権能


夜も深くなった時間帯。

ラウムと別れて自宅に帰り、諸々を終えた俺はそろそろ寝るかとベッドに入り目を閉じた。しかし、頭の中で別れる前に最後に言われたラウムの言葉が反芻され、上手く寝付けない。


「権能……ねぇ。いやいや……まさかな」


奴が言うには俺に『権能』がついているとかなんとか。

しかし考えたもののやはり絶対にあり得ないと断じる。権能はそんな生きてたら勝手に付いてました、なんて理由で付く代物じゃない。


「権能は発現したら予兆があるって聞くが、別にそんな感覚……というかそんな簡単に付いてたら今頃世界なんか滅んでるわ」


『権能』とは、いわゆる特定の個人のみが持つ力の事である。

信仰とある程度の素質さえあれば授かる事の出来る『加護』とは違い、努力してどうにかなるものではないと言われている力だ。俺は加護のほうも信仰心が足りなかったのか知らんが授けられなかったんだけどな。


それはともかく、この力に関してはあらゆる説があり、「生まれ持った才能が進化した」という説もあれば「何かのきっかけで神から愛を受けた証明」なんて説もある。

まあ権能を持った者は極々僅かであり、更に権能が発現するタイミングはバラバラであることから詳しい事は殆ど分からないらしいが。


ここだけ聞くと権能とは言ってもただ珍しい加護なだけではないか、と思ってしまうが、もう一つ権能には大きな特徴がある。


それは加護とは比べ物にならないほどの『強力さ』だ。


戦闘向きや非戦闘向きに限らず、総じて権能は能力としての性能が凄まじい。どれもが能力一つで街一つ、下手すれば国一つを動かす事ができる能力を持つのだ。中には世界の理すら歪める事が出来る権能もあるらしい。


それほど権能は強力なため、別の国では権能持ちを隔離、管理を徹底している国もあるらしく、権能持ちを捕獲するための秘密組織まで存在しているのだとか。スケールがデカすぎて俺にはあんまり想像できん。

ちなみにこの情報は某腐れ縁の商人から聞いた。聞いた時思ったがアイツ本当に大丈夫か?突然後ろから刺されたりしない?


「……まあ大丈夫か。世界滅んでもなんか生きてそうだし」


話は逸れたが、つまり何が言いたいのかというと、そんな大層な権能様が俺みたいな雑魚もいいところの冒険者に付くはずがない、と言うのが俺の結論だ。


「もし本当に権能が付いてたとしても今更感がな……」


十年ぐらい前なら跳ね上がるほど喜んだだろうが、安定した生活サイクルを組んだ今、それが壊れる事は好ましくない。もし権能が俺に発現していたとしても面倒事を避けるために無視するかもしれん。


「……まあ、確かめに行くぐらいならいいか。……未だに信じれないが、あそこでラウムの奴が嘘を吐くことも同じくらいありえないしな……」


『ボクが嘘を付く時は君が冗談と捉えられる時だけだよ』なんて事を前に言っていた記憶があるし、今回の発言も嘘ではない……のだろう。恐らく。

このまま放置した結果クエスト中やギルドの中にいる時に突然暴発、なんて事になったら目も当てられない。それなら権能なんて付いてませんでした、で恥をかいた方がまだマシだ。


「そうと決まれば明日……待て、どこに行きゃいいんだ?」


いや、権能とかはギルドに勤務してくれている鑑定師に見てもらえればいい。クエストで取ってきたアイテムを鑑定してくれるだけでなく、頼めばステータスも見てくれるからな。


勿論何もなければそれでいい。だが、万が一何かしらの権能が発現していた場合、どうなる?


『まあ権能持ちは一つの国に数人いれば良いと言われてるからネ。どんな能力でも全力で囲いに行くと思うヨ。安易に外に出て行かないように国直属という形でネ』


「……」


某商人がそう言っていたのを思い出し、冷や汗が流れる。これ、気軽にとは言っていたがかなりマズイのでは?生活サイクルどころか今後の人生180°変わる可能性まであるぞコレ。


「勘弁してくれよ……俺は今まで全く強くなれなかったEランクの冒険者だぞ。何したって言うんだ……」


一旦放置するか?いやでも得体の知れない力がある可能性を放置するのは恐ろしい。

個人で鑑定してもらおうにも『鑑定』の魔法を使える奴はほぼいないから無理だ。鑑定を使える奴は皆ギルドなどの鑑定師になる。


「クソ、個人で鑑定してくれてしかも内密にしてくれる知り合いなんてどこにも……」


あっ、と間抜けな声が漏れる。いた。鑑定魔法だけでなく、覚えたら何でも扱えると豪語していた知り合いの貴族が。しかもそれが権能の力だとこっそり俺に教えた奴が。


「……明日会いに行くか」


今から寝れば少し寝不足になるだろうと予想できる真夜中、俺はそう決意しながら眠りに付いた。


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