君以外の選択肢なんて、初めからなかったんだ。

 主人公のアパートに、元彼がたずねて来て東京の大学に行くと言う。
 主人公は彼ならいつか東京の美大に行くと思っていたから、驚きもせず、軽くあしらった。
 主人公が彼に出会ったのは小学生の時だった。彼は見た目こそ難があったが、自分の世界を持っていて、何より主人公と一緒で、一人だった。中学校まで一緒だった二人は、別々の高校に進学した。制服となったことで、彼の見た目は良くなり、女子受けもするようになる。それでも、二人は付き合っっていた。
 主人公は何より、彼の絵の才能に惹かれた。絵自体にも惹かれていた。やがて彼と一緒にいることで、陰口を言われることになる。主人公は彼から離れることを決意するのだが……。
 『雪を溶く熱』という題材で、筆致を超える作品を生み出すという意欲作。
 しかしこの作品の中で「溶かされる」ものは、雪と言う物体的なことだけではない。主人公と彼の名前が対比するように描かれ、また、主人公の心の中のわだかまりなど、様々なものが想いによって「溶かされて」いる。
 確かに筆致を超える一作。
 
 是非、御一読下さい。

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