第16話 合言葉は「サモサモキャット?」 マイナーテーマ愛好家の集まるオフ会に行ってみた
この10年、街づくりの効率化が進んでいった。
その結果、新築の建築の殆ど全てが、3Dプリンターを使って建てられている。解体時のことまで考えられた地球と懐に優しい建物である。
中心街から外れて位置する住宅街も、そうして建てられた家が立ち並んでいる。
整列させられた同型箱型建築の森を、ナビゲーターアプリの表示を頼りに歩いてきた
今、1つの住宅の玄関前に到着した。
「ここだよな?」
「はい、そのハズです」
その辺のまともそうな住宅と同じ形。
けれど、今目の前にあるのが、DCGのマイナーテーマ愛好会の本部とかいう
とてもそうは見えない。
その事実を知っているだけで、もしかして他の周りの建物もヤバい団体の建物じゃないかと邪推の気持ちを持ちたくなる。
まあ、今の日本において、ただただ損をする犯罪者集団というのは存在し無さそうな気がする。
あるとしたら、幸せを届けるハッピーハッピー団とか、その辺りの関わりたくなさ気な空気感の集団だろう。
そもそも大方は、それなりに資産を持っているご老人の邸宅だろう。
「それじゃ、チャイム鳴らすぞ」
「は、はいっ。ドントコイ! …………ですよ」
「大丈夫か? 深呼吸とかしておくか?」
「い、いえ……。ももも、問題ないので早めに押してもらってもよろしいでしょうか相模さん」
と強がりを言いながらも、てまりは優正の影に隠れるようにしている。
「まあ、大丈夫か」
現代に残された数少ないアナログな押しボタン。
押し込むと、遠く家の中でチャイム音が鳴った気がする。
すぐに家の中と繋がったようで、スピーカーから微かな雑音とともに、ボソボソとした声を投げかけられる。
「サモサモキャット?」
優正の思考回路が固まる。
一瞬、何を言われたのか分からなくなる。
けれど、すぐに今の謎の言葉が何かの暗号なのだと気づく。『山』と言って『川』と返す的な。
もっと正確かつ簡単な方法がありそうなものだが……まあ、雰囲気なんだろう。
優正では暗号の答えが分からないので、袖を掴んで後ろに隠れているてまりを頼ることにする。
「なあ、てまり?」
「ベルンベルン、です」
「そうか、ありがとう。……ベルンベルンだ!」
優正にだけ伝わる声量で告げられた解答を、インターフォン越しの相手に向かって言い放つ。
「ふふっ、少し、待っていて下さい」
そうして歓迎の言葉の後、建物の中、ドタドタと素足の足音が近づいてくる。
カチャリと開かれる錠の音。
ヒンヤリした家の空気に招かれる。
のだが、現れ出た人物の顔面に驚かされることになる。
「てまてま氏とご友人の相模氏ですね。さあ、テンセカンズナイツアラウンドへようこそ」
優正とてまりを招いた男は奇妙な意匠のヘルメットを被っていたのだ。
「おや、そう言えば相模氏は、ズブの素人ということでしたな。何を隠そうこれは、我らが愛する至高のテーマであるテンセカンズナイツの象徴たるヘルメットなのですぞ」
「そ、そうなのか。知らなかったんだが、持ってきて着けないと中に入れないなんてことは?」
「勿論ありません。大歓迎ですとも。けど、てまてま氏は着けて来ると仰っていた記憶でしたが…………気分的に初めては素顔でと思ってきてくれた感じですかな」
と快活な言葉で歓迎される。
袖を掴まれる握力が強くなった気がした優正は、てまりの顔を伺う。
絶望に唖然とした顔をしていた。
そうして、気づく。
てまりはヘルメットを着けてこなかったのは気分ではなく、単に忘れてしまっただけということに。
彼女の性格からして、他人に会う際に顔を隠せるチャンスがあるのなら、それを存分に活かすはずだろう。
「忘れちゃった。忘れちゃった。どうしよう。恥ずかしいから持ってくるつもりだったのに。やっぱり今から帰って取ってこないと」
ブツブツと不安を呟いているてまり。
これから取り替えるとなると、戻ってくるまで1時間はかかるだろう。
流石にそれは良くないだろうと考えた優正は、まあまあと宥めつつ、震える足を1歩ずつ家の中に導いていく。
その数秒後、てまりの気持ちを尊重しておいた方が良かったかなという気持ちにさせられる。
出席者のことごとくが同型のヘルメットを被った集会は、まさに宗教的な雰囲気に満ちていた。
ヘルメットを被っていない優正とてまりは、2人ぼっち疎外感を覚える中、オフ会が始まる。
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