エピローグ

 目を開けたとき、そこは破邪煉獄学園の保健室だった。僕はそのベッドにずっと寝かされていたようだった。


 あれ? もしかして今まで僕は夢を……。


 と、そう思って身を起こした瞬間、


「吾朗!」


 花澄ちゃんが飛び付いてきた。


「うわっ!」


 そのおっぱいが顔にいっぱい当たって、息苦しくなる。でも、すごくいい気持ちだ。まるで本当に夢のような……。


「ねえ、吾朗、あたしのことちゃんと覚えてる?」

「え? 君は花澄ちゃんだろ?」

「よかった! 今度は記憶喪失になってないのね!」


 花澄ちゃんの腕の力がまた強くなったようだった。僕の顔は、いっそう、そのおっぱいにうずもれた。その感触はやっぱりとってもあったかぁくて、やわらかぁくて、気持ちいい……。


 そうか、前みたいに僕が今までのことを忘れちゃうか、心配だったんだな……。それで、ずっと僕が目を覚ますのを待ってて……。


 ベッドからは直接窓の外は見えなかったが、衝立のむこうには、朝の日差しが差し込んできているようだった。どうやら、僕たち、無事に地球に帰ってこれたようだ。そして、僕は一晩中気を失っていたみたいだ。


「花澄ちゃん、みんなは無事?」

「うん。みんなすっかり疲れて寝ちゃってるわ」


 花澄ちゃんはベッドのそばの衝立を横にずらした。隣のベッドに一之宮姉妹がすやすや寝ていて、そのベッドの下の隙間にはクマ、さらに奥のソファに健吾が横たわっているのが見えた。よかった。みんな、無事みたいで。


「ねえ、吾朗、来て」


 花澄ちゃんは僕のブレザーの袖を引っ張った。そのまま、保健室の窓際に僕を連れていく。


「見て、吾朗」


 花澄ちゃんは窓の外を指さす。ちょうど、朝日が顔を出したところようだった。赤く焼けた空がいっぱいに広がっている。


「すごくきれいでしょ。この景色、吾朗が守ったんだよ」

「僕が?」

「そうよ。吾朗がいたから、あたしたちはまた朝を迎えることができたのよ。吾朗のおかげで、あたしたち、生きていられるのよ」


 花澄ちゃんは微笑んだ。朝の日差しが、その顔をやさしく照らしている。


 か、かわいい……。


 たちまち、顔が熱くなり、何も言えなくなってしまった。うつむいて、適当にうなずいた。胸がすごくドキドキする……。


「ありがとう、吾朗」


 花澄ちゃんは僕の手を握って、もう一度笑ったようだった。




 それから、会長と琴理さんと桜井先生がやってきて、僕たちはすぐに家に帰されることになった。そしてその翌日からは、これまで通りの学園生活が始まった。まあ、これまで通りと言っても、それはトンデモ学校が、トンデモ学校のままでいることにほかならなかったけど。


 そう、僕たちは依然としてエンブレムを持たされたままだったし、リピディアも学校内では普通に使えた。


 琴理さんが言うには、近いうちにルールを変えて、美星杯を再スタートさせるということだった。


「ガクエンレンゴクは見事滅びの花を倒し、目的を達しました。あとは、その残骸が残っていないかを確認したのち、地球を去るだけです。ただ、滅びの花との戦いでずいぶん消耗してしまいましたし、現在は、宇宙へ旅立てるほどの体力はありません。そこで、必要となるのが、みなさんのリピディアなんですわ。ジャンジャン使って、ガクエンレンゴクを健康にしてくださいね」


 まあ、そういうわけで、今まで以上に僕たちにリピディアを使わせるように、敗北即脱落システムを撤廃し、ルールを過激に、刺激的にするということだった。相変わらず僕たち、学校にいいように利用されてるなあ、うう。


 また、ガクエンレンゴクがその機能を見事取り戻したおかげで、地球人は再び洗脳されることになったようだった。以前と同じく、そのトンデモぶりが華麗にスルーされるようになった。あのおインターネットで騒がれた写真も、いまはもう「なんでこんなどうでもいいことで騒いでたんだろうね、俺ら?」というふうに、ごく一部で話題になっているだけのようだ。宇宙の洗脳パワーってマジスゲー。


 また、ガクエンレンゴクの洗脳パワーと言えば、気になることもあった。花澄ちゃんの家の借金問題が、突然解決したのだ。お金を持ち逃げした人が、宝くじで大金を手にしたとかで、それを花澄ちゃんの家に返却しに来たらしいのだ。ものすごい利子をつけて。


「なんか、拍子抜けしちゃうわよね」


 学校からの帰り道、一緒に並んで歩きながら花澄ちゃんは笑った。確かに、変な話だ。お金を持ち逃げするような人が、宝くじで大金をゲットしたからって、すぐにそれを持って来るなんて。


 やっぱり、ガクエンレンゴクが、洗脳パワーで何かしたんだろうか。地球を救ったご褒美ってやつ? まあ、それぐらいはあってもいいよな。


「よかったじゃないか。お店を売らずにすんで」

「そうね。これももう、いらなくなっちゃったわね」


 花澄ちゃんは、自分の胸のエンブレムをつまんだ。


 あ、そっか。花澄ちゃんは家の借金問題を解決するために、美星杯に参加してたんだっけ……。


「吾朗はまた美星杯に参加するんでしょ? あたしのこれ、あげようか? あんたには世話になったし……」

「い、いいよ! いらないよ!」


 とっさに叫んだ。


「なんで? あんた、ポイントすごくマイナスじゃない。必要でしょ?」

「いや、そういうのは、戦って勝ち取るものだと思うから! こんな形で受け取るのは何か違う気がするから!」


 そうだ、ここで花澄ちゃんのエンブレムを受け取ってしまったら、これっきり花澄ちゃんの制服を僕の手で脱がす機会が永遠に失われてしまう! そんなの絶対ダメだああっ!


「……そっか、じゃあ、またお互い頑張りましょ」

「お、おう!」


 僕たちは笑いあった。

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ガクエンレンゴク 真木ハヌイ @magihanui2020

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