第29話 中間テスト?奴はテスト四天王の中でも最弱…果たしてこの期末テスト様に勝てるかな…?

 さて、文化祭、体育祭の準備などで学校全体が活気づいてきたある日、朝のホームルームの時間に担任の山内先生が神妙な顔で教室に入って来た。


「皆さんに、残念なお知らせがあります」


 そして神妙な顔のままその言葉を口にした。


「文化祭や体育祭のことで浮かれているのは知っているが、実は来週からテスト週間だって、知ってたか?」


 その言葉を聞いた教室は、一瞬時間が止まったのかと思えるほど静かになった。

 修哉は既に予定を確認していて、美華と勉強を始めていたので特に思うことも無かったのだが、他のクラスメイトにとっては違ったようだった。


「また、あの地獄が始まるのか……!」


「やばいやばい、忘れてた!」


「終わった……」


 その証拠に、束の間の静寂の後にはクラス中で誰もが騒ぎ始めていた。


「はい、静かに! そもそも学生の本分は学業だぞ、それに、テストが終わったら文化祭までテストは無いし、その前に夏休みだ!」


 続けて山内先生から話された内容に、またしても教室は沈黙に包まれたあと、割れんばかりの歓声に包まれた。


 これには修哉も、知ってはいても改めて伝えられて少しテンションが上がりながら、それ以外に連絡事項も無かったようで、いつも通り授業が始まるのだった。




 ……さて、その日の部活の時間、修哉も正直、また駆と聡辺りが教えてくれと言って来そうだなと予想していたものの、予想の更に上を行った今の状況に開いた口が塞がらなくなってしまっていた。


「……何してんの?」


「「土下座」」


 修哉の目の前では、いつからそうしているのか分からないが聡と駆が入口付近、ぎりぎりで出入りの邪魔にならない場所で綺麗な土下座を披露していた。


「とりあえず、邪魔だからどいて」


 修哉がそう言うと、二人は声も出さずに、そして土下座のまま通行の邪魔にならない場所へと移動した。

 とりあえず、邪魔は消えた、と中に入ろうとすると、二人は修哉の後についてくるように、土下座のまま移動し始めた。

 ……うん、気持ち悪い。


 とりあえず荷物を置き、このままにしておいても面倒くさいと判断して二人に向かい合った。


「それで、大体何が言いたいのか分かるけど、何?」


「「勉強教えて下さい」」


 あまりに予想通りの言葉過ぎて、修哉は呆れて言葉も無くなってしまった。


「……はぁ」


 呆れたまま溜息を吐くと、部活の準備を始めながら修哉は口を開いた。

 ちなみに、そこで土下座している二人はいつでも部活を始められるように準備は終わっており、着替え終わった状態で土下座していた。


「来週からテスト週間だから部活は無いって言ってただろ? それなのになんで今更頼んできたんだ?」


「……話を聞いていなかったから、部活休みなんてちょうどいいから、バンドの練習をしようと思ってました……」


「……ああ、結局バンドやるんだ。それにしても文化祭は夏休み後だし、いくらでも練習出来るだろうに」


 痛いところを突かれたのか黙ってしまっている二人を見下ろしながら、そろそろ部活の始まる時間だと考えていると、丁度入り口から部長たちが入って来た。

 部長たちも流石にすぐには何が起きているのか分からなかったようで固まっていたが、何かを思い出したのかすぐに納得するとそのまま着替えに行ってしまった。


 ……きっと、部長も経験あるんだろうなぁ、俺の方を見る時に哀れんだような、疲れたような顔を向けてきていたし、土下座している二人を見る目が、おそらく今の俺の目と同じだと感じたから。


 そんなことを考えながら、ようやく修哉は二人に向けて口を開いた。


「教えるのは良いけど、移動する時間が勿体ないから教室か部室でいいか? 使用許可とかは二人で取ってくることが条件で」


 許可が出たことでようやく二人は顔を上げると、感謝の言葉を言いながら抱き着いてきた。

 それを何とか引き剥がそうともがいていると、後ろから声を掛けられた。


「修哉君、その勉強会、私たちも教えてもらってもいいかな……?」


 声に反応して後ろを振り向くと、そこには愛莉と茜、それから同じ一年の部活仲間たちがそこに居た。

 一部、教えるまでも無く充分成績の良い奴らもいたが、ここまで来たらもうどうにでもなれ、と少しやけくそ気味に修哉は承諾し、場所は話を聞いていた部長が許可を出してくれたことで、部室でテスト週間の間、正門が閉まるまでの時間使えるようにしてくれた。



 結果、修哉は自分の思うように勉強は出来なかったものの、分からないという部分を分かりやすく説明するために散々復習することになって、美華に勝つことは出来なかったものの成績を維持することに成功するのだった。

 ……ちなみに、この勉強会が功を為したのか、弓道部ではギリギリだったものもいたが赤点をとるものはおらず、全員が再試験、補修を受けることなく済むのだった。

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そしてあの子に恋をした かんた @rinkan

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