第18話 大会当日、運も実力の内 特にマイナーテーマには
「ついにこの時がやってきたな」
大会当日、優正たちは近所のバトルスペースにやってきた。
今日は、このバトルスペースが大会の会場となるのだ。
バトルスペースというのは、WCP公式がリアルで対戦するために開いてくれている交流の場のことである。
WCPの売りの1つであるAR対戦をフルで楽しむためには、リアル空間で対戦相手を探して、ある程度広いスペースでバトルを開始する必要がある。
中々、達成困難なその条件をクリアするための空間を、コンテンツを盛り上げてもらうためにと、公式が各地に用意してくれているのである。その太っ腹っぷりには、DCG界の王者の風格を感じる。
「よしっ、これで本登録完了みたいだな」
「相模さん、わたしの方も済ませましたよ」
事前に大会参加の予約を行っていた2人。
GPSでバトルスペースに近づくと自動で、眼前に現れたポップアップの確認画面。
内容が合っていることを軽く確認してから、『YES』を選択して大会参加の本登録が完了する。
「それにしても、こんなにも盛況なものなんだな」
大会までの数日、てまりとの対戦やネット対戦で初心者なりに腕を鍛えてきた優正。
確かにアプリ内に表示されるランキングの順位などから、とてつもなくプレイ人口が多いことは知識の上では分かっていた。
しかし、リアルではマイナーテーマ愛好会のヘルメットを被った方々くらいしか、これまで面と向かってプレイヤーだと分かる形で目にしたことはなかった。
広い会場が人の海となっているのを見て、WCPの人気ぶりを再実感する。
既にあちこちで、大会前の練習と思わしきバトルが繰り広げられている。
観客が群がって、大きな歓声が上がっている。
また各地でグッズ販売所や、出店が出ていて、賑わいを見せている。
まるで祭りのようだ。
「えーと、それでオレたちが参加する大会の場は……?」
「こちらみたいですね」
てまりが起動したナビゲーターアプリに従って、メイン会場を外れるようにして歩き始める。
盛況を見せている、最も目立っていたメイン会場は、もっと人気のあるレギュレーションの大会のためのものなのだろう。
歩き進める。
5分だか、10分だか。
徐々に人通りが薄れていって、終いにはただ休憩をしているだけのような人がまばらにいるくらいの寂しさになってきて……。
ナビはまだ先だと告げているが、流石に不安になってきて、アプリの不具合を疑い出した頃。
「ここか、思ってたよりも人気の格差があるんだな」
到着した会場は、バトルスペース全域の端の端。ポツンと存在している小さな場。
メイン会場には数千人いそうな雰囲気だったのに対して、開始直前になっても30人程度しか集まっていない。
そんな中に1人、あのヘルメットを被った人が、優正たちに手を振っていた。
「相模氏〜、てまてま氏〜」
一瞬、他人のフリをしたくなったが、それを抑えて挨拶をかわす。
「他のメンツは? あんた1人なのか?」
「あの日は、地方のメンバーも本部に時間をかけて集まって来ていましたからな。それぞれの地元で大会に参加しているのですよ。それに同じ大会に参加してしまったら、メンバー同士のつぶしあいになってしまいますから、分散出場した方が効率的なんですな」
「ああ、確かに」
ということは、他の30人は別のマイナーテーマ使いか、野良の同テーマ使いということか。
そう考えると、メインのレギュレーションではなく、わざわざマイナーテーマを使って戦いたいと集まった人間が、地方の大会でもこれだけいることは凄いことなんじゃないかと思えてくる。
参加者を見回す。
テンセカンズナイツ同好会メンバーが奇抜な人間たち(少なくとも格好が)だったので、少し身構えていた部分があった。
しかし当然といえば当然か、そんなのは少数派でまともな格好をしているのが大半だった。
「とか、思ってたんだが……」
もう1人かなり奇抜な格好をしている人物を見つけてしまった。
全身が黒の青年である。
上下黒くらいなら、まあよくいると片付けていただろう。しかし、マントを羽織っているのは、現代ではかなり珍しいファッションだろう。
加えて、テカテカのブーツやら手袋やらも身に着けている。
そんな個性的な格好をしていたので、思わず目を取られてしまっていた。
運悪く、相手方にその視線を気付かれてしまって、目が合ってしまう。
優正としては何事も無かったかのように、目を逸して偶々ですよというのを装おうとした。
だが、それを許さなかったのが、相手方である。
ツカツカツカ。
ブーツで地を踏む音を鳴らしながら、近寄ってきた青年。
「貴様は、どのテーマの手先なんだ? ヘルメット野郎と一緒にいるところから察するに、不格好なテンセカンズナイツの者か?」
因縁を付けに来たようだ。
「だったら何なんだ?」
「いや、何。きっとダークネスインベーダーの素晴らしさを知る前に、そのような下賤なテーマに触れてしまうなんて不憫でね」
テンセカンズナイツを愛するヘルメットが、「なんですと!」と自分の好きなものを貶められたことに対して、反論しようとする。
優正は手でそれを制する。
「いきなり何なんだ?」
「はっはっはっ。せっかくなら、至高のテーマである我の同胞になった方が、貴様のためになると思ってね」
「ええと、つまり、マイナーテーマの仲間を増やそうと勧誘しにきた感じなのか?」
何かしらの情報から、優正のことをまだ染まりきっていない初心者だと分かっていて、誘ったのだろうか?
例えば、大会参加者のリストのゲーム内アカウントIDから開始時期を調べて、とか。
まさかそんな地道な活動をしているような見た目ではないだろうけれども。
「我が名はセーヤ。闇の使者なり。絶対に貴様に、ダークネスインベーダーの素晴らしさを知らしめてやろう。
我と当たるまで、絶対に負けるなよ。ふははははは」
「お、おう。もしも大会で当たることがあったら、そのときはお手柔らかに頼むな」
セーヤは誰に言われることもなく、「ふはははは」と言っててキツそうな笑い声を続けながら去っていった。
良さげな隅のポジションに戻ると、流石に笑い声を止め、額に手を当てる決めポーズを取りながら、大会の開始待ちに戻っていった。
そうして、大会運営の人の仕切りで始まった地方バトルスペースのマイオナ大会。
優正としては、運良く2、3回勝って入賞できたらと考えていた。
なにせ、WCPはかなり実力が重要なゲーム。初心者の優正が、そう簡単に勝ち進められるようにはできていない。
そう思っていたのだが、何の因果かトントン拍子で、勝ちを重ね続け気づけば優正は決勝までコマを進めてしまっていた。
全くもって運である。
WCPは確かに実力が重要なのだが、同じくらいに運も重要なゲームである。
最低限カードの使い方が分かっているだけの素人でも、ビギナーズラックでトッププレイヤーに勝てることもあるくらいには運も重要なのである。
それが、今回優正を全力で味方した。
そして、逆の山から優正の運とは逆に、実力で勝ち進んで来たのが、あの黒ずくめの青年。
セーヤが優正の決勝の相手である。
「ははは、やはり貴様は我が見込んだ男だったな。当然、こうして最高の場で相まみえることになると、分かっていたとも」
セーヤは抽選の結果、優正と彼が別の山に別れたことを知った時、少し絶望した顔をしていた。
それを見ていた優正は苦笑いをする他無い。
「とにかく決勝らしい、良い戦いにしよう」
「ああ、その通りだな」
「「オープン・タクティクス!」」
世界の隅の小さな大会、その決勝戦の火蓋が切って落とされた。
非生産系コミュニティー 左臼 @sourcemayomadai
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