第1話 俺はホームレスになる

三か月前—


学校帰り、俺は汗だくで坂を登っていた。

距離で言えば大したことは無いが、この急すぎる坂のせいで家が遠く感じる。

足は重いし、汗は目に染みる。


登下校で毎日通ってるとはいえ、このキツさにはそう慣れるものではない。

気を紛らわすため、周囲を見回すと蝉の声が住宅街に響く。

蝉の鳴き声は嫌いじゃないが、この夏の雰囲気のせいで益々暑くなっている気がする。

イラつきを込め、蝉の声がする方に目を向ける。


すると、俺の前を高級車が通り過ぎた。

車の種類は全然分からんが、ベンツとかその辺だろう。


母は早くに亡くなり、父とは絶縁状態で貧乏の俺は一生乗る機会は無い。

車から目線を切り、しばらく自転車を手押しで進んでいると、坂の終わりが見えてきたので自転車に乗る。

平坦な道路をしばらく漕ぐとようやく俺の住むごく普通のアパートが見えてきた。



早くシャワー浴びてえ・・・



自転車を止め、アパートの階段を上る。

年季が入っているらしく、歩くたびにギシギシと鳴る。


「待って待って。浅野君」


突然名前を呼ばれたので振り返る。


「何だ、大家さんですか」


「何だとは何だね、少年よ」


大家さんは20代半ばらしいがファッションに気を遣わず、適当な部屋着で外に出てくる。

巨乳なのに、露出しまくるTシャツを着るのはやめえてほしい。

全然話に集中できない。


「すいません、取り敢えず、エロい服は着ないでもらえますかね」


「思春期の少年には刺激が強すぎたか!」


大家さんが肩を叩いてくる。あっ、いい匂い・・・

というか、当たり前だろ。思春期の性欲を舐めるな。

余談だが、「性欲を舐めるな」って字面下ネタにしか見えねえわ。


「というか、せっかく美人なんだから可愛い服を着たらどうですか?」


「いやー、高校生に褒められちゃったよ。そういえばこのアパート壊すからね」


微妙にポジティブな話に変えるな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

何か途轍もなく重要なことを言われた気が・・・


「何て言いました?」


「ん?高校生にエロいって言われちゃったって」


「そっちじゃなくて」


そもそもそんなことは言ってない。


「このアパート取り壊すからねの方?」


・・・・俺は一瞬でホームレスとなった。

いや、これガチでシリアスな。



俺は茫然とし自動販売機の隣に座り、夕焼け空を眺めていた。


買ったばかりの、100円のサイダーを少しずつ飲む。


体に冷たさが浸透されていく感じが、今の状況と相まって余計虚しかった。


ちなみに、あのアパート壊す宣言を聞いた後、俺は必要な物をリュックに詰め、すぐ出ていった。


ちなみに、壊す理由は何となくらしい。

何となくで家を壊し、俺を追い出すな。と突っ込みたい気持ちしかない。

まあ、今思ったところで何もないんだけどな。


取り敢えず、これからどうするか考えてみるが

…全然思い浮かばねえ・・・

だからと言って、父親や親族を頼るのは絶対に嫌だ。

でも、貧乏学生で金も無いから宿泊施設は利用不可能。未成年だし、アパートとも契約できない。

したがって、詰み。



しばらく考えるが、何も思い浮かばず、空を眺める。

一瞬、憎き元カノの顔が思い浮かんだが、すぐに却下した。

その時、突風が吹いた。

風にあおられ、一枚の紙が飛んできて、俺の顔に直撃。

イラつき、遠くに投げようとしたが、思いとどまった。

何故なら、時給3000円のバイト紹介がプリントされていたから。

3000円何て、高校生の俺にしてみたら、相当高い。

取り敢えず、紙に目を通してみる。



どうやら、住居や食事も提供してくれるらしい。

しかし、不可解なのがバイトの条件だ。


一つ目、高校生であること。


二つ目、イケボであること。


この二つ目が謎。

一つ目の「高校生」ってのは分かる。高校生は体力などの事情からな。

しかし、イケボって何?運がいいことに俺は声だけには相当自信がある。

それでも、この条件は気になる。一体、どんな仕事するんだよ。


しばらく考えた結果、取り敢えず受けてみることにした。

面接の住所・日時をスマホのメモ機能に書き込み、今日の寝床を探しに自転車に乗った。












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俺のご主人様は元カノだった 冴えないkitoki @kai_tunndere

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