3☆お琴の練習をしなくてはなりませんので

 次の日。


 亜実と壱は、学校帰りに隣町の病院へとやって来ていた。


 ルミちゃんに会いに来たのである。


 小雪は「わたくしは今日はお琴の練習をしなくてはなりませんので」とのことであった。


 その道中、立ち寄った花屋にて。


「うーん、お見舞いの花束が千円ねー。壱アンタ、今いくら持ってる?」

「八百二十円かな、亜実は?」

「えー微妙じゃない? あたしはねー、……百八十円」

「まじか、すげェな」


「この日のためにあるみてぇ」と、壱が笑う。


「ほぼアンタが払うけどね」

「ハイハイっと」


 日頃から、亜実にお菓子やらアイスやらなんやらを奢らされている壱は慣れているのである。


 ◇ ◇ ◇


「ルミちゃんこんにちは! 亜実お姉さんと壱お兄さんがお見舞いに来たよ〜」

 

 亜実が、色とりどりの花をルミに笑顔で手渡す。ルミは、ぱあっと花が綻ぶような表情かおだ。


「わあ! ルミの好きなお花! 嬉しいぃ〜! ありがとう亜実ちゃん、壱くん!」

「おー、ルミちゃんは素直で良い子だなー、亜実と違ってめちゃカワイーわ」

「一言余計だかんね?」


 亜実がギロリと壱を睨む。


 三人でアイスを食べながら、いつもお見舞いに来てくれるというルミの友達の話をした後で、人気アイドルが結婚した話などをして、そこから繋がり、いよいよ話題は亜実と壱の仮の結婚式の話だ。

 

「ルミの為に結婚式してくれるってことは、亜実ちゃんと壱くんは、付き合ってるんですか?」

「そう見える?」


 亜実がルミに問う。

 

「見える!」


 ルミがキラキラした瞳でそう答える。


「あたしもっと背高い人が好きなんだよね。顔ももっとイケメンで、あとオシャレな人がいい」

「悪かったな、全然好みじゃなくて」


 壱が顔を引つらせて答える。


「ちょっとトイレ行ってくる」

「行ってらっしゃ〜い」

「おー」


 亜実が病室を出ていった後、なぜかルミが、にやり、と笑って壱に言う。


「壱くん、亜実ちゃんのことすきでしょ」


 ブーッ! 思わずお茶を噴き出す壱。


「な、なんでそう思った?」


 壱の顔からポタポタとお茶が滴り落ちる。


「んー、だって、壱くんが亜実ちゃんを見る時の目が、完全に恋してる目なんだもん」

「……正解」  

「やったあ! 当たった。亜実ちゃん、ちょっと理想高そうだけど優しいと思うよ。頑張って」


 壱は顔に浴びたお茶を拭いながら、「今時の小四すげーな」と苦笑いだ。


「わたしね、このままだともう長くないんだ。自分の身体だからわかるの。だから、ルミが一か八かの手術を受けるかわりに、壱くんは仮の結婚式で亜実ちゃんに本気の告白するのね? 壱くんとルミの約束」


 壱は少し考えてから、真面目な顔で、差し出されたルミの小指に自分の小指を絡めた。


「ああ。約束だ」

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あみいちこゆき! 二ノ瀬美亜 @ronronkuron

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