第99話 俺、勇者だから
大いに盛り上がった世界陸上は、日本では俺の競技に被る日に合わせて四十八時間テレビで難民支援のチャリティ番組が行われた。
国外の各局もその企画に乗ってくれて全世界で千五百万ドルにも上る支援金を集める事になった。
勿論俺は、自分自身の世界記録を更新するどころか十種目すべてにおいて、世界記録を超える成績を残しての金メダルだった。
だけど、その表彰式の最中に事件は起こった。
ジョージが満面の笑顔で俺の目の前に立ち、金メダルを掛けてくれるその瞬間の事だった。
上空を覆う巨大な影が現れた。
「あれは……」
エリア51から旅立った巨大な母船がその上空に現れた。
「プレジデントジョージ、俺、ちょっと大事な仕事が出来ちゃったみたいです。もうちょっとヒーロー気分味わいたかったけど、ちょっと無理っぽいですね」
ジョージは、その言葉だけですべてを悟ったように俺に言葉を掛けた。
「翔、この世界を、この
「OK、俺は勇者だから全てを守ります」
その言葉と共に上空の巨大宇宙船の上へと転移を行った。
次の瞬間には更に宇宙船に触れた状態で、グリーンランドへの転移を行った。
俺の姿と共に、消え去った宇宙船の事で会場中が騒然とするが、誰にも意味が分からない。
次の瞬間に会場に応援に来ていた、『カラーレンジャーズ』のメンバーが表彰台の横に立つ、ジョージの元に向かう。
危険を感じたSPが立ちはだかるが、それをカーネル大将が出てきて下がらせた。
美緒、綾子、香奈、アンナ、香織、遊真、リンダ、アナスタシア、マリアンヌ、マーの10人だ。
ヤリマンスキーとビアンカはスポーツは興味ないからと来ていなかったが、ビジュアル的には、その方が良かったかもしれない。
この中では、世界的に認知度が高いバチカンの聖女マリアンヌが、代表してジョージに声をかける。
「大丈夫。この世界は勇者が必ず守ります。私達も勇者のお手伝いに行ってきます」
「「「「「チェンジ『カラーレンジャーズ』」」」」」
何故か香奈が仕切って全員が『カラーレンジャーズ』に変身するとそのタイミングになって、ヤリマンスキーとビアンカも変身済みで転移して来た。
念話で美緒が翔に確認する。
『今どこかな?』
『あーちょっとグリーンランドのど真ん中だ』
『みんなで行くね、一人で抱え込むのは却下だから』
『ああ……何か悪いな』
『私は、翔がいなけりゃとっくに死んでたし、今更だよ。置いて行かれる方が辛いから』
「美緒、何自分だけヒロインぶってるの? さっさと行くよ」
香奈の声で、十二人が手を繋ぎ、ヤリマンスキーが転移を発動した。
グリーンランドの氷土の上に巨大な宇宙船と翔の姿があった。
「どうするの翔? あんな目立ち方しちゃったらもう普通には戻れないよ?」
「あーそうだな、まさかみんなも顔バレさせてこっちに来たのか?」
「そうしなきゃ翔が断りそうだからね」
「まいったな、地球ではもう『ホープランド』で堂々と暮らすしかないな」
「で、こいつは、なんなの?」
「美緒、こいつは創造神の正体ってとこかな」
「そっか、翔はどっから解ってたの?」
「そうだな、ヤリマンスキーの存在の不自然さくらいからかな」
「ねぇ私達に分かる様に説明して欲しいかな?」
そう聞いて来たのは、リンダだった。
「わざとだよな、魔王が俺に負けたのは」
「うん、そうしないとこっちに来れなかったからね」
「で? 四天王はなんで、こっちに来させたんだ?」
「あの世界自体を創造させない為かな」
「てか、翔君。このでかい宇宙船は大丈夫なのこのままで?」
「今は吸収結解に封印して何もできない。後一時間くらいしか持たないがな」
「ちょっと翔君。解んないからちゃんと説明して」
「香織、今から話すよ」
それから俺は、状況の説明を始めた。
本来イルアーダのシステムはエリア51の地下にあるシステムで開発されるはずだった。
その計画自体を潰すために、魔王は近藤加奈と言う架空の人物を存在していたかの様に仕立て上げ、この世界への転移を行った。
イルアーダと言うシステムの中にある絶対消滅しない存在は、王女と四天王、そして魔王。
四天王の存在も都合よく勇者パーティという名目で、この世界に送り込み俺に接触をした。
「もう一人のイルアーダの重要人物は、お前だよな?」
「そうだよ翔」
「え? アナスタシア?」
「登場人物は一応これで全員だが、俺も良く分からないんだ。何で俺は架空世界の力を持ったまま戻れた?」
「リソースの全てを私達が倒される段階であなたに埋め込んだからだよ」
「マリアンヌ、それはお前たちが別々に所持していた力を俺に受け渡したって言う事か?」
「そうだね、向こうの世界で成長した力はあくまでもデータ上だから、消えない存在の私達の力以外はこの世界では本来使えないからね」
「アナスタシアは、香奈の仲間なのか?」
「そうね私の役目は、魔王にあなたを案内する事だから」
「それで? 魔王様の目的はなんなんだ?」
「永遠の終焉かな? 私達は今から十年後に解放されるゲームデータとして生み出されたわ。それが自我を持ち有機体となり、それでもただ延々と生きながらえる状態になるまでに、五千年の時を過ごすの。自我を持った時点で私達の望みはただ穏やかな消滅を迎える事だったわ」
「どうしてこの世界に現れた?」
「勇者に倒されれば終わると思ってたんだけど、それでも終わらなかったんだよ。そうなると残る道は、根源の排除」
「で、エリア51の解放を画策したって事か?」
「そうだね、でも旅立ちはポーズで計画は続けられたの」
「ちょっと待って? ゲームの世界で有機体になるって言う部分がどうしても理解できないんだけど?」
「流石だね遊真君、賢いわね」
「当然元になる身体が必要だよね? 君ならどうする?」
「身体を乗っ取るのか?」
「そう、正解。サービス開始から十三年目に一斉にログインしていた一億八千万人の身体をデータが逆流する形で取り込んだの、そしてそっくりイルアーダのシステムは地球を取り込んじゃったんだよね」
「え? じゃぁ俺が行っていたイルアーダって?」
「翔君とっくに気付いてるでしょ? 今から五千年後の地球だよ」
「一つ良いか?」
「なに? 翔君」
「この宇宙船を破壊したとして未来は変えられるのか?」
「解らないわ」
「答えを知る方法は?」
「私達六人の存在の消滅だね。私達の存在が消えればミッションクリア。そうでなければ別の要因があるよ」
「どっちにしても、今、なんとかしなければ二十三年後には人類は滅びると言うか、データの世界に乗っ取られるって事なんだな」
「うん」
「じゃぁやる事は一つだ。俺は世界を救う勇者だからな。遊真、みんなを頼む。ここに居るのは、俺と香奈達だけで十分だ」
「翔、解った。必ず俺がみんなを守る。もし翔が駄目だったら俺が必ず答えに辿り着く」
「遊真、俺が失敗する前程の話するなよな」
「翔、私は王子様を手放さないからね、早く帰ってきてちゃんと赤ちゃん作って貰うから」
「美緒、ちゃんと戻るさ」
「翔君、美緒だけとかずるい事言わないよね?」
「綾子先生、勿論先生ともちゃんとお付き合いしたいと思ってるよ」
「SYOU、私もママに孫作るまで帰って来るなって言われてるんだからね」
「リンダ、帰って来たらマリーさんみたいにおっぱいで挟んでくれよな」
「翔君、みんなを相手にする事に今更文句は言わないけど、最初は私だからね、そこは絶対譲らないよ」
「アンナ、ずるい、それは私も一緒だから」
「香織はしょうが無いから、一緒でいいよ」
「ちょっ何危険な会話してんだ高校一年生の女子の会話じゃないだろ?」
「もう十六歳だから普通に結婚出来るし」
「一緒にとか普通じゃないだろ?」
「どうせ『ホープランド』で過すんだったら日本の法律なんて当てはまらないし」
「ああ、もう勝手にしろ。時間が無いから行くぞ香奈」
「翔君、モテモテだね。遊真兄ちゃんも陽奈を頼むよ? 泣かせたら化けて出るからね」
「香奈、ちゃんと戻って来いよ」
「気が向いたらね! お姉ちゃんに大好きだよって伝えてね」
◇◆◇◆
俺達は、宇宙船に乗り込んで、徹底的に破壊した。
そこに居た創造神たる存在は、いわゆるエイリアンっぽい姿をした存在で、映画とかで出てたのって、全然作り話じゃ無かったんだって、びっくりしたけどな。
おかげで倒す事も、余り躊躇せずに済んだけど……
その残骸の全てを、アイテムボックスに収納した。
収納できるって事は、生命反応は無いって事だ。
終わったのか?
「香奈? どうだ。これでいいのか?」
そう言って振り返った俺の目には、誰の存在も映らなかった。
ただ六つの光があり五つが俺の中に吸い込まれ、一つの光が空高く飛び去った。
「しまった、逃がしたのか?」
解らない……
だが、今はきっと大丈夫な気がする。
「帰るか」
『ホープランド』に戻ると、遊真たちがみんなで出迎えてくれた。
「ただいま」
◇◆◇◆
三年後
俺達は全員特例で、その後の高校生活を『ホープランド』でのボランティア活動で過し卒業を認められた。
GBN12のメンバーのお姉さん達もなぜかみんな『ホープランド』に移住してきてボランティア活動をしながら、ネット配信でパフォーマンスを披露する活動を繰り広げている。
そして桜井先輩と、如月先輩も何故か『ホープランド』に住み着いた。
俺は、その後のスポーツ活動は流石に控えて、ここで難民の子供達にスポーツの楽しさを教えて、世界中のスポーツ大会に『ホープランド』の旗を掲げる事を目標に指導をしている。
そして俺には現在五人の嫁が居る。
香織
アンナ
綾子
美緒
リンダ
の五人だ。
俺が十八歳を迎えた時に全員と結婚式を挙げた。
そして十か月後、全員出産した。
香織の子供はマリエと名付けられた。
アンナの子供はアナスタシア
綾子の子供はマリアンヌ
美緒の子供はビアンカ
そしてリンダの子供だけは、男の子だった。
俺が「こののりなら、ヤリマンスキーか?」って言ったらカーネル大将がマジで怒ったので、ラスって名前にした。
遊真も俺の結婚式の日に一緒に陽奈と結婚した。
そして出産も同じ日に。
陽奈が生んだ女の子には『香奈』と名付けられた。
俺が陽奈におめでとうと言って、香奈の顔を覗き込むと、ニヤっと笑った気がした。
こいつ……魔王か……
「なぁ遊真、あの日さ、光飛んで来たか?」
「何で知ってる?」
間違いない……
—完—
出戻り勇者は自重しない ~ 異世界に行ったら帰ってきてからが本番だよね!~ TB @blackcattb
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