都内在住25歳独身女の憂鬱

胡麻

第1話「会社辞めるの?!」

 「ねぇ、やっぱ辞めないどけば。」

LINEの新着メッセージに表示された一文を、文音は表示させないまま読んだ。


スマホでYouTubeを観ながら寝転んでいたところに親友のハルから届いたメッセージだった。


文音とハルは大学時代からの親友だった。

同じゼミで親しくなり、いまだに月に1度は会って近況を語り合う仲。世界にはありふれた、けれど1人の人生にはそう多くは居ない、深いようで浅いようで、深い仲。


ひとはいつ、どのタイミングで結婚式に呼ぶ友人について悟りはじめるのだろう。文音にとってハルは、


あー…、私にとって結婚式に呼ぶであろう親友はこの子で、学生時代のエピソードをスライドショーで流したりお祝いのスピーチに涙したりしながら互いの人生に今後も関わっていくんだろうな、


…と、なんともドライな、けれど現実的な未来を想像するにあたって、必要な存在だった。「文音の人生」の「親友」のポジションにすっぽりはまった人間。

決して仲が悪いわけではなかった。卒業旅行も一緒に行ったし、愛情もある。

けれど、文音には昔から「親友は必要不可欠なもの」という考えがあった。

大人になってみると実態は違っていた。ハルのことは好きだ。でも、ハルがいなくてもきっと私は生きていける。それでも、親友は誰かと聞かれたらハルなのだ。不思議な、けれど地に足のついた。



「なんで。辞めるよ」

心の中でそう返事しながら、YouTubeを見続けた。


驚くことに、世に公開されている数多あるYouTube動画の再生回数のうち93%は、YouTube上の1%の動画に集中しているらしい。

また、同じく実際の視聴時間の94%は、やはりYouTube上の1%の動画に偏っている。

つまりYouTube動画の99%は、実際にはほぼ再生されずに終わっているということだ。


文音はこれを知った時絶望した。自分はこんなにも毎日動画を観ているのに、世間でもこんなにもYouTubeが流行っているのに、99%の動画は誰にもみつけられることなくネットの海の底へと沈む。1度沈めばその後誰かに見つけられ「見られている側の1%」へ返り咲くことはほぼ不可能だろう。


親友の定義しかり、文音はもう10歳の自分にとっての理想が実際とは異なっていることを知っていた。


どこかで分かっていた。自分が誰かに見つけられ、たった1%のコンテンツになる側の人間でないことも。


何かを変えたかった。そんな理由で辞めるべきではないこともわかっていた。だから文音は、会社を辞めることにした。

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都内在住25歳独身女の憂鬱 胡麻 @ntm

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