第17話 マイオナ愛好家の集い。盛り上がるヘルメット教徒たち
「皆さん、集まったということで、それでは始めましょうか」
絶大なアウェイ感を感じながら、オフ会が開始される。
とにかく、てまりのことを守らなければと、肩に手を置いて1人じゃないこと伝える。
若干、泣きそうになっているてまりが、振り向きつつ軽く頷いてくれる。
持参物を忘れた失敗を心が引きずってしまっているようだ。
彼女はオフ会のことを、かなり楽しみにしていたはずで、それを素直に楽しめる状況になっていないのは不憫だ。
と、このときはそんなことを考えていた。
「ついに、ついに、ついに、我々の時代がキマシタなーーーー」
「「「「「「「「「「おぉおおおおおおおおお」」」」」」」」」」
地響きが起きそうな歓声。
喜びの感情が、これでもかと込められていることが、言葉の抑揚から簡単に分かる。
「長年の研究の成果をついに発揮するときが、ようやくですよね」
「何度も何度も新テーマに浮気しそうになりましたけど、やっぱり帰るべきところはここだなと」
「その気持ち分かりますぞ。実際、前期はミュータントクルセイダーズがかなり心揺さぶられるテーマで握ってましたが、常に多少の違和感がつきまとってましたので」
「ああ、かむかむポテト氏もですか。ミュークルは久しぶりの当たりテーマでしたな。でも、やっぱりテンツが原点にして至高!」
「それですな!」
部屋のあちこちで、優正にはまるで理解できないワードで、興奮の共有が始まる。
非常に居心地が悪い。
アウェイの空気に気弱な同行者が怯えていないか様子を伺う。
「てまり、大丈夫か?」
けれど、すぐにその心配は無用のものだったことに気付く。
先程まで小さくなって消えてしまいそうだったてまりだが、今その瞳は蘭蘭と興奮の色に染まっている。
それこそ、この場のヘルメットに隠された他の瞳の輝きと同じ熱量を持っているように感じた。
「てまてま氏は、今回の追加パックで気になっているカードとかありますかな?」
「わ、わたしは『目覚めの人工呼吸』が最高にエモいなと思ってまして。それで『グランドアーサー』の行動回数を増やすロマンコンボとか、やっぱりかなり熱いんじゃないかと」
「なるほど、そこに目を付けるとは流石ですな。これまで課題だった息切れ解消のためのカードがかなり加えられてて、良い感じの調整を持ってきてくれてナイス運営という感じですよ」
「はい、その通りです。これまでそれでコントロールに何度やられてきたかと思うと」
「全くですな。今回で言うと天敵はユグドラシェルアームズ辺りでしたが、新規カードのおかげで十分に対抗できると考えると、本当に楽しみで楽しみで」
星崎みちるのことを語る時と同じ、少し早口なてまり。
それを見て、本当に好きなのだなと。
そして、同じものを好きな人々の集まりを心から楽しめているのだなと思うと、優正の心配が杞憂であったことを嬉しく思う。
と同時に、本当にこの場で1人置いていかれた状態になってしまったので、居心地の悪さが更に増す。
「あ、相模さん。すみません、わたし」
優正の様子に気付いたてまりが申し訳無さそうな顔をする。
「いや、いいんだぞ。存分に楽しんでくれた方が、オレとしても気が楽だ」
「で、ですか……その……」
まだ心残りありそうな顔をするてまり。
それに助け舟を出したのは、先程までてまりと熱く語り合っていたメンバーだった。
「相模氏は始めたてで、テンツの沼にハマる余地のある方となると、丁重に扱わないわけにはいけませんよね。身内で盛り上がってしまってスミマセン」
「あーいや、いいんだぞ。やっぱりもっと語りたいこととかあるんだろ?」
「それはまあ、そうですが。このオフ会の本番はこれからで、この後すぐのシーズン切り替わりのタイミングで、パック剥いて新カードで早速バトってみようと考えているんですよ。そのタイミングで、我らが愛するテンツの魅力をこれでもかと感じていただいて、相模氏も同士になっていただこうと」
「お、おう、そうか。ははっ、楽しみにしておくよ」
「はいっ! ぜひ楽しみにしておいてください!!」
グッと両手を結構な握力で握られ、優正は逃げ場が無さそうだということを実感する。
そして、オフ会開始から数分後。
正史から追放されて幾星霜(1年半振り)、マイナーテーマにとって恵みの雨となる新規カードが封入されたパックの開封の儀が行われた。
これには初心者の優正も、あまり壁を感じずに参加することができた。
競技性が重要視される
1テーマくらいであれば、ゲームへの課金無しで十分な強さのデッキを組めるようになっている。なので、引きによって組めるデッキに制限ができるというわけではない。
「さてでは、相模氏。デッキを作って対戦しましょう。何、初心者用のテンプレ構築にテンプレ戦術は教えてあげますので」
「はは、お手柔らかに頼むよ」
パック開封後は、早速新カードを使った対戦が、そこここで開始され始める。
正直言って、優正はどのカードがいいとか付いていけないので、言われるままに身体を委ねることに決めた。
結局、その後日が落ちて、真っ暗になるまでしごかれることになった。
頭を使いすぎてクタクタになった優正。
帰り道、その隣を歩くてまりは充実感に満ちた顔をしていた。
それを見て、優正は付添をして良かったという気持ちになった。
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