ヒトから生まれたヒト太郎
@track_tensei
ヒトから生まれたヒト太郎
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きなヒトがドンブラコ、ドンラブコと流れてきました。
人間の死体は、長く水に浸かっているといると、腐敗ガスが内部に充満して大きく膨れてしまうのです。
おばあさんは驚いてヒトを引き上げ、家に持って帰りました。
家に帰ったおじいさんとおばあさんがヒトを真っ二つに割ると、中から元気な赤ん坊が出てきました。
おじいさんとおばあさんは、ヒトから生まれた赤ん坊に『ヒト太郎』と名付け、大事に大事に育てました。
*
月日がたつうちに、ヒト太郎はスクスクと大きくなりました。
そしてある日、ヒト太郎は言いました。
「おじいさん、おばあさん、僕は鬼ヶ島へ行って悪い鬼を退治します」
おばあさんは長年醸造していた名酒『鬼殺し』をヒト太郎に与えました。
旅の途中、ヒト太郎はイヌ太郎に会いました。
「ヒト太郎さん、あなたはどこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼を退治に行くんだ」
「それでは、お腰につけた酒を一口くださいな。僕は犬のように駆けられます。おともしますよ」
イヌ太郎は酒をもらい、ヒト太郎の道連れになりました。
ヒト太郎が旅を続けると、こんどはサル太郎に会いました。
「ヒト太郎さん、あなたはどこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼を退治に行くんだ」
「それでは、お腰につけた酒を一口くださいな。僕は猿のように大暴れできます。おともしますよ」
サル太郎は酒をもらい、ヒト太郎の道連れになりました。
ヒト太郎が旅を続けると、こんどはキジ太郎に会いました。
「ヒト太郎さん、あなたはどこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼を退治に行くんだ」
「それでは、お腰につけた酒を一口くださいな。僕は雉の様に飛び回ります。おともしますよ」
キジ太郎は酒をもらい、ヒト太郎の道連れになりました。
こうして、四人は旅を続けました。
*
イヌから生まれたイヌ太郎、サルから生まれたサル太郎、キジから生まれたキジ太郎、そしてヒトから生まれたヒト太郎は、ついに鬼ヶ島へやってきました。
鬼ヶ島はたくさんの鬼で溢れかえっていました。
ヒト太郎たちは腰に付けたお酒を出して、盛大に酒盛りをはじめました。
「みんなぬかるなよ。それ、かかれ!」
酔った四人は鬼たちに襲い掛かりました。
イヌ太郎は鬼のおしりにかみつき、サル太郎は鬼のせなかをひっかき、キジ太郎は鬼の目をつつきました。
そして、ヒト太郎は手にした刀で大暴れです。
とうとう根を上げた鬼の親分が、手を付いてあやまりました。
ほかの鬼たちも、それに続いて頭を下げました。
それでも、ヒト太郎たちは、それまであった恨みつらみを有りったけ鬼たちにぶつけました。
死体から生まれたことも、動物に育てられたことも、みんな自分で願ってやったことではありません。
生まれながらの、どうしようもないことだったのです。
本人たちでは変えられないことだったのです。
「それ、鬼を退治するぞ!」
ヒト太郎たちは町へ入り込み、鬼を片っ端から退治しました。
ヒト太郎たちの生まれが卑しいと、厳しく迫害してきた鬼たちを、残らず退治していきました。
*
ヒト太郎とイヌ太郎とサル太郎とキジ太郎の酔いが醒めたころ、四人は地面に転がって天を仰いでいました。
夜の空には月もなく、星の光も見えません。
四人のからだには、牙の痕や爪の痕やクチバシの痕、そして刀の傷がたくさん残っていました。
とおいくにもとでは、おじいさんとおばあさんがヒト太郎が帰ってくるのをずっと待っています。
音もしない夜はこうして更けていくのでした。
めでたしめでたし
ヒトから生まれたヒト太郎 @track_tensei
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