第3話 記憶喪失のクラスメイト(和也視点)

クラスメイトの中村理佳さんが記憶喪失になったということを、朝のホームルームで知った。


彼女は人望も厚く、男子からの人気もそこそこあったため、この速報は1年3組にかなりの打撃を与えた。


しかし僕には関係ないことだ。彼女のことは好きでもないし嫌いでもない。普通にクラスメイトという認識だった。


だが、放課後先生に呼び出された。


「すまない、これからクラスからの寄せ書きを持って行ってくれないか?こういうことクラス委員のお前にしか頼めないんだ」


そう、僕はクラス委員。立場上断れないし、放課後特に用事もなかったため、寄せ書きと病室の情報を先生から受け取り、入院しているという大学病院へ向かった。



「206、中村理佳」というプレートがある病室の前にたどり着き、ドアを開けようとする。


すると中から「理佳!」という声がして、慌ててドアを閉める。どうやら先客がいたようだ。中村さんに一方的にぺちゃくちゃと話しかけている。


「私、理佳の友達の志乃(しの)!でこっちは、これまた理佳の友達の弥生(やよい)!覚えてない?」


「分からないです…何も思い出せなくて」


「大丈夫大丈夫!思い出したらまた遊ぼうね!」


その言葉を最後にコツ、コツとこちらへと足音が響く。やべ、盗み聞きしてたことバレると思いドアから退くと同時にガラリとドアが開く。木崎志乃さんと三芳弥生さんはこちらをチラリと見るとそのまま通り過ぎていった。


改めてドアの前に立ち、コンコンとノックする。すぐに「はぁい」という気の抜けた返事が返ってきた。ガラガラとドアを開く。


ベッドから身を起こし、窓をボーッと見ている中村さんがいた。机には大量のお見舞いが置いてある。


と、こちらを見た。思わずドキッとする。


確かに、化粧っ気のない純粋な顔立ちは、綺麗だった。


「え、えっと、俺はクラス委員の園田和也で、クラスからの寄せ書きを持ってきたんだ、そこの机に置いていい?」


彼女はしばらくボーッとしていたが、コクリと頷いた。机のお見舞いの上にそっと置く。


中村さんはまたボーッと窓の外を眺めている。


辛いだろう。記憶を失って、それなのに「覚えてる?覚えてる?」と期待される毎日。覚えてる訳ないのに。記憶喪失って分かっていながら、何で皆そんなに期待するのだろう。


その思いは、口をついて出てしまった。


「あのさ、そんな、無理して、思い出そうとしなくていいから」


その言葉に、彼女は目を見開いた。


その目から、大量の涙が流れ落ちる。


「えっあっ、ごめん、傷ついた…?」


「違う、違うの、そんな優しいこと言われたの、初めてで…」


「え?」

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忘れてしまう彼女に、僕は何度も恋をする 舞依 @I-my-me171

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