貴族の家


突然だが、魔法というのは様々な種類があり、またそれを扱う魔法使いにも多くの種類が存在する。


攻撃魔法に優れた『魔術師』の他にも回復に特化した『回復術師』や死者を使役する『死霊術師』、儀式魔法を使える『祈祷師』や数は少ないものの支援を得意とする『時間術師』もいる。この前に言っていた『鑑定師』やフラムの使う占いも魔法の一つと言えるだろう。


しかしだ。魔法には発動させる『適性』というものが存在する。


回復に特化した術師が攻撃魔法を唱えても発動しないように、適性が無い属性の魔法を使おうとしても発動しないのだ。

まあ魔法一つ一つに適性があるという訳ではなく、厳密には魔法職の系統に適性があるかどうかなのだが。


ちなみに適性には優劣も存在し、魔法職の適性が低くても高い適性を持つ者より覚えられる魔法は少なくなる。適性は多少鍛える事が出来るらしいので詳しいことは分からんが。


まとめると、魔法使いとして成功する為にはその適性が高くなければならない。基準としては高い魔法職の適性、もしくは魔術師と回復術師など、2つの魔法に適正が有れば冒険者としては大成できるだろう。

まあ残念ながら経験不足で未熟なまま死ぬ奴らも出てくるので、有望そうな魔法使いは見かけたら俺の方もなるべく助言はしている。冒険者の心得だけだが。



話を戻そう。何故散々魔法という概念を魔法適性の一つもない俺が偉そうに喋ったのかというと、サリアの『権能』について説明するのに必要だからだ。


サリアの権能の本質は『全ての魔法に適性を持つ』というもの。


つまり具体的に何が出来るのかと言うと、サリア曰く『使用された魔法が何が起こるかを理解できれば操る事ができる』とのことだ。規格外にも程がある。

相手が魔法を使い、その魔法で何が起きたかを見るだけでその魔法を行使できるなんて笑い話にもならないが、実際に出来る奴がいるのだから困る。


だが……そんな規格外な存在であるサリアだからこそ、俺は彼女に頼む事にしたのだ。








________________











「……相変わらずとっつきにくい場所だな」



そう呟く俺の目の前には身の丈を優に超えた、凄まじい威圧感を放つ鉄製の壁……ではなく、門がそびえ立っていた。


周りが住宅街である中この扉はどうしようもなく浮いていて、どう見ても客を歓迎する感じでは無かった。敵を歓迎迎撃する系のモノだこれ。


少しするとギィィ……と重苦しい音を立てて門が開く。その先には門を開いた初老の執事と、今回の目的である少女が立っていた。



「お待ちしていましたわ、ノインさん」


「お前本当この門なんとかしろよ。怖いしなんか罪人みたいな気分になってくる」


「撤去して新しい物を建てるのにも費用が掛かりまして。他に優先すべき所に費用を回させて貰っていますわ」


「昔これ建てたのお前だろうが」



こんな厳つい門を設置しているから「誇り高き貴族」とか「最も貴族らしい貴族」とかいう噂話が無くならないんだよ。この門に全く負けない程デカい豪邸も噂に拍車を掛けている。

実際は見栄張って更に貴族らしくしようとした。というだけの話でそこには何の意図も物語も存在しない。



「見て、あの冒険者。『あの』フォンテーヌ家に入ろうとしているわ」


「見た感じ低級冒険者ね……借金でも返しに行くのかしら。若いのに大変そうねぇ」



ほら見てみろ。遠くで何やらご婦人達がヒソヒソ話をしてこちらを哀れな目で見ているじゃないか。雰囲気で分かるが別に悪い事をしたせいでここに来たわけじゃ無い。いやここにいていい人間ではないのは理解しているが。



「それじゃあここで立ち話をする訳にもいきませんし、中に入りましょうか。精一杯のおもてなしをさせて頂きますわ」


「いや、そんな大層なモンをされるような要件じゃないが……」


「私の家にまで来てもてなされないなんて、そんな無粋な事はしませんわよね?ノインさん?」


「……ハイ」



有無を言わさない眼光のサリアに思わず肯定させられる。ここまで本気に言われると何も言えないんだが。

というか最近俺の周りの女性怖くない?常時怖い奴は除いて、知っている女性の怖い一面を拝む機会が一気に増えた。女性不審になりそう。



「ヴォイドは後で門を閉めておいて。ノインさんは私に付いてきて下さい。それでは行きましょうか♪」


「かしこまりました」


「あ、ああ……」



綺麗な一礼をした後重そうな門を閉める執事を尻目に見て俺はコイツに相談するのは早まったかもしれないと思った。











________________











案内された部屋はそこまでの広さはなく、しかしそれを欠片も感じさせない優美な客室だった。

部屋の空間を意識してか控えめに置かれている調度品も素人の俺でも一目見ただけで一級品だと分かる物ばかりだ。場違い過ぎて落ち着かない。



「内密な話をするにはここが最適ですわ。紅茶を用意しますからお座りなさって。本当なら我が家が誇る最高の客室にしたかったのですが……」


「いや、俺をそんな所に置いたら緊張して何も喋れねぇよ。ここでさえ落ち着かねぇのに」


「なんなら慣れるまでここで暮らしても構いませんのよ?」


「アレか?庭に犬小屋でも立ててそこに住めって奴か?ありがたいな全く」


「もう!またそうやって直ぐに捻くれた考え方をする癖は直した方がいいですわよ!」


「だったらお前も平民を貴族の家に住まわすなんてアホな考えはやめとけ……って、前もやったなこの流れ。いい加減本題に入るぞ」



俺がそういうとサリアは「あの誤魔化す癖も直さないと……」と何やら不穏な事を呟いた後、ため息を吐いた。おい、何だその出来の悪い息子を見る母親の目は。俺の母親は一人だっつってんだろ。何で俺を息子にしようとする年下女性が増えてきてんだよ。


ちなみに二人で話をしたいという要望を汲んだサリアが紅茶を持ってきた従者に部屋に入らないよう指示をし、意気揚々と受け取った紅茶を俺に淹れようとしてまた揉めたがここでは割愛する事にした。





________________







「……それで、『権能』について鑑定を行なって欲しい、という事でしたわね」


「ああ、そうだ。魔法を全て覚える事が出来る権能を持っているお前なら出来ると思って手紙を出した」



結局サリアに淹れてもらった紅茶を一口啜りながら俺はそう答える。


そう、サリアの権能は使もので、文字通り魔法なら『何でも』覚える事が出来る。


つまりは秘密裏に俺の事も『鑑定』する事が出来る、というわけだ。



「話は分かりました。それで確認なのですが、ノインさんに権能が発現したというのは……本当なんですか?」


「それを確かめるためにここに来たんだろうが。気持ちは分かるがな。昔からの付き合いのやつに言われたんだよ。得体の知れない力に関しては詳しい奴だから無視する訳にもいかねぇし。まあもし無かったら妄言だったと笑ってくれ。本当にあるより百倍マシだ」


「その方は一体……いえ、それは今は必要ありませんね。それでは魔法を唱えるので立って下さい」


「わかった」



立つように言われて俺は立ち上がる。さて……どうなるかな。



「準備は出来ましたか?それでは……『鑑定』」



サリアの唱えた呪文に俺は深く息を吐いてその時を待った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

才能のないベテランEランク冒険者だけど何故か目を付けられるんだが? 菜露 守仁 @goodluckworld

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ