第33話 これからも、応援していてイイですか?
深夜一時、上野駅前。
「すみません、東京セブンチャンネルなんですけど……」
「東京セブンチャンネルです。ちょっとだけお時間いいですか?」
あれから一ヶ月後。
柳瀬DとAD白崎は、いつものように道ゆく通行人に声を掛けていた。
ほとんどの人には相手にされず、インタビューは受けてくれても密着はダメだと言われしまう。
「いやぁ、厳しいな……」
「今日は全然捕まりませんね〜」
二人揃って、大きなため息を吐く。
「セブンチャンネルの社長から表彰までもらったのに、仕事は相変わらずキツイし、給料も上がらないし」
「月間ギャラクシー賞だって獲ったんですよ? テレビ業界ブラックすぎません?」
国王選を生中継した『異世界、ついて行ってイイですか?』は、あの特番激戦区にも関わらず世帯視聴率八パーセントを記録し、優秀な番組に与えられるギャラクシー賞も受賞した。
そして、放送から時間が経った今でもあの番組は何だったのかとネット上では議論が続いており、メディアによる越谷チーフPへの取材も絶えない。
そんな大成功を収めたにも関わらず、制作会社員である柳瀬DとAD白崎には何の恩恵も無い。
「もう、誰がクラリスさんにインタビューしたと思ってるんですかね。立役者は私たちなのに」
「白崎、まあそういじけるな。結果出し続けてれば良いことあるって」
「ホントですかぁ?」
頬を膨らませる新人ADの肩を軽く叩き、柳瀬Dは再びインタビューを始める。
そんな先輩ディレクターの姿を後ろで眺めつつ、AD白崎はぽつりと呟いた。
「でも、そうだよね……。クラリスさんだって、国王として頑張ってるんだもんね。私も負けてられない」
きっと今頃は、クラリスもテレート王国のトップとして国民のために頑張っているはずだ。
「クラリスさん。しばらくは会えなくなっちゃいますけど、これからも応援してますね!」
「はい。私も柳瀬さんと白崎さんのこと、ずっと応援してます」
遥か彼方の異世界で、彼女と別れる前に交わした最後の言葉。
その時のクラリスの優しい笑顔と声はしっかりと胸に刻み込まれている。
今でもお互いに、心は通じ合っていると信じて。
「よしっ、私もガンガン声掛けてくぞ〜」
AD白崎は気合いを入れ、カメラを手にする。
それと同時、柳瀬Dが「ん?」と何かに反応した。
「どうしました、柳瀬さん?」
問いかけると、柳瀬Dは周囲を見回しながら答える。
「いや、今クラリスさんの声が聞こえた気がしたんだけど」
「クラリスさんが上野にいるわけないじゃないですか〜。まさか幻聴ですか?」
「まあ気のせいだとは思うんだけどな」
「柳瀬さん、そんなにクラリスさんに会いたいんですね。もしかして好きになっちゃいました?」
そんなわけないだろと顔を赤くする柳瀬D。
その反応が面白かったので、AD白崎がここぞとばかりに先輩ディレクターをいじっていると。
「ふふっ、これもトレダカですね」
どこからか聞き覚えのある声が耳に届いた。
「あれ? 今のって……」
「白崎にも聞こえたか? これやっぱりクラリスさんだよな……」
二人で慌てて周りに目を向けるが、彼女の姿はどこにもない。
「おかしいな。やっぱり気のせいか?」
「私たち、疲れてるのかもですね……」
そして、柳瀬DとAD白崎は星も見えない夜空を見上げてぽつりと呟く。
「「異世界ロケ、またやりたいなぁ」」
すると、それを物陰からこっそりと聞いていた女性が微笑みを浮かべて言った。
「……分かりました。今度、セリーヌにお願いしておきますね」
異世界、ついて行ってイイですか? 横浜あおば @YokohamaAoba_
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