俺のご主人様は元カノだった

冴えないkitoki

プロローグ

「浅野 大貴ーーー!」


先程まで静寂だった10畳程度の広い部屋に突然怒鳴り声が響く。

俺はダラダラ本を読んでいたが、突然の声に体を震わせた。


「結衣!何だよいきなり、うるせえな!」


趣味を邪魔された怒りを声に乗せる。

本を閉じながら、俺は相手を睨んだ。


「だから、始まりはもっとイケボにしてって言ってるでしょ!」


それに対し相手もイヤホンを外しながら、負けじと睨み返してくる。


「お前のイケボの定義を聞きたいわ!お前はいつも大雑把なんだよ!」


「大雑把?私は丁寧で有名だけど?アンタの心が狭いだけでしょ?」


何だコイツは、いちいち人をディすらなきゃ駄目なのか?

だが、ここで負ける俺では無い。性格の悪さには定評があるからな。


「へー、丁寧か。バレンタインに渡してきたチョコ、あれも丁寧か」


「そ、その話は卑怯よ!あの日は新曲作ったばっかで忙しかったの!」


「んで?歌の始まりをどうしろと?」


「だから、イケボにしてって!というか、急に話を戻すな!」

仕方ないだろ。ちょっといじりづらい理由だったんだから。

結衣が机を叩きながら立ち上がる。


「イケボが分かんねえって言ってんだろ!上手く説明しろや、自称天才ボカロp」


ちなみにボカロpって言うのは、ボカロプロデューサーの略称な。

簡単に言えば、ボカロを作る人。以上。


「歌うのはアンタの役目でしょ?天才歌い手さん?」


「天才?ふーん、俺を天才と言ってくれるのか?もしかしてファンか?」


俺は笑みを浮かべる。


「あ、アンタだって天才って言ってきたじゃない!」


「残念だったな、俺は自称って言ったんだ。自信過剰は良いことだが、俺を巻き込まないでくれたまえ、俺のファンよ」


「う~ざ~い!早く歌いなさいよ!」


「おい、不利になったからって、無理に話を変えるな」


「アンタだって変えたくせに!主人命令よ!」


「へいへい、追い出されるのは嫌なんで歌わせて頂きます」


俺たちはホントに奇妙な関係だ。

この家の執事やメイドから見たら、ご主人様と同い年の使用人。


俺らのファンから見れば、ボカロpとイケメン歌い手(自称)。

            ・・・・・

そして、学校から見たら—元カップル。


こんな奇妙な関係が始まったのは、約一か月前の事。

蝉が鳴き始めた時期。

そこから俺たちの奇妙な関係は始まった—






「ボーとしてないで早く歌いなさいよ!」


「危ねえ!ギターを振り回すな!楽器は大事にしろよ!」














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