エピローグ
それから、俺達の日常は少しだけ変わった。俺は左手に包帯を巻いて登校するのをやめたし、中二病ぶることもなくなった。その変化にクラスメート達はそれなりに動揺したようで、ついに一人の女子からは「立川君、中二病卒業したの?」と、ストレートに尋ねられるまでになった。とりあえず「ああ」とだけ答えておいた。まあ、卒業も何も、初めから中二病じゃなかったんだけどな。
紅葉の方も変化があったようだった。俺がそういうふうに脱中二病キャラとして第二のスクールライフを歩み始めているころ、初音から電話がかかって来た。
「ねえ、知ってる? あんたが気にしてた小日向さん、最近、社会人の彼氏と別れたんだって」
どうやら紅葉のやつは、もう彼氏がいるという設定で嘘をつくのをやめたようだった。
「もしかしてあんたにもチャンスがあるかもよ? もう中二病やめたんでしょ? 思い切って告白しちゃえば?」
初音はすっかり俺が紅葉に惚れていると思い込んでいるようだった。俺は「余計な御世話だ」と答えるだけだった。
また、あの例の、霊の二人は、何かにつけて俺達のところに戻って来た。実に鬱陶しい限りだった。二人でどこぞに旅立てばいいのに。
特にアーサーは頻繁に俺の部屋に遊びに来た。なんでも、しばらく俺の体で過ごしたせいか、妙に俺の部屋が落ち着くのだという。
「お前、俺じゃなくてテレーズと一緒にいればいいだろうが」
「それが、テレーズ殿もたまには紅葉殿と一緒にいたいと言うのでござるよ? そんな女子二人の乙女時間を、男子であるそれがしが邪魔するわけにもいかんでござろう? そこで、幸人殿の出番でござる」
「なんだそれ? 意味わかんねえし」
まあ、しかし、このうるさいござる騎士を紅葉の部屋にやるわけにもいかない。俺はしぶしぶながら、アーサーを受け入れるしかないのだった。早く成仏しろと思いながら。
そして、そんな日々を過ごす中、紅葉は約束通り、一応は俺の話し相手にはなっているようだった。廊下でばったり出会ったら適当に言葉はかわすし、たまには一緒に下校したりするし……まあ、その程度だったが。
さらに、下校しながらかわす俺達の会話も相変わらずなのだった。
「なあ、お前、中学の時の音楽の時間でリコーダー使ってた?」
紅葉と並んで道を歩きながら、俺はふと、さりげなく、自然に切りだす。
「使ってたけど、それがどうしたの?」
「いやさ、こないだ部屋掃除したら、俺が中学の時に使ってたリコーダーと袋が出てきたわけよ」
「で?」
「別々に発掘したわけだし、とりあえず、リコーダーを袋に入れようとするじゃん? それが人情ってもんじゃん? 実際、俺も反射的にそうしたわけなんだが、そこで俺の姉が突然口をはさんできて言うわけよ。入れ方が違うって」
「なにそれ? どんな入れ方したのよ、あんた?」
「俺はただ、リコーダーの口の方から袋に入れようとしただけなんだよ。そしたら、姉は違うって、後ろの方から入れるべきだって。どっちでもいいだろうがよ、そんなの」
「そう? それはお姉さんの方が正しいと思うわよ」
「何それ? お前は前から入れないのかよ」
「後ろから入れる方がいいに決まってるじゃない、そんなの――」
「はい! 今、いただきました! 後ろから入れる方がいいって発言!」
「え?」
「そーか、そーか、小日向はバックで挿入する方が好きかー。へえー」
にやにや。俺は周りにも聞こえるような大きな声で言った。言ってやった!
「な、何言ってるのよ。リコーダーの話でしょ!」
紅葉はたちまち顔を真っ赤にした。
「そうだな。夜の縦笛(意味深)だな」
「夜の、とか、変な単語つけないで!」
「やっぱりバックはいいよね……。小日向さん、わかってるぅ!」
「な、何言ってるのよ! あんた、エッチな話しないって約束だったでしょ!」
「はて? 俺はあくまでリコーダーの話をしてるだけだが? 小日向、お前、変なこと想像しすぎなんじゃないのお?」
にやにや。にやにや。俺は紅葉の顔をのぞき込み、ひたすら煽った。
「あ、あんたねえ……」
紅葉はますます顔を赤くして、鞄で殴りかかって来た。俺は笑いながら、そそれをひょいとかわした。
俺の中の聖騎士の亡霊が眼帯美少女とのラブコメを導きやがったが、俺はそいつにセクハラしすぎて変態と罵倒される日々 真木ハヌイ @magihanui2020
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