三十章
もはや、恐怖や迷いは何もなかった。花澄ちゃんの
「おおおおおっ!」
再びイケメン滅びの花の懐に迫り、剣を振るう。世界の流れはやはり、ヤツの動きも含めてとても緩やかだった。そして、
やった、あとは本体を倒すだけだ――。
瞬間、安堵した。だが、それはすぐに目の前の光景によってかき消された。
二つに両断されたイケメン滅びの花は、一滴の血を流すこともなく、すぐにくっついて元通りになった。
「……どういうことだ、地球人? なぜ他の個体の
その顔は憤怒で大きく歪んでいた。
「それはお前には関係ないことだ!」
僕もよくわからないし! もう一度、その体を真っ二つにした。今度は縦に。
「そうか、ガクエンレンゴク! 貴様が小細工したのか! おのれ、お前はどこまでも我を――」
ぐしゃ。うるさいので、その頭を拳で粉砕した。
が、とたんに、その体は消滅し、かわりに(?)周りに新たな敵が現れた。赤く目を光らせた巨大なムカデたちだ。
「ハハッハ! 我の一部を破壊したところで、まだかわりはいくらでもいるのだぞ!」
ムカデたちは一斉にこっちに迫って来た。相変わらず動きは遅い。が、超キモイ! とっさに、上に高く跳び上がった。
と、そこで、
(吾朗さん、聞こえますか、吾朗さん?)
頭の中で声が聞こえた。琴理さんの声だ。
(もう時間がないので、吾朗さんの意識に直接メッセージを送っています。音声よりはずっと情報伝達が速いですからね)
そうか、テレパシーか。
(吾朗さん、さきほど体感したように、現在吾朗さんは、一時的にほかのみなさんの
僕のおかげ?
(さきほど、キャンサー相手に
そうか。あの僕の後先考えない行動も役に立ったんだな。
(すでに、吾朗さんの脳には、複数の
なにそのマニュアル! 勝手に人の脳に入れないでよ!
(とにかく、残り時間少ないですし、頑張ってくださいね)
そこで琴理さんは脳内通信を勝手に切ってしまったようだった。そしてそれは、僕が天井に到達した瞬間でもあった。とっさに、天井から飛び出している血管っぽい突起にぶらさがった。
僕の真下に集まったムカデ達は、今度は合体し、大きな蛇に姿を変えている。そして、大きな口を開け、こちらに迫ってくる。
確かに今は、がんばるしかないか――。
身を大きくしならせ、天井から一気に斜め下の壁に跳んだ。そして、その壁を蹴り、蛇の胴に突撃した。
ゴゥ!
僕の体は、弾丸のように蛇の体を貫通した。反対側の壁に足をついたところで、床に降り、さらに、その巨大な体を切り刻んだ。
だが、刻んだ体はすぐに消え、そこからまた新たな敵がわいた。今度は、コウモリの群れだ。
数が多いな。それに逃げる場所もないか――。
瞬時に状況を把握すると、制服の胸ポケットに手を置いた。
「全てをけちらせ!
たちまち、僕の周りに何本ものナイフが浮かび上がり、コウモリの群れに向かって飛んで行った。それらは、群れを縦横し、次々とコウモリたちを下に落としていく。
健吾の
だが、感心したのもつかの間、コウモリ達をほふったところで、またしても新たな敵がわいた。今度は戦闘用らしいメカが数体だ。
機械か。これは……あれしかないな!
その数体がこちらに機銃を構えた瞬間、僕は跳躍し、その一体にせまった。そして、拳を振り下ろした!
「くらえ! なんとかハンマー!」
ビリビリ! 電気の拳が、メカのボディに炸裂する!
メカはすぐに動きを止めた。残る数体も、同様になんとかハンマーで破壊することができた。おおすごいじゃん、クマのなんとかハンマー!
だが、喜んでいる暇はなかった。破壊されたメカはまたすぐに違う敵に姿を変えた。今度は羽の生えた金髪のイケメン達だ。なんかこう神々しいようなオーラを放っている。いっせいに、こっちに聖なる波動のようなものを放ってくる。あたるとすぐに天国に行けそうな波動だ。
これは非接触系の技か。だったら――。
「僕を守れ!
たちまち、金色に光るバリアが、僕の周りに現れた。イケメン達の聖なる波動は、それらに全て受け止められた。
よし、反撃だ!
バリアの中から、イケメン達に向かって、
どうだ!
見ると、そのナイフは銀色に光っていた。いや、そういえば、僕の体もさっきから銀色の光を放っている……。
(それは
へえ。何か意味があるんですかこれ?
(最高に輝いてるという感じがします)
そ、それだけ? パワーアップするとかないんですか!
(ないですわね)
うう。そんなムシのいい話はないか……。
(吾朗さん、何を落ち込んでるんですの? 吾朗さんが最高に輝いているということは、とても大事なことなんですのよ。それはすなわち、吾朗さんが最高にかっこいいということなんですから)
そ、そうか! 今の僕ってばサイコーにかっこいいんだ!
やる気がものすごくみなぎって来た。金髪イケメン軍団の後、今度は、不気味な顔が浮かんだ岩が次々と飛んできたが、すべて拳で粉砕することができた。最高に輝いている僕だからな! ヒャッホイ!
やがて、滅びの花はネタ切れになったようだった。もう何もわいてこなくなった。
掲示板を見ると、あと三十五秒残っている。よし、まだ間に合うぞ! ただちに剣を握りしめて、滅びの花本体に駆け寄る――。
だがその瞬間、僕の足に、太いツルのようなものが絡んできた。それはたちまち、僕の体に巻き付き、動きを封じた。
「ぐっ……」
びっくりするほど強いしめつけだった。そして、おそろしく頑丈なツルだった。
「ハッハッハアア! いいざまだな、地球人!」
滅びの花のものと思しき声が聞こえてくる。それは、イケメン滅びの花のときのそれとは違い、おそろしく低く、悪意に満ちている。
「矮小なるうぬは、このまま我に圧搾されるがよい!」
ツルの緊縛がいよいよ強くなった。
く……こうなったら、
だが、そのとき、後ろに倒れている花澄ちゃんの存在に気付いた。
だめだ、この状態では使えない。花澄ちゃんも巻きこんでしまう!
「ハッハッハ! どうした、地球人、蒼い炎を使わないのか! あの地球人のメスがそんなに大事か!」
こいつ、僕が
どうすればいい?
残り時間は二十秒を切っている。
花澄ちゃんはそばで倒れている――。
いや、方法はまだある! 右手をぎゅっと握りしめた。
「全てを焼き尽くせ!
ただちに、蒼い炎が僕の体からあふれ、ツルを焼き尽くした。それは広間全体に広がっていく。
「バカな! 貴様、あの地球人のメスを見殺しに――」
「見殺しにはしてない!」
そう、蒼い炎は花澄ちゃんには届いていなかった。倒れている彼女の周りには金色のバリアが張られているのだ。
だが、バリアはすぐに消えた。そして、そこを滅びの花は見逃さなかった。
「ござかしいいいいいい! あの地球人のメスから始末してくれるうううっ!」
とたんに、新たなツルが倒れている花澄ちゃんに伸びて行く。
させるかっ!
ツルより先に花澄ちゃんのそばに行き、
だが、その瞬間、
「かかったな」
滅びの花は、しゃがれた声で笑ったようだった。たちまち、左右から、巨大な手が迫って来た。
それは瞬時に『絶対守護者』《エル・ガーディアン》のバリアを粉砕した。
まずい! もっとバリアの力を集中させないと!
両手を左右に広げ、
「ぐ……」
イージスモードをもってしても、それは受け止めるのが精いっぱいだった。なんて力だろう。これが滅びの花の本当の力――。
「地球人、このまま滅びよ!」
滅びの花本体の光が強まっていく。間違いない、ビームだ。そのエネルギーを装てんしているんだ。僕に向けて照射しようとして。
まずい、すぐにこの場から離れないとやられてしまう!
だが、それは無理だ……。
だって、僕のそばには花澄ちゃんが倒れている。僕がここから離れたが最後、花澄ちゃんはこの巨大な手に潰されてしまう! そんなの絶対ダメだ! ダメダメダメだ!
ああ、でも、この状況で僕は何ができるっていうんだ……。
両手は完全にふさがっている。
と、そのとき、
(小暮君! これを受け取りたまえ!)
どこからともなく、そんなイケメンヴォイスが聞こえてきた。
そして――はなれた床に落ちていた剣が、こっちに飛んできた!
こ、これは……!
瞬間、時の流れが、いっそうゆっくりになったように感じられた。僕はもう何も考えることはできなかった。すぐ目の前に飛んできたそれを、迷わず受け取った。
とたんに、左右の巨大な手が、僕らに迫ってくる。
だが、その動きはもはや緩慢極まりないもので、剣を手にした僕には、恐れるものではなかった。ただちに剣に蒼い炎を宿らせ、大きく横なぎに払った。くるりと一回転して。
巨大な手はその剣閃に切り裂かれ、蒼く炎上した。
「バカアアアアナアアアアッ!」
滅びの花の絶叫が響く。
よし、いまだ!
剣を両手に握りしめ、頭上に掲げた。
蒼い炎が、刀身に宿る。太く、そしてどこまでも長く!
「いっけえええ!」
それを、力の限り、滅びの花に向けて振り下ろした!
ほとばしる蒼い光は世界を、そして滅びの花を瞬時に両断した。断末魔の叫びすら許さぬ、刹那の出来事だった。ただ、蒼い煌めきの帯が、
灼熱はそのすぐ後に来た。その貪欲な揺らめきは、一瞬で滅びの花を焼きつくした。
そして、その奥の壁ですらも……。
そう、次の瞬間には、僕の目の前には、暗黒の宇宙空間があった。
「ちょ……」
やべえ! やりすぎだ!
焦ったがもはや手遅れだった。僕たちはたちまち、すごい勢いで宇宙空間に吸い込まれていく! うわああ! 宇宙ヤバイ! マジヤバイ!
だが、暗黒世界に投げ出される寸前、僕たちの前に、大きな女の子が現れた。
ぼいんっ!
その大きなおっぱいに受け止められ、僕たちはただちに塔の中に戻された。そして、その瞬間に、壁の穴もふさがった。
「……お疲れさまでした、吾朗さん」
大きな女の子は、普通サイズに戻って、にっこり笑った。そう、それは誰であろう、琴理さんだった。
「わたくしは、ずっと吾朗さんたちのことを信じていましたよ」
「は、はあ……」
相変わらずなんかしらじらしい台詞なんだよな。
まあでも、これでようやく万事解決か……。僕も笑った。
と、そこで、また例のめまいを感じた。床に、倒れている花澄ちゃんのそばに崩れた。
花澄ちゃん……。
手を伸ばし、そっとその頬に触れてみた。それはとてもあたたかい感触だった。
よかった、ちゃんと生きてる……。
体からどっと力が抜けた。安堵の気持ちでいっぱいだった。
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