第11話 飼い猫探し
「よし、やっと終わった~」
昨日と今日にかけて
ノートを閉じてシャーペンを元の場所に戻すと、カップに入っていた残りのアイスティーを飲み干す。
スマホで時間を確認すると午後二時を少し過ぎたばかり。
そこで紗玖乃は少しの間考える。
置いていたスマホを手に取ると、あるお店を調べ始めた。
出てきたのは前から行ってみたかったカフェの名前と外観の画像。
今日は日曜日のためか通常の時間よりも混んでいるようだが、この後は予定もないし時間的にも丁度いい。
「前からここに行ってみたかったし、今日行こう」
そう呟いて、机の横に置いてあるスクールバッグにノートをしまうと立ち上がった。
着替えを済ませて、出掛ける時に使っている白い小さめのカバンを肩に掛けると一階まで降りて行く。
リビングにいた母親と妹に出掛けることを伝えて家を出ると、最寄りのバス停に向かった。(父親は出掛けていて不在)
目的地付近でバスを降りてスマホの画面に表示されている地図に視線を落とす。
周辺にはコンビニや美容院などの建物や美術館などの公共の施設がある。日曜日ということもあり、人通りも交通量もいつもと比べて多いように感じた。
紗玖乃は地図の案内の通りに歩みを進めて行く。
コンビニ横の路地をまっすぐ進んだ先にそれらしき建物が見えてきた。
三角屋根のこじんまりとした建物の上部にカフェの名前が書かれている。扉のすぐ隣には「おすすめのメニュー」と書かれた縦型の看板も見える。
紗玖乃は手に持っていたスマホの画面と目の前にある建物を見比べた。カフェの名前も建物の外観も全く同じだ。
「あった! ここだ」
そう呟いてスマホをカバンにしまうとカフェの入り口に近付いて行く。
縦型のメニューが書かれた看板には初夏にぴったりののメニューが並んでいる。
レモンやブルーベリーのタルトにメロンのパフェなど夏らしいスイーツが多い。
わくわくした気持ちと少しの緊張感が混じったまま扉を開けて中に入った。
こじんまりとした外観に比べて店内が思ったよりも広いことに驚く。
数人で来ている人もいれば、カップルと思われる若い男女に一人で来ている高齢の人の姿もあり、客層も様々だ。席はほとんど埋まってしまっている。
若い女性の店員に好きな席に座るように声をかけられ、空いている席に適当に腰かけた。
少ししてから店員がお冷とメニュー表を持って来た。
店員に軽く頭を下げると、さっそくメニュー表を開いてみる。先ほど外で見た看板に書かれていたメニュー以外にもチーズケーキやチョコレートケーキといった定番のスイーツが写真付きで載っている。
ほとんどのメニューでテイクアウトも出来るようだ。
(どれも美味しそうだなぁ……)
正直何を頼もうか迷ってしまいそうだけれど、やっぱりここは季節限定のものを頼むことにした。
「すみません」
近くにいた男性の店員に声をかけると、すぐにこちらに来てくれた。
「お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「はい。ブルーベリーのタルトとアイスティーをお願いします」
店内の賑やかな声を聞きながら、紗玖乃はメニューを注文した。
♢♢♢
「あっ、おい!」
冷蔵庫に入っている麦茶を取りに台所に行っている間に、二匹いるうちの飼い猫の一匹が勝手に網戸を開けて庭に出ていたのだ。
「ミケ、戻って来い。ほら」
一誠が網戸の前で屈んで両手を伸ばしてもミケは首を傾げて「にゃー」と短く鳴いただけ。
屈むのをやめた一誠が網戸を更に開けた時、ミケが突然走り出した。
「あっ! おい、ミケ!」
一誠は慌てて立ち上がると、玄関へと急ぐ。
今日は両親も中学生の弟も不在だ。靴が収納されている棚の上に置かれている鍵を急いで手に取ると、靴を履いて玄関を開ける。
もう一匹いる飼い猫に見送られながら、一誠は慌てて家を出て行った。
「ミケのやつ、どこに行ったんだよ?」
左右に顔を向けるもミケの姿はない。完全に見失ってしまった。
ミケは数ヶ月前に引き取った保護猫で、推定一歳くらいの小柄な三毛猫だ。ほとんど子猫といっても変わらないと思う。
まだまだ好奇心が旺盛な時期なので、外に出ないように気をつけてはいたものの今回は甘かった。
(くそ、ちゃんと窓閉めておけばよかった……)
停車している車の下を覗いたり物陰に隠れていないか注意を払って見てみるもののなかなか見つからない。
その時、自動販売機の横で寝そべっている小柄な猫を発見した。
見た目もミケに似ている。
刺激を与えないように少しずつ近付いて猫の前で屈んでみたが、首輪をしていないことに気付いた。
寝そべっていた猫の目が開く。目の色もミケとは違い金色だ。
「なんだよ野良猫か」
一誠が肩を落としてそう呟くと、野良猫は立ち上がって伸びをするとどこかへ行ってしまった。
また一から探さなければいけないことに溜め息を吐いていると、後ろから「なんだ、探し物か?」と声が聞こえた。
振り返った先にいたのは見覚えのある黒猫。金色の瞳で一誠をまっすぐに見つめている。
「お前、こんなとこで何してんだよ?」
「たまたまあんたを見かけたからな。気になって付いてきたんだ」
ナハトはそう答えると一誠の隣で足を止める。
「それで何を探しているんだ?」
「……飼い猫だよ。目を離した隙に外に出ちまったんだ」
「イッセイ、猫を飼っていたのか。それで、猫の特徴は?」
「小柄な三毛猫で赤い首輪してる」
「三毛猫なら先ほど見かけたぞ」
ナハトの思いがけない言葉に弓原の目が大きく開いた。
その場に屈んでナハトと目線を合わせる。
「どの辺で見た?」
「付いて来てくれ。まだ、そんなに遠くには行っていないはずだ」
ナハトは弓原に背を向けると、振り返ってそう言った。
♢♢♢
「美味しかった~」
注文したブルーベリーのタルトとアイスティーを堪能した紗玖乃は大満足でカフェを後にした。
帰りのバスの時間までまだ時間があるので適当に近くにある公共施設の中で時間を潰そうと思っていた時、目の前から一匹の三毛猫が歩いて来た。
よく見ると赤い首輪を付けている。
「あれ? この子、首輪してる。もしかして飼い猫?」
その場で屈んでみると、猫の方から紗玖乃に寄って来た。
試しに手を伸ばして背中をそっと撫でてみる。
猫は大人しく撫でられていて、気持ちよさげに目を細めるとごろごろと喉を鳴らし始めた。
人懐っこくて可愛い。飼い猫だから当たり前かもしれないけれど。
「かわいいなぁ。けど、どこの家の子なんだろう?」
しげしげと三毛猫を見つめていると、前から「サク」と名前を呼ばれた。
「え? ナハト?」
顔を上げた先に猫の姿のナハトが走って来たので驚いていると、続けて、
「あっ、いた!」
「弓原くん……?」
ナハトの後ろを弓原が追いかけて来る。紗玖乃が不思議に思っていると、
「その三毛猫はイッセイの飼い猫だ。飼い猫を探していると言うから一緒に探していたんだが、まさかここにいたとはな」
「そういうことだったんだ」
「ミケ、やっと見つけたぞ。ったく、心配かけやがって」
ミケを抱き抱えてそう口にすると、ミケは理解しているのかしていないのか大きな青い目をぱちくりとさせている。
ナハトの体がいつものように淡い白い光に包まれると、ほどなくしてその光が消えた。
ナハトは満足そうに目を細めている。
その様子を見ていた紗玖乃は弓原に顔を向けると、
「猫ちゃん、無事に見つかってよかったね」
「ああ、ありがとな」
「私は何もしてないよ。お礼ならナハトに言った方がいいかも」
「ああ、それもそうか」
弓原はそう言うと再び屈んで、ナハトと目線を合わせた。
「お前のおかげで見つかったよ。ありがとな」
少し照れ臭そうに口にすると、すかさずナハトが答える。
「そうだな、礼はキャットフードでいいぞ?」
「はあ?」
予想外の返事に思わず変な声が出た。
それよりも今、キャットフードと言わなかったか?
「何で礼がそれなんだよ? お前堕天使だろ?」
「ナハトってキャットフード食べるの?」
驚いている二人に思わず声が出てしまう。ナハトはクックッと喉を鳴らすと、笑みを浮かべて「冗談だ」と短く返した。
堕天使は猫のフリをする 野沢 響 @0rea
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