謀ることになった自らへの忌避だけ。


 惟を励ます周りの声援の何ものも聞こえず、ただ枯れ木のように打席に立ち尽くすのみ。


 気付けば、いつの間にかツーストライクに追い込まれ、ピッチャーもまた三振に取ろうとキャッチャーとサイン交換をしている最中だ。



 ――あぁ、これで私は打てずに、D組も負けるのかな……。



 そう、惟が完全に諦めかけた、そのときであった。



「何をしてるんですか、桃之井惟さんッ! 諦めちゃダメですよッ!!」



「……っ……足柄さん……」



 それまで黙って見ていた直美が、意を決したように大声を張り上げたのだ。いや、それまで黙って我慢していたが故に、ここまで張り上げざるを得なかったのだ。直美もまた、それまで惟に何の声かけもしなかった自分を悔いていたのだ。


 だから、直美はなおも、惟のためにと目一杯声を出し尽くす。



「あなたは言ったではないですか、その活躍を私に信じさせてみせるとッ! それなのに何ですか、その体たらくはッ! 私はあなたを信じて応援に来て、このときもあなたの活躍を信じています。だからあなたも、本当に私にその活躍を見させてくださいよーッ!!」



「……っ!」



 そうして息を切らして激しく吐息を吐く直美を見て、惟はついに正気を取り戻した。



 ――そうだ。私は自分を裏切るどころか、本当に私を信じてくれた足柄さんをも裏切るところだったんだ。何が『自分を信じてくれる人を信じられない人間が、自分を信じられるわけがない』だ。……だけど、おかげで目が覚めた。私を信じてくれる人がいる。それだけで私は、いや、人間は、ここまで諦めずに現実に向かい合い続けられるんだ! ここまで人間は、私は、底力を振り絞ることが出来るんだ!!



 瞳に輝きが戻り、バットにも力が入れられる。



 ピッチャーがモーションに入り、第3球目が投じられる。



「打てーっ!」

「はぁぁぁっ!」



 内角低めに投げられたストレートを惟のバットが真っ正面から捉える。



 凄まじい快音とともに、低い弾道で放たれていく打球。



 そうして打球はショートの頭を飛び越え――、



 左中間を真っ二つに割る、逆転サヨナラ2点タイムリーツーベースとなった。




 ――ゲームセット。ソフトボール第二試合は、3-4にて、D組の勝利で終わった。


 ・ ・ ・


「それで、惟ちゃんと友達になったと?」


「はい、そういうことです、姉様」


 直美は少し照れたようにはにかみながら答える。


 今は放課後。あれから1年生スポーツ大会も平穏無事に終わり、もうじき短針が5、長針が12を回ろうとしていた。


 生徒会室にいるのは執行部メンバーである高嶺と直美、師龍の三人だけ。つい数分前までは惟もいたのだが、相談成就の報告と少しばかりの雑談をした後に心からお礼を言って帰ってしまったのだ。何でもこれからスポーツ大会ソフトボールの部優勝の祝勝会に行くのだとかで、


「それなのになおちゃんは本当に行かなくて良かったの、祝勝会に? 惟ちゃんもあれだけ誘ってくれてたし、それに初戦でサヨナラヒットを打てたのは100%なおちゃんのおかげだって言ってくれてたでしょ?」


 問われ、直美はそっと首を振る。


「いえ、良いんです、姉様。ももの……惟さんがそう言ってくれたのは素直に嬉しかったですが、それでもやはり、私は試合には出ていないですから。それに、私は所詮応援させてもらっただけ。実際に勝利を掴み取ったのはももの……惟さんの底力故です」


「なおちゃん……なんて謙虚なの……」


「いやだったらさっき桃之井さんがいるときにそう言えば良かっただろ。あんな恥ずかしそうにもじもじしてなくてもさ。それにさっきから無理して桃之井さんを名前で呼ぼうとしてるのがバレバレだからな」


「……本当にうるさいですね、足柄先輩は。良いではないですか、別に私がももの……惟さんを何と呼ぼうが」


「そう、それね」


「うっ、うるさいですねッ! 姉様に言い付けますよッ!」


「いや、その足柄はお前の横で感動したみたいに感じ入っているんだが……」


 そんな会話が久しぶりに生徒会室に木霊する。と言っても、たったの3日間ぶりなのだが。


 また、いつもと違うところと言えばただ一つ直美の表情が以前よりも緩くなったところだが、そこを追求するのは野暮と言うもの。ただ、桃之井惟という存在がそうさせたのだろうということは、高嶺も師龍も何気なくとも気付いていた。だからこそ、この日常が演出されるというものなのだろう。


「それにしても『雑多相談所』の最初の仕事がスポーツ系とは。あんまり何かした訳でもない俺が言うのも何だけど、結構大変だったよな」


 いつものように本に視線を落としながら言う師龍に、少しは落ち着いた様子の直美が和やかな口調で答える。ちなみに直美もようやく通常のパソコン事務作業に取り掛かったところだ。この3日間進めていなかった分が副会長席に山のように積まれていたりする。


「ええ、こればかりは足柄先輩の言う通りです。本当に足柄先輩は何かした訳ではありませんでしたから」


「そうそう。……ってそこに同意するな。俺が悲しくなる」


「そうです、悲しくなれば良いんです。頑張ったのは間違いなくももの……惟さんなんですから」


「もー、なおちゃんそういうこと言わない! 惟ちゃんはもちろんだけど、師龍くんもなおちゃんも頑張ったんだからっ。師龍くんの言う通り、大変だったことをみんなで労ろう!」


 ぷくーっと頬を膨らませる高嶺に直美はしゅんとして、


「……はい、姉様のおっしゃる通りです。あと、私が言うのもおこがましいですが、姉様も人一倍頑張っていらっしゃいました」


「うん、それでよろしいんだよ、なおちゃん。誰が頑張って誰が頑張ってないとかじゃないからね。みんながみんなその人に出来るように頑張って、だから『コーチング大作戦』は成功した。それで良いんだよ! ね?」


「はい、姉様! その通りだと私も思います。と言うか思っていました!」


「うん、よろしい!」


「……それで良いのかよ二人とも……」


「――それで良いんじゃないかい、二人とも」


「「「……!」」」


 と、突然入り口付近から聞こえてきた声に三人ともが素早く振り返る。


「やあ、皆。ご無沙汰してるね」


「「「光明先生!」」」


 軽く右手を上げる若い女性教員に、高嶺と直美と師龍の驚きの声が重なった。

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姉妹げんかは俺でも食わぬ? ~源学園花室高等学校生徒会執行部の日々~ 松長市松 @matsuichi

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