最終話 初恋の人と共に歩む未来

 平成八年三月……


 俺と『つねちゃん』が結婚して、もう八年になる。


 俺達は平成元年三月、俺が高校を卒業して直ぐに式を挙げた。

 この時、『つねちゃん』のお腹の中には新しい命が宿っていた。

 出産予定は十月で俺は十代で父親になる。


 この年の三学期には学校中に俺の結婚の噂は流れていたが、年号が変わったばかりで自粛ムードもあり、皆、俺に聞きたい事もあっただろうし、いじりたい気持ちもあっただろうが、それを我慢してくれたいたみたいだった。


 そして三月に入り、皆一気に爆発した感じになり、俺は学校中から手荒い祝福を受けたのだった。その時の俺は何をされても嬉しさが勝っていてたので幸せであった。


 俺達の結婚式にあたり仲人を鎌田夫妻にお願いした。


 当然、『つねちゃん』の大学の後輩である二人はめちゃくちゃ嫌がったが、俺達や俺の両親が何度も説得してようやく引き受けてくれた。


 結婚式当日、鎌田夫妻……特に三郎さんが俺達以上に緊張している姿は今もたまに思い出すと笑ってしまう。



『それでは本日のゲストは今、日本で最も注目されている若手女優と言っても過言ではない『岸本ひろみ』さんです。』


『おはようございます』


『おはようございます。しかし岸本さんの最近のご活躍は凄いですね?』


『いえ、そんな事は無いですが……でも、有難うございます。ファンの皆様やスタッフの皆さまのお陰です』



『ハハハ、そういう謙虚なところも人気の一つの岸本さんではありますが……ところで岸本さんの『ひろみ』というお名前は学生時代にお亡くなりになられた親友のお名前だとお聞きしたのですが、本当なのでしょうか?』


『はい、そうです……将来『女優』になるのを夢見ていた親友の名前です。私はその親友と一緒に『女優』になろうと決意して……彼女の名前をつけることにしたんです……』


「ほーっ!? やっ、やっぱりそうだったんですね!? これは驚きました。でも、その亡くなられた親友も天国で喜ばれていることでしょうねぇ……」


『はい……そうだといいですねぇ……』



「・・・・・・」


「おっ、どうした広美? とても真剣な顔でテレビを観て……」


「……ねぇねぇ、お父さん!? お父さん!?」


「ん? 何だい、広美?」


「この『女優さん』のお名前、私と同じなのよ!!」


「ハハ、そうだね……それで真剣な顔をしていたんだな?」


 岸本、凄いよなぁ……この十年でここまでの『女優』になったんだからなぁ……

 石田も陰で支えてくれていたのかな……


「私も大きくなったらこの女優さんみたいになれるかな?」


「おーっ!! そりゃぁなれるよ。広美は母さんに似てとっても美人さんだからね」


「有難う、お父さん……」



「二人共、何をしているの? そろそろ着替えないと『卒園式』に遅刻しちゃうわよ」


「えっ、もうそんな時間かい、香織?」


「フフフ……隆君、昨夜夜更かしなんかしてるから寝坊しちゃったのよ。私はまもるとおるの御着替えを手伝わないといけないから、隆君は広美の御着替え手伝ってあげてくれないかな?」


「お、オッケー……それじゃ広美、お父さんと一緒にお着替えしようか?」


「うん!!」


 俺と『つねちゃん』は三人の子供を授かった。

 長女の広美は六歳で本日、幼稚園を卒園する。そして四月からは小学生……


 そして年子で双子の男の子二人、長男の守と次男の徹……この子達は明日から『年長さん』になる。


 俺と『つねちゃん』は結婚当初は一人暮らしをしていた『つねちゃん』の家で暮らしていたが、広美が幼稚園にあがる一年前に三人の子育ては大変だという事で俺の両親と実家で同居する様になった。


 まぁ、その前に妹や弟が家を出て行ったのでタイミングも良かったのだが……


 ちなみに妹の奏は大学卒業と同時に高山と結婚をして今は専業主婦をしている。

 マジで高山は俺の義理の弟になってしまった……未だに複雑な心境である。


 弟の博は地方の大学に進学となり実家を離れた。そして来年、卒業し就職となるのだが、くしくも博の就職先は俺が『前の世界』で勤めていた会社であった。


 大卒の博は頭も良いいのできっと俺とは違って『出世街道』を歩くことだろう。



 ということで広美は俺が通った、『つねちゃん』が初めて先生になった『青葉第一幼稚園』を本日、卒園することになる。



 ガチャッ……


「さぁ、行こうか? ん? 君は……」


 俺がドアを開けて外に出ると目の前に女の子が立っていた。


「あーっ!? 千夏お姉ちゃん!!」


「おはようございます!!」


「あら、どうしたの、千夏ちゃん?」


「広美ちゃんに卒園おめでとうって言おうと思って……」


「おぉぉ、千夏ちゃん、わざわざありがとうな」


「千夏お姉ちゃん、ありがとう!!」


「うん、四月から小学校、一緒に行こうね?」


 この子は『田中千夏ちゃん』……一人暮らしをしていた『つねちゃん』の隣の部屋に住んで居た中野さんの娘である。現在十歳で四月から小学五年生になる。


 数年前に中野さんが再婚をして田中に苗字が変わり、旦那さんの家の方に引っ越す事になったのだ。しかし、その引っ越し先が俺の実家の近所ということで当時はめちゃくちゃ驚いたものだ。


「千夏ちゃん、四月から広美をお願いね?」


「はい、分かりました、任せてください!!」




 【青葉第一幼稚園卒園式】


 広美は無事に幼稚園を卒園した。


 しかし、またこの幼稚園に足を運ぶことになるとは夢にも思ってもいなかった俺としてはとても感慨深いものがある。


 そして、これは『奇跡』としか言えないが、広美の担任は……


「広美ちゃん、卒園おめでとう!! そして五十鈴君達もおめでとうございます!!」


 そう……広美の担任の先生はあの『マーコ』だった。


「マ、マーコ……有難う……しかし未だに信じられないよ。マーコがうちの娘の担任だなんてさ……」


「そうね。私も入園式の時に五十鈴君と常谷先生……いえ、奥さんの顔を見て、私夢を見ているんじゃないかしらって思ったくらいに驚いたし……」


「フフフ……でも佐々木さん……いえ、今は三田先生だったわね? 私、本当に嬉しかったわ。少しの期間だったけど勉強を教えた生徒がそのまま福岡に行っても頑張ってくれて……ちゃんと夢を叶えてくれたんだから……そして、その教え子が、まさかうちの娘の担任の先生になるだなんて……本当に嬉しくて嬉しくて……」


 マーコは福岡に行ってからも必死に勉強を頑張り、大学はなんと『つねちゃん』と同じ『青葉大学』に進学したのだ。そして街で偶然再会した三田さんと今度は本当に付き合う事になり昨年、結婚したのだった。


「五十鈴君は全然変わらないね? 昔と一緒だわ……」


「えっ、それってどういうことだよ? 俺、全然成長してないってことかい?」


「フフフ……そんな事は無いよ。凄く大人になったと思う。でもあの時の何とも言えない優しい雰囲気はそのままだなぁって……」


「あ、有難う……何だか照れるなぁ……ハハハ……」


 俺は少し恥ずかしくなりマーコ達から離れ他の『パパ友』の所へ行くのであった。



「ねぇねぇ、マーコ先生……?」


「えっ? 広美ちゃん、今、マーコ先生って呼んでくれたの!? 今までマーコ先生って呼んでくれた事がなかったから先生、とてもビックリしちゃったわ……それに凄く嬉しい……」


「マ、マーコ先生はお父さんを昔から知ってるの?」


「えっ? フフ、そうよ。広美ちゃんにはまだ分からないかもしれないけど『高校生』の時の同級生だったのよ」


「ふーん、そうなんだぁ……それでね……マーコ先生はね……お父さんのことが好きだったの?」


「えっ!? 広美ちゃん、凄い質問をするわね? うーん、どうしよっかなぁ……よしっ!! それじゃ広美ちゃん、耳を貸してくれるかな?」


「うん……」


「先生は広美ちゃんと同じくらいお父さんの事が大好きだったのよ。でもこれは皆に内緒にしておいてね? 特にお母さんには言っちゃダメよ?」


「うん、分かった。内緒にするね……それでね、マーコ先生……小学生になってもマーコ先生に会いに来てもいいかな? それでね、昔のお父さんのお話を聞かせてくれないかな……?」


「うん、全然構わないわよ。いつでも遊びに来てちょうだい。昔のお父さんのお話、いっぱいしてあげるね」


「わーい、やったー!! 有難う、マーコ先生……」



「広美、そろそろお家に帰るわよ」


「はーい、お母さん!! それじゃ、マーコ先生さようなら~っ!!」


「さようなら、広美ちゃん……また、たくさんお話しましょうね……五十鈴君、いつまでもお幸せにね……」




 俺達は家に帰ると息子二人を両親に預け、妻と広美と三人で車に乗って出かけた。


 前から広美に卒園式が終わったその日に『エキサイトランド』と隣接している『エキサイト公園』に連れて行って欲しいと頼まれていたからだ。広美は公園が大好きで特にここの公園が大好きだった。俺もまた思い出のある『エキサイトランド』近くの公園なので愛着はあった。


 俺達は広美を挟み三人、手を繋ぎながら公園内にある並木道を歩いている。


 美しく優しい妻と、とても可愛い娘と一緒に並木道を歩いている俺はとても幸せでいっぱいである。これからもこの幸せが永遠に続く様に、愛する人達を守る為に俺は『この世界』で精一杯頑張っていこうと思う。


「香織……」


「なーに、隆君?」


「一生、幸せにするから……」


「フフフ、急に何を言い出すのかと思えば……でも有難う、隆君……本当に隆君が旦那さんで私、良かったわ……」


「か、香織こそ、広美の前で何てこと言うんだよ? 照れるじゃないか……ハ、ハハハ……」


 俺達はこれからも共に『この世界の未来』を歩き続けて行く……







 お父さん……お母さん……


 五十鈴君……つねちゃん……



 二人の子供として生まれて来て良かった……


 いつまでも二人仲良く、元気でいてね……


 これからは私が二人を見守っていくからね……



 完






――――――――――――――――――

最後までお読み頂きありがとうございました。

皆様の応援のお陰で楽しく完結まで書けることが出来ました。

本当に感謝でいっぱいであります。

本当に有難うございました。


また感想などいただけると嬉しいです。そして完結を迎えフォロー、☆評価なども頂けると頑張って執筆した甲斐があるというものですので是非ともよろしくお願い致します。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺 NOV @19980830

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ