7話目「夕美映小学校に登校する寸前、竜也と木ノ美から【夕美映小七不思議】を教わるうぅ!?」




「よしっ、と」。


 いつものお務めを終わらせた白太。


「……シロ。なーーんかお前って、やっぱり特別だよな」。


 彼はムクっと立ち上がり、竜也と木ノ実に身体を向けた。


「いっつも繰り返し繰り返しお地蔵の前で、口笛をピューピュー吹いてるけど……それって、いったいどんな意味があるんだ? 前々から気にはなってはいた、けど……」


「……えっ、それは……」


「あっ、わりわりい。つかぬことを聞いちゃったな」。


「つかぬって、どういう意」


「あー、要は意味のわかんないってことだよ」


「あー!! ……そういう意味か! ……」。


 竜也はしらじらしく何とかその場をよそおった。


「……うーーん、実をいうとね、僕も何で口をとがらせてるのか、全くわからないんだよう。この町に引っ越してきて数ヵ月ぐらい経ってから、この夕美映町にいっぱいある御地蔵様の前を通ると、自然と『やらなければ』みたいな感覚? そんな言葉みたいな気持ちになってね、いつのまにやら『なにかの意味』で口笛を吹いている。そんな感じなんだあ」


 白太はそういうと困惑したように下を向いて、御地蔵様に向けて口笛をする時にも必ず合わせる掌をみつめて、今度はそれをいじくり始めた。


「シロちゃんはさあ、わたしにも理解が解らずだけれども、凄いことを果たそうとしてるんだよ!! きっとシロちゃんにしか出来ないことを、為せば成る!  みたいな感じでやろうとしてるんじゃ、ないかなあ?」


「、そうだな! 夕美映町の人たちもお前と顔なじみの人いっぱいいるから、お前はすげえことをやってんだって!! 堂々と胸張って歩けっ。なっ、シロ!」


「二人ともどうもありがとう……。こんな僕だけどお役に立ててるなら夕美映町の人たちにも感謝だよ。そうじゃない人たちもいるけど……、あっ。そういえばまだいってなかったことがあった。なんかね。さっき話してたその口笛が終わったあとはね、すっごくスッキリするんだー!」


「そうか。じゃあな……シロのその『不可思議な面白さ』とも絡めて、謎の口笛を吹いてスッキリしたところでな、この俺朱我利竜也がまだシロくんは聞いたこともないだろう、とびっきりの怖い話を。聞かせてやろお~~!」


 そういうと竜也は白太を怖がらせようと、両手を前に大きく振り上げる仕草をとった。


「え~~。何の怖い話しー? 私聴きたくな~~い」


「自分の黒勾ノ怪人はいいのに、俺の怖い話しは嫌なのかよ……。ってそんなことより‼ シロ『夕美映小七不思議』は聴いたことあるか⁈」


 竜也は目を爛々としながら白太の瞳をみては、その目を細める。

 白太は竜也の発した『言霊』で、心霊・オカルト的なものへの恐怖がまた甦った。


「ううん、ないけど……。それって、このみん(木ノ実)もいってたように、ちょっと怖いの?」


 白太がそういうと、竜也は「ヘヘン‼」といった感じで鼻を人差し指でさすった。


「まあ、いかにも変だったり不思議だな。と思うのもあれば、ちょっと奇妙だったり不気味だったり、更には、裏に何か巨大な陰謀説があるような……まあ、要はいわゆる都市伝説的なものに過ぎないものだな。そういった昔から語り継がれてきた、怪談めいた逸話があるんだよ、この夕美映小にはな」。


《怖いのかあ。ちょっとやだなあ……》、


 白太がそう裏腹で思っていると。


「わたしはそれよりも夕美映町都市伝説の黒勾ノ怪人の方が興味あるなあ~。シロちゃんの話だといかにも妖しい感じだけど、なんか大人の男性って感じがして、ミラクル的要素もあってなんかカッコいいな~。って思っちゃう♡」


《そ、そ、そんな~~……。ガクッ。で、でも‼ ここで落語の怪談のように『渋く』語れば……!》


 一度は木ノ実にそっぽを向かれた気になって肩を落とした竜也ではあったが、改めて木ノ実にカッコいい「語りがさまになっている自分」をみせる為、白太に夕美映小七不思議を教えるのだった。


「えーー、毎度相変わらずのお付き合いではございますが、それでは。夕美映小七不思議。その一つ目から七つ目までを、申しあげることと致しましょう……」


~~


[一つ目;理科室の人体模型が深夜、同じく隣に標本として飾られている骨格模型と、一緒になってバカ騒ぎをしている]


<バカ騒ぎって……僕はあんまり怖くは感じないね。

<これはこの学校の生徒のなかでも、一番最近話題になってる七不思議だな。


[二つ目;音楽室にあるピアノでごんぎつねを演奏すると、どこかで必ず狐の嫁入りを目にする]


<なんで夕美映小の音楽室でごんぎつねを演奏すると狐に会うのか不思議だよね。魅力的だったという見た人の証言の話、わたし聴いたことある~。

<僕でも不思議だなーと思うよ。


[三つ目;第四棟と第五棟の校舎の渡り廊下のスロープの、踊り場の壁に飾ってある絵画のモナリザが、深夜になると額縁から抜け出て校舎を徘徊する]


<いきなりここで背筋がゾワッとするような、恐い七不思議なんだよな……。

<見た人の証言によると、そのモナリザよりも何故階段じゃなくてスロープなのかが、引っかかるようだよ。


[四つ目;校舎の裏庭の荒れ地の一角に、謎の黒光りする建物が浮かび上がる]


<何だろう…………この七不思議。

<【死】の四つ目か……。噂によればいまの夕美映小が出来る前の、旧校舎みたいだって『パパ』がいってた。


[五つ目;夕美映小校舎の裏庭にある『夕美映小池』は、三時三十三分に池の中を覗いて河童と目が合うと、その河童と友達になれる]


<なんかさっきの七不思議からわたしホッとしたー。

<俺もー。夕美映町は元は湿地帯だったから、河童にまつわる伝説も多いんだよな。


[六つ目;夕美映小の第五棟の校舎には、謎の地下室がある]


<謎の地下室……。竜也のいう陰謀説にはつながる?

<んーーとなあ……、こればっかりはほとんど闇に包まれてて、解明されてねーんだよなーー。

<どこかへと通じてるのかもしれないよねー。例えば【異界】とか……。


~~



「七つ目……。これはなあ、なっ。木ノ実」


「うん。そうだよねー、たっつ君(竜也)」


「えっ……ど、どうしたの二人とも」。


 いきなり白太は、言い知れぬ不安を二人から感じた。



「シロには……、わりいが秘密だ……」



 そういうと竜也と木ノ実は、突如としてまるで蝋人形になったように黙りこくると、くるっと白太からすぐに背を向け、先に校門の方までスタスタと歩いていってしまった。白太は、


《なんで最後の七つ目の七不思議、僕には言わなかったんだろう、竜也とこのみん……。もしかして。二回も不思議なものを見てしまった僕だから、竜也たちも頭がおかしくなってまったとか⁉》


 何故二人は同調して夕美映小最後の七不思議をいわなかったのか。その答えを、白太たちが知る「そのとき」は──。


~~



 そのまま三人は赤茶色の土のグラウンドで整備された、夕美映小学校の校庭へと入った。


 学校の正面玄関の方へと向かい歩きながら、一緒に並んでいる竜也と木ノ実の後ろで、


 さっきの二人の挙動にとにかく動揺し、情緒不安定な状態になってもおかしくない所を、白太は竜也の、木ノ美への好意をひそかに教えてもらっているため、竜也のことも思う自分の〖心に〗後ろ盾をもらい、なんとかテンパりもせず後ろで、おとなしく「ちろちろ」と。歩けていた、


 竜也と木ノ美が先に校舎へと向かっているなか、白太は、校舎と正門からみて西側、校庭のちょうど中央から少し並行移動した北側付近で「ピタッ」と立ち止まる。そこで、



 ……驚愕の現実のあまり、彼は絶句をするのであった。



「えっと、つまりは……。ええっ!! 箱〔百葉箱〕の温度計が、……マイナス99度おおおぉぉ⁉」


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銅像妖怪・二宮金次郎くんと! 夕美映町『午前6時前の百鬼暁行』 冬咲花堂 @konnohikamu

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