【短編】ピザ

豊十香

【短編】ピザ


ある日、俺は友人に公園へ呼び出された。


「なぁ、ピザって10回言ってみて。」


「はっ?いきなり何?呼び出しておいて・・・。」


「いいから、頼むよ!なっ?なっ?」


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」


俺は渋々友人の頼みを聞いた。


「う〜〜〜〜〜ん。・・・・・なんか違うなぁ〜」


(なんか違うって何?普通、"じゃあココは"って指差して・・・っていう流れじゃないの?)


「いいや!もう1回言ってみて?」


友人は催促した。


「ピザ。」


「いや、今のもう1回は、もう10回をもう1回って意味だから。」


(えっ?怒られてる?)


「何なんだよ!もう1回をもう10回って。ややこしいなぁ?」


「ピザってあと10回言うのをもう1回っていうことなの!このもう1回っていうのはもう1セットっていう意味ね!わかる?」


(言い方腹立つぅ〜!ってか、完全にキレてるやん!こんなことある?別に集合時間に遅刻したわけでもなく、どちらかと言えば早く来たのは俺の方なのに、ものの数分でキレられるって、そんなことある?)


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」

俺はさっきよりもさらに渋々な感じで言った。


「あれ?手抜いた?」


「はっ?手抜いたって何?」

俺は若干イラっとして言い返した。


「あぁ、わるいわるい。手じゃないな、口抜いた?」


(そういうこと言ってんじゃねえよ!)


「今の言い方、完全にヤル気がなかったからさ、ちょっと友人としてないなぁ〜と思って。」


「俺は数分前からずっとそう思ってるけどね!」


「えっ?何か言った?」


「いいや!別に!」


「感情を込めて、もう1回行こう!なっ?なっ?はい!もう1回!セイ!」


「ピザ。」


「ドオオオオオオルルルルルァァァァァァ、ちくしょうめ!だから今のもう1回は、もう10回をもう1回って意味だろうが!何回言わせんだよ!」


(俺、完全にキレられてるやん!)


「わかったよ!うるせぇなぁ〜〜。」


スゥ〜〜〜〜〜〜〜。


俺は気合を入れるため大きく息を吸った。


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」


「それっ!今の7番目のピザの感じ!それ凄く良かった!」


「7番目のヤツ?」


「そう!7番目のヤツすっごくピザだった!」


「すっごくピザだったって何?」


「やれば出来るじゃねぇか!やっぱり俺の目に狂いはなかったわ!』


(コイツさっきから何言ってんの?)


「今の7番目のヤツをもっとちょうだい!もっともっと!もう1回!もう1回行こう!・・・あっ!このもう1回はもう10回ってことね。」


(ちょっと俺に気を使い出してるやん。少し上手くいったからといって。なんか下手に出始めてるやん!しかし、悪い気はしない。)


スゥ〜〜〜〜〜〜〜。


俺は再度気合を入れるため大きく息を吸った。


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」


「3番目と5番目と7番目!!!!!!!」


友人は突然大きな声で叫んだ!


「うわっ!びっくりした。」


「今の3番目と5番目と7番目のヤツ、めちゃくちゃ良かった!回を重ねるごとに成長していってるやん!お前、末恐ろしいなぁ〜。」


「俺にとってはお前の方が末恐ろしいよ・・・。」


「えっ?何か言った?」


「いいや!別に!」


「もう1回!もう1回!」


友人は手を叩き音頭を取りながら言った。しかし、俺も褒められたからか、それほど悪い気分ではなかった。


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」


「1・2・3番目と7番目きましたぁぁぁぁぁ!!!!!最初の3連ちゃんエグいな!!!その後ちょっと失速したけど、7番目は良かった!!!お前、7番目は絶対に外さんな?神7やな!神7!」


「神7ってそういう時に使うんじゃねぇんだよ!」


「えっ?何か言った?」


「いいや!別に!」


「行こう!もう1回!どんどんモノにしていってるから!この調子!この調子で行けば、俺も"じゃあココは"って聞けるから!」


(ゴールあったぁぁぁぁぁ!ゴールありました!なるほどなるほど!コイツ10回ゲームの意味をあまり分かっていないんだな。普通は10回言わせて刷り込ませた後に引っ掛けるのが目的なのに、コイツはどれだけ"ピザ"って10回一所懸命言えるかのゲームだと思ってるんだ。はいはいなるほどね。そういうことか。・・・・・何が面白いんじゃ、そのゲーム!!!ただただ、俺の喉を酷使するだけじゃねぇか!!!やばいぞ!このままじゃ、俺の喉が枯れて、今月の合唱部の課題曲"森のくまさん"を上手に歌えなくなってしまう。何としてでも10回全部あいつの合格ラインを超えなければ。)


「よし、じゃあもう1回行くか!」


俺は覚悟を決めた。


「おぉ!お前もついにやる気を出してくれたんだな。いいぞ!その調子だ!このゲーム白熱してきたなぁ〜!!!」


「ちくしょう〜。せっかく授業が午前中に終わったというのに不毛な時間が続いていくぅ〜。」


「えっ?何か言った?」


「いいや!別に!」


「よし、じゃあもう1回お願いしまぁ〜す!」


(言い方腹立つんだよなぁ〜)


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」


俺は今まで以上に気合を込めて言った。


「あぁぁぁぁぁぁ!!!ほとんどパーフェクトだったけど!今度は逆に7番目だけが違ったぁ〜!」


「何っ!ってことは他の9個は大丈夫だったってことか?」


「あぁ!最高だったよ。今まで良かった分、7番目だけで調子に乗っちゃったんだろうなぁ〜。どうしたんだ神7〜!!!」


(言い方腹立つんだよなぁ〜!しかし、何ということだ!俺としたことが、自分でも気がつかないうちに調子に乗っていたらしい。慣れとは怖いものだ、人の油断を触媒に、隙あらば襲いかかろうとする。俺はそんなどこにでもいるモンスターに負けたというのか?・・・いや、まだ終わりじゃない!俺は諦めない!必ずピザって一所懸命10回言ってみせる。そして、"森のくまさん"も上手に歌って見せる。見ててくれ神様!俺は今日、人生で初めて、ピザって一所懸命10回言います。)


スゥ〜〜〜〜〜〜〜。

ハァ〜〜〜〜〜〜〜。

スゥ〜〜〜〜〜〜〜。


俺は1度深く深呼吸をした後に、再度大きく息を吸った。


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、

 ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。」


10番目のピザを言い終わった瞬間に自分でもわかった。これは完璧だと。俺は気合が入りすぎて、気がつくと悟空が”クリリンのことかーーーっ”と言った時のようなポーズを取っていた。強く握りしめていた両の拳は、悟空とは違い、まるで喜びの涙を流しているかのように濡れていた。


「パーーーーーーーーーーフェクト!!!!!!!!これで俺もやっとお前に質問できるぜ!!!いくぞ!!!」


「よし来い!!!」


「じゃあココは???」


・・・・・、


・・・・・、


・・・・・、


・・・・・、


・・・・・、


「いや指差せや!!!お前、俺の気合いに当てられて、同じポーズで"じゃあココは???"じゃねぇんだよ!!!それは、自分の体の部位を指差して言うの!!!そうじゃないと成立しないの!!!今のお前の感じで聞かれたら、俺は"公園"って答えるしかねぇんだよ!!!」


「お〜〜〜い。お〜〜〜い。」


怒れる俺を遮るかのように、公園の入り口からこちらに向かい呼びかける声が聞こえてきた。


「お〜〜〜〜〜い。日地〜〜〜〜〜。こんなところで何やってんだよぉ〜。今日、17:00から駅前のカラオケで遊ぶ約束だろぉ〜!急がねぇと遅刻だぞぉ〜〜〜!!!」


「わかった!!すぐ行くぅ〜〜〜!!!」


そう言うと友人の日地は急いで荷物をまとめ出した。


「悪いな富三野!俺、この後用事があるからもう行くわ!お前の"ピザ"最高だったぜ!じゃあな!!!」


日地は公園の入り口で待つ仲間の方へ走って行った。小さくなる姿を見つめながら俺は叫んだ。


「日地〜〜〜〜〜!日地〜〜〜〜〜!待ってくれ日地〜〜〜〜〜!まだ終わってねぇぞ日地〜〜〜〜〜!勝手すぎるぞ日地〜〜〜〜〜!無神経だぞ日地〜〜〜〜〜!」


ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜ウ。


冷たい公園を駆け抜けた。その時だった。


トントン。


哀愁漂う俺の背中を優しく叩く人がいたのである。俺は泣きそうな想いで振り返った。


「ウイッ、あんちゃん!さっきからずっとピザピザ言うとったのぉ〜、ウイッ。よっぽどピザが食べたかったんじゃな。ほれ!わしのピザをやるわい、ウイッ。」


俺は酔っ払いのおじさんにピザを1つもらった。人の優しさがピザよりも温かかった。


・・・・・、


・・・・・、


・・・・・、


・・・・・、


・・・・・、


いや、これピザポテト!!!



※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】ピザ 豊十香 @yutakajyukkou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ