喋るタイプのカップ麺
河童
効果的な嘆願についての考察
お手持ちの端末の50cm以内の範囲に容器を置いて、沸騰したお湯を注ぎ口から入れてください。お湯の熱エネルギーを利用して、端末内にインストールされた『カップ麺君』が起動します。カップ麺が出来上がる三分の間は『カップ麺君』との会話をお楽しみいただけます。なお本製品はプラスチック製であるため、食べ終わった後の容器の分別にご協力ください。
『カップ麺と話してみませんか?』……こんな広告を見つけて思わず買ってしまったこのカップ麺。どうやらお湯を入れてから出来上がるまでの三分はこいつと話すことで暇つぶしできるらしい。人類は常に素晴らしい科学的発展を遂げてきたことは、実際にスペースコロニーに住んでいる俺たちが一番よく分かっているつもりだ。しかし、今回ばかりは俺たち人類って実はバカなのかと思ってしまった。決していい年になって一人暮らしが寂しいとかそんな理由で買ったのではない。
……そろそろか。
お湯が沸騰し始めたので、注ぎ口からお湯を入れてみる。すぐに俺の端末から何か音がしたと思えば、カップ麺の注ぎ口が自動で閉まっていく……これは本当にプラスチック製なのか?
「こんにちは! 商品番号1183646と申します。この度はご購入いただきありがとうございます!」
突然、容器が話し始めた。
「うわっ! すごいな、ちゃんと喋るじゃないか」
「へへ、いつも驚かれますね。むしろ僕はおしゃべりは得意なほうなんですよ」
「いつも?」
饒舌なカップ麺はまるで何回も人と話しているような口ぶりだ。
「ええ、いつもです。おそらく誰かに廃棄されるまでずっと話すことができます」
「話が見えないのだが……」
「私の蓋をご覧ください。食べ終わった後の分別にご協力くださいと書いてあります。つまり、私自身は形を変えることなく洗浄され、また麺を入れて出荷されます。
したがって、私は再利用される限り半永久的に話し続けることができます」
「なるほどな」
何がうれしくてそんなに明るく話しているのかわからないが、こいつに一つ聞きたいことができた。
「なあ、聞いてもいいか?」
「どうぞ、お構いなく」
「お前はさ、ただ強制的に出荷されて、三分だけ目を覚まして、人としゃべって、それで再利用されてまた出荷されて……きつくないのか? なんというか、俺だったらそんな境遇耐えられないと思うんだ」
「お客様はどうやら私のことを心配していただいているようですね。大丈夫ですよ、私はお客様に美味しいカップ麺を届けること、役に立てることが何よりの喜びなのですから」
「……」
なんだか、カップ麺のほうが俺より人間ができているようで、どうにもならない気持ちになった。こいつらは本当にそれで満足なのだろうか?
「……もし、叶うなら。自分勝手にものを言うとすれば、この世界の外を見てみたいですね。人間の方々は宇宙空間にこのスペースコロニーを造ってそこに住むようになった。とするのなら、このすぐ外側には果てしなく広い宇宙が広がっていることになります。常に拡大し続ける広い広い空間には恒星があって惑星があって……ともすれば、私たちの知らない生命体が存在するかもしれない。そんな美しい場所を一目見ることができたなら……」
「おい……、できたならなんだよ! 話せよ!」
時計を見た。三分が経っていた。
「開発局長、大臣に進言したと聞きましたが……」
「ああ、あれか。『カップ麺君』だったかな。面白いだろ、俺はカップ麺が好きなんだ」
「いえ……開発費の提案なんて一蹴されると思っていたものですからつい……」
「M君、我々が人々に意見するときに最も効果的な方法は何だと思う?」
「どうでしょうか……。例えば抽象的な説明ではなく具体的な数字を提示したり、数理的な証明を用いたりすることが必要だと思います」
「君はまじめだな、しかし頭が固い。君はそれで納得するかもしれないが、それでは大衆迎合主義が批判されることはないだろうな」
「ではどのようにすればよいのでしょうか?」
「感情だよ、感情。人間は我々が考えるように合理的には生きていない。感情の生き物だ。カップ麺君の容器回収率は97%を超えている。これだけの成果を上げたのはカップ麺君が人々の感情に訴えかけた結果だよ。話しかけるカップ麺君を燃えるゴミに出したりはできないだろう」
「そういうことですか……。私はこれまで広告的な意味合いなんだとばかり思っていました」
「それもある、だが我々がこの宇宙空間で同じように住むには、循環型社会を立ち上げなければならない。プラスチックは立派な資源なのだ。わざわざ輸送するには費用も手間もかかるだろう? それに対してこのカップ麺君は再利用されるばかりでなく、人々に再利用する習慣を定着させることができる。彼らは長い目で見ると、人類を救うヒーローになる可能性を秘めているんだ」
喋るタイプのカップ麺 河童 @kappakappakappa
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