遠くへ

麻城すず

遠くへ

 高校1年の春休み。好きな人は4月から東京の大学。

「成美! 俺やっと免許取ったー!!」

 子供みたいにはしゃいで、あたしをドライブに誘ってくれた。

「うおっ!? 違うって! バックしたいんだっての!!」

「せせ先輩っ! 思いっきりニュートラルになってるよ!」

 空ぶかしのエンジン音にビビりながらソロソロとアクセルを踏む。スリルたっぷりの初ドライブに、何であたしを誘ったのか。

 遠くに行っちゃう先輩にあたしは告白出来なかった。振られると分かっているのに告白して玉砕なんて辛いから。

 怖くて高速も乗れなくて、ひたすら進んで3時間。やっと着いた海は閑散としていて。

「……先輩いつから東京?」

「あー、4月入ったらすぐ行くから、あと3日か」

「そっかぁ……」

 肌寒い風に体を震わせながら他愛ない話。

 ブラブラしながら覗いたお土産屋さんで「成美にそっくり」なんて笑いながら買ってくれた可愛くもなんともないサルのキーホルダー。自分じゃ絶対買わないこんなちんちくりんなキーホルダーですら、あたしはきっと捨てられない。

 帰りの道はひどく混んでいて「寝てていいよ」の言葉にあたしは素直に目を閉じる。

 夢と現実が分からなくなったころ、唇に何かが当たった。

 そっと触れて、すぐに離れて。

 初めての感触に重い瞼をあげると、すぐ側に先輩の顔。

 フロントガラスの向こうには、さっきと変わらず赤い光がずっと先まで連なっていて、それはまるで現実感を伴わない光景に見えた。

「成美……、好きだよ」

 先輩はずるい。

 何でもっと早く言ってくれないの?

「……あたしは……」

 答える前にまた唇が重なったけれど、あたしはそれを拒まなかった。

 4月になれば先輩は東京に行く。そして17歳になったあたしは、新しい恋をするに違いない。

「……元気でね」

 呟くように言った言葉に先輩はただ笑って頷いた。


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遠くへ 麻城すず @suzuasa

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