第15話 目指せマイオナ大会! 獲得せよ、カナコシお手製特別演出
「WCPは、半年で1シーズン。シーズン毎にテーマの存亡をかけた勝負が行われているんです」
テーマとはデッキの中核をなすカード群のことである。
最初に配置する本拠地ユニットや、そこから生み出される軍勢ユニットに行動カードは、各テーマの特色を持つカードとなっている。
世界全体での対戦成績が、全世界で共通の1つが使われている超巨大フィールド――世界盤と公式で呼ばれている――での対戦結果を左右する。
世界盤での対戦に勝利したテーマは、次シーズンも参入してくる新規テーマとともに世界盤に残ることができる。
つまり、全世界での対戦を元にした人気投票で、生き残りテーマを決めている。
という仕組みが、レギュレーション分けの根幹にあるらしい。
「一番人気で競技人口が多いのは、その人気投票に参加できる『オリジナル世界盤』でしょう。非常に争いが激しいです」
「なるほど。その争いはなるべく避けたほうが良さそうだな」
「はい。その分、入賞者枠も多いんですが、どうしても多人数で研究しているグループが有利になってしまいますから」
ちなみに数億の価値を持つNFTも、その『オリジナル世界盤』の世界大会の入賞者賞品になるらしい。
まあ、それに関してはどう転んでも手に入らないので、絵に描いた餅だ。
「『オリジナル世界盤』以外の多数あるレギュレーションは、まとめて『アナザー世界盤』と呼ばれています。その中には、敗者復活テーマを決めるもの、これまで出てきたテーマとカードが全て使えるもの、過去シーズンのカードプールで行われるもの、と多岐にルールが分かれています」
「そうなのか。それでオレたちが参戦するのは?」
「その『アナザー』の中でも最も競技人口が少ないと思われる、通称『マイオナ世界盤』と呼ばれるルールで大会に参加しようと考えています」
「マイ? オナ?」
「ええとですね……。何というか、敗者復活からも脱落してしまったような、ちょっと不人気でマイナーなテーマが無数にあるんですが……。その中から、抽選で選ばれた5テーマだけでバトルするレギュレーションです」
「ああ、だからマイナーの『マイ』なのか。オナってのは、何なんだ?」
「お、おな、ってのは……。おおおおおおおおおおおおおお」
てまりが壊れる。
顔を真赤にしている。
何かの地雷に触れてしまったらしい。
「すまん。それで、そのレギュレーションに参加予定なんだな。」
「あっ、ひゃい! そのですね、わたしの好きだったマイナーテーマがピックアップされておりまして……」
「ああ、だから、このタイミングでWCPの大会に参加することに積極的になったのか」
自分が昔使っていた愛着のあるカードが、再度公式で使えるタイミングが来た。
というのは、カードゲーマーとして嬉しいことに違いない。
「そ、それもあるんですけど。……えっとですね、これ見て欲しいんです」
そう言って、てまりは1つのニュース記事を見せてくる
「こっ、これは……」
「凄くないですか、相模さん?」
「おお」
てまりが見せてきたニュースの1文。
――大人気デジタルアーティストの『カナコシ』。WCPの次シーズンの大会入賞賞品の制作を手掛ける。――
「カナコシって、あの星崎みちる作品のキャラデザしてるカナコシだよな? これ本当なのか?」
「はい、そのカナコシさんです。これが発表されて直後、界隈は大盛りあがりでして」
カナコシ。
星崎みちると同様に、新進気鋭のコンテンツ製作者である。
星崎みちるがストーリーテリングの方に才能を見いだされたのに対して、カナコシの才能が発揮されたのはキャラクターデザインやアニメーション演出といったデジタルアーティスト分野であった。
2人は親交が深いらしく、星崎みちる作品の多くが他メディア展開するにあたって、その多くのキャラデザをカナコシが行っている。
なので、星崎みちるを追っているなら、自然と目に付く名前であった。
元は星崎みちる作品からの人気であったが、徐々にカナコシ個人としても認知度を得ていった。
そして現在、カナコシは世界のトップデジタルアーティストの1人として広く認知されている。
「わたしも、みちる先生経由でしたが、カナコシさんのファンでもありまして」
「だから、今回大会に参加して、賞品を獲得しようと?」
「はい、そうなんです。……ですけど、これまでWCPは遊んできましたけど、このような大会に参加するようなことは今まで一度も……」
「あー、だから仲間が欲しかったと?」
「有り体に言うと、そうです」
「それなら、オレで良ければ任せてくれ!」
「ありがとうございます。非常に心強いです」
決意も新たにというところだが……。
「でも、オレはこの通り初心者だからな。あまりその、強くなるための相手として適切ではないかもしれんぞ? マイナールールとはいえ、結構競争激しいんだろう?」
「そうですね。カナコシさんが制作しているということで、競争が激化しているみたいです。今回の賞品はきっと、3倍くらいの市場価値になるんじゃないかって言われています」
ということは単純計算で、小規模の大会でも16位に入賞したら60万になるっていうことだ。
ゲームを介して動いている金の大きさに、改めて驚きを覚える。
「そこで秘策があってですね……」
「おお、なんだ? 手伝うぞ」
「実はですね。そのマイナーテーマ……『テンセカンズ・ナイツ』というテーマなんですけど。わたし、スペースシップ内の『テンセカンズ・ナイツ』のグループに所属していまして」
スペースシップというのは、閉じたグループ内で交流を深めるのに特化したSNSである。
我々、非生産系コミュニティー内でも、1つプライベートなグループを作って連絡を取り合ったりしている。
その特色から、否定派からは古参優越の新規参入を阻むSNSだと揶揄されてもいる。
グループは宇宙船を模した単位で表され、メンバーは宇宙船のクルーという設定になっている。
入船順に船員番号というのが振られ、周囲からこれみよがしに確認ができるようになっている。ようはファンクラブの会員ナンバーのようなものである。
また権限を持つアカウントが任意のタイミングで宇宙船を離陸させることができる。離陸した宇宙船は、再び地上に戻るまで新たに乗船することができなくなる。
そうなると外野の人間は、宇宙船で繰り広げられる会話を中継場所で見て、それにコメントを打つくらいにしか接点を持つことができなくなる。
元々は仲の良い有名人グループの会話を、割り込まずに眺め、それを同士と分かち合うのを目的として作られたサービスらしい。
今では、様々なコンテンツのファンの中で、急激に人気が出た際に古参だけで閉ざされた場所で深い話しをする際なんかにも使われるようになっている。
他には、各スポーツにおいて、シーズンが始まる前に離陸して、チームへの忠誠心を示すためのファンの集いの場となっていたり。
そんな中の1つに、カードゲームのマイナーテーマ同好グループがあって、てまりはそこに運良く所属していたらしい。
「なるほど、つまりそのグループのメンバーはテーマのプロフェッショナル。戦い方を熟知してるっていうことか!?」
「はい、そうなんです。そして、その……明日、実はオフ会なるものがあるんですけど……」
「そうか、そこで親交を深めて、大会に向けて特訓をしていくわけだな?」
「あー、はい。でも。えーっと、その……。実はリアルで会うのは初めてでして……。毎回、オンラインで参加していたもので。
つまりその……付き添ってもらっても良いでしょうか?」
なるほど、シェアハウス内で先に参加者を募ったのは、リアルオフ会に行くのが不安だったので、付添を必要としていたという面もあったらしい。
「もちろん! オレも一緒に行っても問題ないなら、こちらから同行をお願いさせてもらいたいよ」
ということで、優正は急遽明日、その集会に参加することになったのである。
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