その人は、どんな顔の人だろう

モノ柿

ふと、気になった



 ガタ……ガコン…………ブーン……

 そんな音で目が覚めた。


 眠りが浅かったわけではない。日々のルーティンのうちだ。

 いつもこの音で目覚めて、私は外に走りに出る。朝の運動とその後の自学習が毎日の、いつも通り。


 中学校に入って二年が経っても小学校のころからの習慣が生きていて、むくりと起きるとクローゼットを開けて用意しておいた服に着替えるのだ。


 しかし、今日だけはなぜか、起きてすぐカーテンに手をかけた。

 遠ざかっていく音が、どこに向かうのかが気になったのだ。


 窓の外、眼下には郵便ポストがあって、いつも聞くあの音がそこに新聞を入れていく人の音だと知っていた。

 窓を開けると少し肌寒く、私は身を震わせた。


 どんな人だろう。


 この寒い中だれもいないこの街を走り、誰に知られることもなく新聞を配るのは。


 音が消えた方に目を向けても、もうそこに姿はない。


 当然だ。私と違って新聞を配っている人はバイクに乗っているのだ。走っているのとじゃスピードが違う。


「はぁ……」


 息を吐くとふわりと煙のような白があがる。

 昨日よりもずっと寒いのがわかった。


 ピピピッピピピッ……

 母の目覚ましが音を立て始めた。


 私はハッとして窓を閉める。

 急いで着替えを済ませると、バタバタと階段を駆け下りた。

 靴を履いて外に出ると、吐いた息がふわっと広がるのがわかった。


 ポストを横目に家を出るとき、刺さった新聞を見て思う。


 明日は顔くらい、知ることが出来るだろうか。


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その人は、どんな顔の人だろう モノ柿 @0mono0kaki0

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