激速RPG

真山砂糖

あっという間の物語です

 日時計が時刻を打った。

「時間だ」

 俺は扉を開けた。半信半疑だったが、本当だった。自分の目を疑ったが、本当だった。その時、あいつとの距離がわずか5mだった。


 その日の朝、俺は王様に謁見し、勇者と認められて、魔王を倒すべく冒険へと旅立つこととなった。

 これから数か月、いや一年以上魔物と戦い続けて魔王の住む城へ向かわねばならないだろうと覚悟していた。まずは仲間を探さなければならない。俺は仲間探し専用の酒場へ足を運んだ。

 俺はその酒場でパーティーを結成する前にある男と知り合った。その男の話を始めは聞き流していた。とても信じられる内容ではなかったからだ。しかし、酒を飲んでいたこともあってか、だんだんと男の話に引き込まれていった。そして二時間くらい酒を飲みながらそいつの話を聞いていた。その男は、自分は未来から来たと言っていた。自分の言うとおりにすれば、必ずうまくいくと言うのだ。俺たちは酒場を出て、人目に付かない路地へ入った。そこで、俺はそいつからある物をもらった。幅1.5m、高さ2.5mほどの扉だ。男はそれを廃屋の壁に立てかけると去って行った。


 俺はその後酒場へ戻り、仲間を集めてパーティーを結成した。戦士三人と、勇者の俺の四人パーティーだ。

 俺は、新しい仲間三人に未来から来た男の話をした。三人は信じてくれた。そして俺たちパーティーは扉の置いてある場所へ行った。


 俺は未来から来た男の話した通り、時間が来るのを待った。しばらくして、男の言った時間になった。

 俺は扉を開けた。その向こう、わずか5m先にいるのだ。魔王が。

 扉は魔王の間の裏口と通じていたのだ。俺たちは魔王の真後ろにいる。魔王はこちらに気づいていない。俺は静かに魔王に近づき、背後から斬りかかった。

「ぐおあっ!」

 魔王は血しぶきを上げた。

 すぐに俺に続いて、戦士が斧を振り上げる。

「ちょ、待て! ぶはっ!」

 不意を突かれて魔王は何もできない。

「おりゃー、死ねやーーー!」

 残る二人も後に続いて斬りかかった。

「おごべばあああ!」

 魔王は吐血しながら膝をついた。俺たちは四人で魔王を囲み、袋叩きにした。

「卑……怯……な……」

 俺らパーティーの奇襲攻撃を受けて、魔王はあっけなく息絶えた。

 俺らは魔物を一匹も倒すことなく、いきなり魔王を倒した。

 その日の朝に王様に謁見してから、約四時間後のことだった。


 俺は世界を魔王の手から救った英雄になった。あの未来人のおかげだ。あいつの指示に従って、あいつのくれた扉を開けて、激速で魔王の元へ行くことができたからだ。

 未来人はその扉のことを「Anywhere door」と呼んでいた。

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