ep.3 禁断の地

 俺は今、一人静かに個室で腰を下ろしている。両ひざにそれぞれ肘を乗せて両手をガッチリと組み、そこに顎を乗せて……。


『どうしたんだい? 感激で声も出ないのかい?』

『俺の心が読めるんだからわかってんだろ? 後悔してんだよ……』

『まったく……。せっかくキミの憧れの場所に招待してあげたっていうのに、ひどい感想だね』


 そう、ここは憧れの場所だった、ついさっきまで。ここに足を踏み入れるまでは。

 あれは昨夜のことだった……。


『明日、魔法少女リーンと対決することに決まったよ』

『リーンとの対決は、もう拒まない。けど……やっぱり、気乗りがしないなぁ』

『そんなこと言わないでよ。その代わりと言っちゃなんだけど、キミの憧れの場所を対決の舞台にしてあげたからさ』

『憧れの場所? どこだよ、それ』

『それは当日のお楽しみだよ』


 俺はほんの短い回想から現実に戻って、改めて後悔のため息を深くつく。

 するとそれに反応したのか、ドアの外から女の声が聞こえてきた。


「ねぇ、ここずっと入ったまんまじゃない? ヤバくね?」

「昼休み始まって、あたしたちが来た時にはもう入ってたよね」

「うん、うん、二十分は経ってんな、もう」


 そして次の瞬間、ドアのノックと共に声が掛かる。


「もしもーし、大丈夫ー?」

「具合悪いなら、先生呼んで来よっか?」


 そう、ここは女子トイレ、幸子が通ってる女子高の。しかも今日はうちの高校が開校記念日で休みだからって、白昼堂々と。

 そうしたら早速これだ……。

 いきなり訪れた絶体絶命の大ピンチに、俺は冷や汗を噴き出しながら背筋をムズムズさせる。

 もちろん返事なんてできるはずがない。ノックを返すのがやっとだ。


「ねぇ、ほんとに大丈夫なのー?」

「実は変質者が入ってたりして」

「うわ、キモ! ってか、コワ!」

「覗いてみよっか?」


 その言葉が聞こえてきたと思ったら、あっという間に安っぽいトイレのドアの上部に手がかかる。白くて長い指先には、薄いピンクの少し長い爪。

 続けて、ドスドスとドアを蹴るような音が響く。どうやら俺の目の前のドアを、女子生徒がよじ登ってるらしい。


「よっと!」

「ちょっと、やめなよー」

「だって、中で倒れてたらヤバいじゃん」


 ドアに掛けられてた指先は手の甲に。そしてさらに肘も掛けられた。

 トイレのドア登頂はもう目前。

 やがてドアの上から、頭がヌッと現れる。

 ヤバい、覗かれる! 俺は慌てて顔を伏せた。


「ねぇ、あんた大丈夫? ひょっとして泣いてた?」


 トイレの床を見つめたまま顔を上げられない俺の後頭部に、心配そうな優しい甲高い声が降ってきた。

 俺の顔面はきっと蒼白だ。ピエロのメイクのせいじゃなくて、血の気が引いてるって意味で。

 返事の声は出せない。俺は下を向いたまま、祈る気持ちで必死に首を縦に振る。


「そっか、落ち込んでたとこ邪魔してごめんね」


 謝罪の声に続いて、スタッという着地の音がドアの向こう側に聞こえた。

 俺の様子を見届けた彼女は、どうやらドアから飛び降りたらしい。

 俺は助かった……のか?


「ねぇ、どう? 変質者じゃなかった?」

「うちの制服着てたよー。でも、あんなおっきな子いたっけかな?」

「凹んでるなら、そっとしといてあげよ」


 そこへ予鈴が鳴って、女子生徒たちの声が遠ざかっていく。

 俺の危機はどうやら去ったらしい……。



『いやぁ、危ないところだったね。女装してなかったら通報されてたよ、きっと』


 授業中の人気のない時間帯を選んだものの、学校に忍び込むってことで今日の変身はこの女子高の制服姿。短めのプリーツスカートのせいで下半身がスース―する。

 顔は相変わらずのピエロメイクだけど、それも長髪のカツラで目立たないようにした。どうやらそのお陰で、今回の危機は逃れられたらしい。レクターにちょっとだけ感謝だ。

 だけどそもそも、こんな日中に潜入しなけりゃ危機もなかったんだけどな。


『どうせ巻き戻せば済むだろうと思って、お気楽なもんだな。俺は生きた心地がしなかったんだぞ?』

『いやぁ、ごめんごめん。現場保存するの忘れてたよ。今するから待っててね』

『マジかよ。通報されてたら俺は死んでたぞ、社会的に……』


 午後の授業が始まったらしくて、女子トイレは静寂に包まれた。

 俺は改めてため息をつきながら、後悔の念を噛みしめる。


『またかい。キミはさっきから、何をそんなに後悔してるんだい? ここは憧れの場所なんだろ? 思う存分、そこの神秘のごみ箱を漁ったらいいじゃないか』

『ちょっと待て、人聞き悪い。後にも先にも絶対にそんなことは……なんて言い切れないけど、少なくとも今の俺にそんな気は全然ないぞ』

『だったら、女子トイレのどこに憧れたのさ?』


 心が読めるはずのレクターが、わざわざ俺に問い掛けてきた。きっと生活習慣が違う地球外生命体には、この女子トイレの魅力がわからないんだろう。

 仕方がない、レクターにその魅力を教えてやるとしようか。


『女子トイレはさっきみたいに、女の子たちがキャッキャウフフって華やかに語り合う場だ。だけどたった一枚のドアを隔てた個室の中じゃ、女の子が自らパンティをズリ下ろしてる。そんな異質な空間が他にあるか? こんな場所、憧れなきゃ嘘だろ』

『ボク思うんだけど、異質なのはキミの性癖であって――』

『しかもだ。女子トイレの入り口には結界でも張られてるみたいな、男を跳ね返す得体の知れない見えない壁があるんだ。そんな禁断の地に踏み入るっていう背徳感も、男にとってのロマンなんだよ』

『男にとってって言い切ったね。それって全人類の二分の一ってことだよ? まぁいいや、それで? そんな憧れの場所に到達できたっていうのに、キミは何をそんなに後悔してるんだい?』


 そう。今語ったのは、ここに足を踏み入れるまでの俺の憧憬。

 その感情を一変させた理由を、俺は端的にレクターに伝える。


『…………臭い……』

『え?』

『…………臭い。やっぱり女子トイレっていっても、トイレはトイレだった……』

『そりゃ、所詮トイレだからねぇ……。幻滅しちゃったってわけだね』

『ここは憧れの場所だったのに……。もっと、こう、煌びやかな香ばしさとか、男子トイレにはないものを感じられるかと思ったのに……』


 女子トイレの入り口に立った時には、全身に血が駆け巡るほどにワクワクした。

 それが足を踏み入れて、個室に籠った今じゃ激萎え。もう、とっとと任務を片付けて帰りたい……。

 そんな失意のどん底の俺を、レクターの言葉が一気に引き上げる。


『でもさ、キミが今腰掛けてる便座って、最後に座ったのは当然女の子だよね』

『!?』


 この悪臭に幻滅してたせいで、大事なことを忘れてた。

 気分が高ぶってきた俺は、腰掛けてた便座から立ち上がる。そしてスカートをまくり上げてパンツに手を……あれ、これはパンティじゃ……。


『ちょっと待て、レクター。今日はやけに下半身が締め付けられるって思ったら、これ女物のパンティじゃないかよ』

『そりゃぁ、女装するからには徹底的にね』

『だったら、この顔も可愛い女の子にしてくれよ……』


 俺はピエロメイクの自分の頬をペチペチと叩いて見せながら、不満を漏らす。

 まぁいい、今はそれどころじゃない。俺はまくり上げたスカートの中身を、自分の目で確認した。

 俺の股間にピッチリと食い込んでるのは、ペパーミントグリーンのフリフリのパンティ。布面積が圧倒的に足りなくて、収まり切れずに色々はみ出しまくって大惨事。そんな間抜けな自分の股間を見てたら……。

 あれ、なんだか妙な気分になってきたかも……。

 危険な世界に突入しそうになった俺は、慌ててそれを振り払うように一気にパンティをズリ下げた。そして俺は尻を丸出しにすると、スカートをまくり上げたまま、ゆっくりと再び便座に着席する。


「ぉぉぉおお……」


 得も言われぬ温もりに、俺は地鳴りのような声を漏らす。最後に座った女の子のお尻と、俺の尻が間接的に触れ合った歓喜の瞬間だ。

 いや、もちろんわかってる。この温もりは俺が座ってたからだし、最後に座った女の子だってどんな子かもわからない。それに用を済ませた後に、丁寧に消毒していったかもしれない……。

 だけど今は、この雰囲気に乗っからなきゃ損だ!

 俺は頭の中で思い描く。最高に可愛い女子生徒が、パンティをいそいそと下ろしてこの便座に腰かけるところを。そしてこの温もりは、その子の温もりなんだと。

 そうだよ、これだよ。この雰囲気に憧れてたんじゃないか、俺は。初心に帰った俺は、女子トイレという空間を満喫し始める。

 その時だった……。


 ――ドンドンドンドン!


 俺が潜入してる個室のドアが、激しい打撃音と共に震える。

 そして今にもぶち破られそうなドアの向こう側から、俺に向かって聞き慣れた声が呼びかける。

 遅くなったけど、いよいよ任務のスタートだ。


「そこにいるのは誰!? 今は授業中のはずよ?」


 うちの高校は休み。むしろ、お前の方こそ授業はいいのか? っていうツッコミは置いておいて、ノックされた以上は放っておくわけにいかない。

 俺は絞り出すように、裏声を使って細々と返事をする。


「は、は、入ってまーす」

「怪しい……。あんた、男でしょ」


 けれどもドアの向こうの人物は、そんな俺の声色を簡単に見破った。

 いやまぁ、筋書き通りだから、当然なんだけど……。

 さらに続けて、ドアの向こうから無慈悲な言葉が飛んでくる。


「悪いけど、ここを開けさせてもらうわよ」


 その言葉に俺はハッとした。

 俺はパンツ……いや、女物のパンティを足首まで下げたまま。こんな状態でドアを開けられたら、たまったもんじゃない。

 俺はすぐに腰を浮かせると、ガチャガチャとやかましく音を立ててる目の前のドアノブを握り締めた。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。まだ準備が――」


 けれどもこっちの事情なんてお構いなしに、「バキャッ」っていう木材がへし折れるような音を立てて、安っぽいトイレのドアは蹴破られた。

 こっち側に跳ね開けられたドアが、俺の顔面を打ちのめす。俺は勢いそのままに、見事洋式トイレに着席するように叩きつけられた。

 俺が額をさすりながら顔を上げると、仁王立ちしていたのは漆黒の魔法少女。

 対決の幕が今、切って落とされた。


「私はいじめを見逃さない。私は悪事を見逃さない。いつでもどこでも駆けつける。魔法少女リーン、ここに見参!」


 魔法少女リーンの姿は、いつも通りの真っ黒いボンデージ風のレオタード。脚には目の粗い網タイツ、目元には黒いアイマスク。相変わらずのバニーガール風の装いだけど、やっぱり胸元はボリュームが足りない。

 一方の俺は、顔はいつものピエロメイクのくせに女子高の制服を着て、髪は長髪のカツラ。そして、女子トイレの便座に腰掛ける俺の足首には、ズリ下ろしたままの女物のペパーミントグリーンのフリフリのパンティ。

 そんな無様な姿のまま目が合った俺に向かって、魔法少女リーンは嫌悪感丸出しの表情で、吐き捨てるようにつぶやく。


「その顔のまんまで女装とか、キモ……」


 返す言葉がない。まったくもってその通り。心底軽蔑するようなリーンの態度に、俺の背筋がざわつく。

 そしてその冷ややかなリーンの視線は、徐々に下へと降りていく。ピエロメイクの顔から、真っ平らな胸へ。そしてそのまま下半身へと……。

 だけど今日は女装してたのが幸いした。ズボンを下げてたら丸出しだったけど、女子高の制服のスカートは俺の秘密の花園を覆い隠してくれていた。

 けれどもその視線が俺の足元に達した時、リーンは突然素っ頓狂な悲鳴を上げた。


「ちょっと、ちょっと、ちょっと、なんでー!」


 その場でしゃがみこんだリーンは、すぐさま俺の足首に絡みついてる女物のパンティを剥ぎ取る。そしてそれを自分の目の前で広げてみると、今度は俺のブラウスの襟首を掴み上げた。


「これ、滅多に履かない、私の一番のお気に入り! 気合入ってる時にしか履かないのにぃ! どうしてあんたが、これを履いてんのよ!」

「えーっ!? そ、そんなはずは、無いだろう」

「そんなはず、ある。これ、間違いなく私のだよ! もう、最低……」


 そんなこと言われても困る。俺だって身に覚えがないんだから。

 そもそも、今日の女装はレクターが変身させたもの。幸子……いや、魔法少女の私物が紛れ込むわけがない。


『女の子ってすごいね。自分の下着だってわかっちゃうんだね』

『おい! あのパンティって、本当に幸子の奴だったのかよ!』

『それはお答えできないね』

『都合よく守秘義務を使うなよ』


 俺が履いてたのが幸子のパンティだったとすると、さすがに申し訳ない気分だ。きっとゴムは伸びてるし、他人に履かれたら気持ち悪いだろうし……。

 幸子のお気に入りパンティを、俺が台無しにしてしまった。いくらレクターがやったこととは言っても、悪事としてはちょっと度が過ぎてる。


「ふ、ふむ。少々行き違いがあったようだ。この件に関してはやり過ぎを認めよう。今回は特別に、甘んじて罰を受けようじゃないか」


 こんなことを言ったら魔法少女リーンのことだ、容赦なくボコボコにするに決まってる。だけど今回は仕方ない、それだけのことをしてしまった。それに、どうせリーンは普段通りでも容赦ないんだから一緒だろう。

 俺は覚悟を決めて、恐る恐る魔法少女リーンの顔をジッと見つめる。

 さて、何を要求してくるのか……。


「じゃぁ、両手を上げて」

「両手を上げさせてどうするつもりだ?」

「いいから上げて」


 自分から言い出した手前、俺は要求通りに両手を万歳するように渋々と上げる。そしてその手をリーンが掴んだと思ったら、俺の顔面に彼女の胸が押し付けられた。

 間違っても豊かとは言えない胸だけど、その感触は固くは無くて温かい。それになんだか優しい甘い香りも漂ってくる。トイレの悪臭が一転、花畑にでも連れていかれた気分だ。


「これでよし、と」


 リーンの納得したような声が、俺を我に返らせる。俺の束の間の至福の時間は、リーンが身体を一気に遠ざけたことで、あっさりと終わってしまった。

 そして次の瞬間、俺は両手を上げたまま自由が利かなくなっていることに気付く。


「いつの間にこんなものを……」


 俺の両手首には手錠が嵌められていた。しかも、背後の貯水タンクから天井に伸びる水道管の後ろ側を通されるようにして。

 万歳をしたまま、身を守ることが全くできない無防備な体勢。

 これはヤバいと顔を引きつらせる俺に、口角を上げてニヤリとしてみせるリーン。これじゃ、どっちが悪役だかわかったもんじゃない。

 さらにリーンは背中からトレードマークのムチを取り出して、上唇をペロリとひと舐め。そのまま床に向かってムチを振るうと、「ヒュン」と風を切る音と共に「ピシッ」という乾いた音が女子トイレにこだました。


「お気に入りパンツの恨み、覚悟してよね」


 俺を睨みつけるリーンの目には、怒りの炎がメラメラと揺らめく。

 もちろん本当に燃えてるわけじゃないけど、それほどまでのリーンの気迫に、俺は本気で恐怖した。


「お、お手柔らかにお願いします……」


 俺が言葉を言い終えるか終えない内に、早くも一発目のムチが飛ぶ。


 ――ピシッ!


 ムチの先は的確に俺の右の乳首を捉える。

 さらに二発目、今度は左の乳首を。

 三発目はへそ、四発目は太ももを……。

 以前の対決じゃ、ただひたすらにムチを振るわれた覚えしかなかったけど、今日は明らかに違う。狙いを定めた上で、正確にそこを打ち付けている。

 きっとリーンは、日頃から血の滲むような努力を……。


『でも、ムチ捌きがプロ級になっても、役に立つ場面なんてないよな……』

『何の努力もしないキミより、ずーっと素晴らしいと思うけどね』


 リーンのムチは休むことを知らない。そんな生身だったら拷問でしかないこの仕打ちも、敵役に変身した俺の身体だと感じ方がまるで違う。

 痛みをあまり感じないせいで、敏感な部位への攻撃は逆に絶妙な刺激へ。しかもリーンがそんな場所ばっかりを狙ってくるもんだから、俺の身体に変化をもたらす。


(ヤバい。今はまずい、まずいって。鎮まれ、鎮まってくれぇ……)


 でも意識すればするほど、反応は加速するもの。

 俺の祈りも空しく、制服のプリーツスカートが少しずつ持ち上がっていく。

 リーンもその変化に気づいたみたいで、ムチを振るう手を止めてそこに注目した。


「おい、ちょっと。どこ見てんだよ。見るな……見ないでくれ」


 何とか鎮めようと俺は素数を頭に浮かべたり、方丈記の冒頭を思い出してみたけど何の効果もない。俺の意思に逆らって、スカートはムクムクとせり上がっていくばかりだ。

 俺の懇願を完全無視のリーンも、目をキラキラと輝かせてスカートの動きを注視したまま。目を背ける素振りなんて微塵もない。

 このままじゃ見られちゃう……。

 そんな焦燥感や羞恥心が俺の血液を一気に、そして一点に集結させる。


「…………あぁ……」


 最後は跳ね飛ばされるように、完全に捲れてしまった制服のスカート。

 俺の全貌は白日の下に晒された、しかも最高に恥ずかしい形状で。

 それをまじまじと見つめるリーンが、ポツリとつぶやいた。


「お風呂上がりのお父さんのと形が違う……」

「…………悪かったな……」


 あぁ、もうダメだ。俺はこの先、生きていけない。

 最大の身体的コンプレックスが露呈してしまった俺は、絶望のどん底よりもさらにさらに深く沈み込む。

 だけどリーンの次の一言が、俺に立ち直りの機会を与えた。


「お父さんのはテカテカしてて気持ち悪かったけど、これならちょっと可愛いかも」

「え、ほんとに?」


 リーンの言葉に希望を見つけた俺は、敵役っていう立場も忘れて慌てて聞き返す。

 だけどリーンはわざとらしい咳払いをしただけで、返答をすることはなかった。


「ん、んんっ! そんなことより、とどめを刺してあげるから覚悟してよね」


 そう言ってリーンは、ハイヒールから右足を引き抜く。

 え? ひょっとして素足で? そのままリーンの必殺技ってヤバくないか?

 そんな俺の期待を少し裏切るように、リーンはさっき取り上げたお気に入りのペパーミントグリーンのパンティを、ふぁさりと被せた。

 そしてリーンは、便座に腰掛けてる俺の両足首を手押し車のように持ち上げて、いつも通りの場所に右足をあてがう。


「履けなくなったこれはあんたにあげるから、一緒に成仏しなさい。必殺、エレクトリック・マッサージ!」

「あがががが……こら、足の指で、は、挟むなぁぁぁああ……」


 相変わらずのリーンの強烈な必殺技に、俺は一瞬で頭が真っ白になった……。






 あれ……なんだか騒がしいぞ?

 俺が目を覚ますと、そこはまだ女子トイレだった。


「これヤバすぎっしょ」

「ここまで絵に描いたような変態っているんだね」

「キモすぎて写真撮る気にもならんわー」


 え? なんで? これって、リーンに倒されたときのまんまじゃ……。

 まさか、俺が気を失ってた間に授業が終わってる?

 俺の目の前には女子生徒たちの人垣。そして俺は両手を手錠で括られて、身動きの取れない醜態をさらしたまま……。


『おい、レクター。どうなってんだよ、これ』

『今日もたっぷりエネルギー回収させてもらったからさ。そのお礼だよ』

『お礼ってなんだよ。どう見ても晒し者じゃないかよ』

『あれ? キミたちの世界じゃ、これをご褒美っていうんじゃないのかい?』


「ふざけんなー、早く巻き戻してくれぇぇぇえええ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と契約して魔法少女の〇〇になってよ ~ラッキースケベにもほどがある~ 大石 優 @you

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ