『お酒はほどほどに』【書籍版4巻発売記念SS】

 『お酒はほどほどに』


「頭が痛い……」

「ええ……」

 初めてラナとお酒を飲んだ翌朝、ラナは頭を抱えて階段から降りてきた。

 その顔色は悪い。

 クラナも心配して「もう少し休んでください!」とその背中を支えて二階の自室へ連れて行こうとする。

 確かに今日は休んだほうがよさそうな姿だ。

 この国に来たあとも体調ひとつ崩したことがないラナが、初めて具合を悪そうにする……まさかの二日酔いで。

「フルーツヨーグルト作るから、二階で待ってて」

「フルーツヨーグルト? なんで?」

「二日酔いには果汁に含まれる糖がいいって、親父が言ってたんだ」

「へ、へー? 二日酔い……やっぱりこれ二日酔いなの? これが二日酔いなのね……」

「そうだね、間違いなく」

 なんで「認めたくない」みたいな顔になってるんだ。

 諦めてほしい、間違いなく二日酔いなので。

「ファーラも手伝う!」

「ありがとう。じゃあファーラたちは麦粥作ってあげてくれる?」

「任せて! やるわよ、ファーラ!」

「うん!」

 ファーラとクオンは鍋を用意して、小麦粉にお湯を入れる。麦粥はあれを煮込んで、塩で味つけするだけの簡単な病人食。

 俺は適当にりんごをカットしてヨーグルトに混ぜる。

 それにしても、まさか親父が母さんに作っていたフルーツヨーグルトを、俺も作ることになるとはな〜。

 うちの母さんはのほほんとした人で、性格はおおらか。

 しかし、女性にしては酒好きで社交パーティーで男に混じって飲み比べを行う猛者。

 それで相手を酔わせて情報を引き出すという見た目に反してとんでもない女だったりするのだが、父はそんなしたたかな母にベタ惚れで、酒盛りパーティー翌日の朝は自ら厨房に立ち、こうしてフルーツをカットしてヨーグルトに混ぜて部屋に運ぶ甲斐甲斐しさ。

 母としてもそんな優しいところがいいの〜、らしいのだが、俺にはクローベアよりやべー親父だよ。

「ラナ、起きられる?」

「はぁーい」

 部屋に戻っていたラナを、また寝巻きに着替えさせたクラナがラナをベッドに沈めている場面。

 クラナ、本当に強くなって。

 と、感動している場合ではない。

「はい、フルーツヨーグルト」

 ベッドに横たわるラナに、お盆に載ったフルーツヨーグルトを手渡す。

 今ファーラとクオンが頑張って麦粥作ってるよ、と言うと穏やかな笑顔を浮かべる二人。

「ありがとう。……それにしても、二日酔いにフルーツヨーグルトがいいなんて初めて聞いたわ。二日酔いといえばウコンかしじみのイメージ……」

「しじみは海だし、ウコンはわからない」

「なにかの根っこなのよ。それの搾り汁? を飲むと二日酔いが一気に治るわ」

「へ、へー」

 かなりふんわりしているな。

「私、ファーラとクオンを見てきますね」

「ありがとう、クラナ」

「エラーナ姉さん、今日はしっかり休んでくださいね! 長旅のあとに酒盛りなんかするからですよ!」

「は、はぁい」

 クラナにガッツリ叱られて、肩をすくませるラナ。

 こればかりはクラナが正論。

 しょんぼりしながら俺の作ったフルーツヨーグルトをパクリと食べる。

「美味しい……染みる……」

「クラナの言う通り今日はちゃんと休んでね?」

「んもぉ、フランまで〜。わかってるわよぉ」

 拗ねてるラナも可愛い。

「でもまた飲みたいわね。すごく楽しかった」

「そうだね。次は飲みすぎないようにね」

「うっ、わ、わかってるわよ」

 ラナのベッドに座ってその手を取って、スプーンを取り上げてヨーグルトをすくう。

 スプーンをラナの口元に持っていくと、真っ赤な顔をされた。

「?」

「……もしかして、弟にこういうことやってる?」

「え? ……あ……っ!」

 無意識でした。



*****


どうも、古森です。


皆様の応援のおかげで書籍版4巻が無事発売されました。

ありがとうございます!


また、あの渋々ツギクルさんが1〜3巻の全巻を重版してくださいました。

これは読者様の勝利……。


最終巻となる5巻まで、どうぞ引き続きご愛顧いたたけますようよろしくお願いします!

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