休暇

 


 日本

 宮城県



「到着……っと!」

「っ……!よく寝た……」


 元気よく飛び出した村主と、眠そうあくびをした芹澤。


「いやー……偶然とはいえ、一斉休暇ってなんなんだろうな。」

「俺に分かると思うかよ。」

「分かると思うから聞いたんだって。」

「……分かるわけないだろ。俺隊長じゃないんだぞ。」

「まあ、そりゃあそうか。」


 1時間半から2時間の間、新幹線に乗っていた2人は、疲れからかほとんどの時間を睡眠に費やしていた。


 改札を抜けた先に村主 真伊が待っていた。

 村主 真伊は息子の諒を見るなり、駆け出して抱きついた。


「おっ……っと……」

「よく、よく生きてた……!」


 それを聞いた村主は、心の奥から込み上げるものを感じていた。

 思わず、ふっと芹澤が笑った。


「……ただいま、母さん。」


 やがて抱擁を終えると、村主 真伊は芹澤と目が合った。


「よく来たね。諒から話は聞いてるよ、友達だって。」

「急に……すみません。」


 会釈する芹澤を見て、笑みを浮かべる村主 真伊の目には酷いクマが見えた。


「いいのよ、気にしないで。」


「母さん、あのさ……」

「ここで話しても仕方ないでしょ。ひとまずうちに帰るよ。」



 仙台駅を出ると、輝く太陽に関して外は寒さを感じさせるそよ風が吹いていた。



 ♢♢♢



「時間、かかったろう。」

「まあね、2時間しないくらい?」

「なんで覚えてないのよ。」

「寝てたんだよ。」


 村主宅まで移動のドライブ。

 車内ではラジオが流れる。

 芹澤は落ち着かず、外を眺めていた。


(気まずい……)


 スマートフォンでニュースを見る。

 ふと、昨日あったという病院のニュースが目に入った。


「物騒だな……」


 世の中危ないのは、怪人だけじゃないってことか……


「芹澤くん、もしかして酔っちゃった?」


 何度か村主の母に声をかけられ、ようやっと気がついた。


「ああ、すみません。ボーッとしてて……」

「……どうかしたのか?」


 流石に返事をしなさすぎたのか、村主が声をかけてきた。


「いや……嫌な時代になったもんだと思っただけだよ。」

「なんだ、急に頭良さげな感じになって。」

「いや、俺お前より頭いいし……」

「現代社会とか公民は俺の方が頭いいしぃ!」


「どこで競ってるのよ……」


 久しぶりにった息子は、父の死を乗り越えたようだと、大人になったのだと思い、どこか存在を遠くに感じていたが……


 こんな様子を見て心做しか、村主の母は安心してしまった。




 ♢♢♢




 飛鳥井邸宅--



 厳かな雰囲気の豪邸。

 その広間に、飛鳥井は正座し一礼をする。


 目の間には、彼の父親と母親がいた。


「お父様、お母様……何か用が……」


 表を上げ、自ら父と母の顔色を伺う。


「首尾はどうだ、奏弥。」

「問題なく……た、隊長業務も、滞りなく……」


 実際、第6小隊を任され、隊長の役職につき、その業務は滞りなく行っていると自負していた飛鳥井。



 しかし--



「本当に大丈夫なの?」



 と、そう母親に尋ねられる。

 自分では問題ないと感じていたからこそ、動揺を見せた。


「だ、大丈夫……とは……」


 悪いことをしていないのに、悪いことを指摘されたような気分だ。

 何も無いのに冷や汗が止まらない。


「聞きましたよ。あなた、一時隊長の業務を外れたらしいじゃない。それで、副隊長の方が代理を務めたらしいわね。」


「……!そ、それは……」


 事実。

 だが、それがなんだという。

 わ、悪いことではないはずだ。


「その期間にあなたの代役を務めた副隊長が、あなた以上の成績を残したらどうするの?あなたよりも隊長の任に適していると、鳳華院様が判断されたらどうするの?」


「そ、それは……せ、芹澤は俺を信用して……だから、俺は隊長に相応しいって……」

「言い訳はいりません!結果は出していないでしょう!」

「ごめんなさい、その通りです……」

「申し訳ございません……でしょう。」

「申し訳、ございません。」


 飛鳥井は土下座し、謝罪の言葉をひたすらに紡ぐ。

 ギリギリと歯ぎしりし、舌打ちを鳴らす。


「もう……!もし、あなたが降格になってしまったらどうするの!鳳華院に取り次ぐチャンスだったのに!」


「落ち着け。」


 ピシャリと飛鳥井の父が、強い語調でそう言うと、静寂が訪れた。


「分かっているか。我々飛鳥井家が貴族であり、鳳華院という日本で一番大きな貴族に仕える由緒ある貴族であるということを。」

「……ぞ、存じ上げております。」

「我々は鳳華院様に認めて頂き、我らこそが仕える必要がある。鷹司ではない、飛鳥井家が。そのためにも、飛鳥井家の嫡子であるお前が結果を出さなくてはならない。沢渡 未来を京極 蘭斗を、ひいては鳳華院様の嫡子である楓様を超えて貰う必要があるのだ。違うか、奏弥。」


「お父様の考えが……正しいです。」


 土下座をしたまま、飛鳥井は答える。


「よく分かっているな。分かっているのならいい。だが、分かっているのなら、理解をしたというのなら、次に同じ間違いは犯すな。」



「ごめんなさい、ごめんなさい……」



 誰もいなくなった、広い場所で飛鳥井は地に頭をつけ、ひたすらに謝っていた。




 ♢♢♢




 王城コーポレーション

 王城 ヨハン 鏡の実験フロア

 モニタールーム



 王城 勇姫は同い年といっても差し支えない程に若すぎる父……王城 ヨハン 鏡の元へ来ていた。


「お父様、レーザーボムの件ですが……」

「いや、あれは一旦保留だ。今それどころじゃないんだよ。」


 当の父は娘に顔を合わせるようなことはせず、10ものモニターを一度に観察し、全てを把握しながらパネルを操作していた。


「今いい所なんだよ、勇姫。なんだったら見ていくかい?」

「私たちにとって代わる戦力……あれが。」

「その通り。光式機動レーザーマシン。レーザーサーベル、レーザーガンを搭載した試作型だ。」


 画面ではそれぞれの機械兵こと、光式機動レーザーマシンの視点がそれぞれ映し出されている。

 もちろん、光式機動レーザーマシンが戦う魔剣の戦士の様子も見て取れた。


「……一体どれほどの実験を要したのです。」

「お前が気にする必要はない。」

「私が聞きたいのは、あなたが一体どれだけの実験体を利用したのかと聞いているのです!」

「お前が知る必要はない。」


 王城はそばにいた父の護衛である灰野 1番を見て、血相を変えた。

 嫌な予感が過ったからだ。


「まさか、またクローンを……」


「二度言わすな。お前が知る必要はない。」


 ピシャリとそう言った、父。

 その瞳に、私自身は映らない。

 ギリリと自身の言葉を飲み込み、踵を返してモニタールームを出ていった。


「……失礼致します。」


「やれやれ、頭の硬い娘は困る。」


 モニタールームの画面がひとつ消えた。


「おっと、一体やられたか……レーザーボムより破壊力は抑えたが、やはり足りないか。爆発で敵一人仕留められないとは……改良が必要か。」




 ♢♢♢




 とある病院--



「あの、すみません。」

「はい、どうかなされましたか?」

「ここで、この人見ませんでしたか?」


 スマートフォンに映るニュース記事を受付に見せる。

 そこに映っている、色白の白茶色の髪が目立つ青年を指さして東雲は受付に尋ねた。


「いや……見てないですね。でも、ニュースになっている通り、この人は確かに助けてくれた人です。」

「!」

「すごかったですよ!銃を持った人を相手に、危険をかえりみず捕まえてくれたんですから!」


 そんな話とてもじゃないが信じられなかった。

 だって彩くんは、力でどうこうするタイプじゃなかったし、喧嘩が出来るような子じゃなかった。


 例えば、銃を持った相手がいたとして。

 銃を持った相手をねじ伏せるような力もなければ、向かっていける勇気もない。

 銃を持った相手に恐怖を抱いてしまい、それと同じくらいなんで銃を持ってしまったのか、どうすればあの人助けることが出来るのかを考えてしまう……優しい人だったから。


 他人の空似かもしれないが、それでも、それでも……くすのき 彩莉さいりが生きているというわずか過ぎる可能性に賭けたかったのやも知れぬ。


 --お前があのとき、身につけていたブレスレットを使って今のように変身して戦えば!楠 彩莉は死ななかった!


 あの時、鎧の怪人に言われた言葉が脳内で反芻する。


 どうしても、この写真の彼がくすのき 彩莉さいりであるという一縷の可能性を信じたかった。


 本人がそれに気づいているかどうかは別として、それを心の奥底で否定したいエゴである。


「その人、どこに行ったとか……」

「それは分かりませんが……」

「そう、ですよね……ごめんなさい。」


 ガックリと肩を落とし、受付に礼をしてその病院を去った。


「もしもし……お母さん?どうしたの?」


 電話が鳴った。

 着信相手は……お母さん。



「え。彩くんのお父さんと、お母さんが……?」




 ♢♢♢



 とある病院--

 屋上



「ずいぶん街を壊してくれたものだ。が聞いたらどう思うか……景観を壊すなんて。」


「ビャッハハハハハハ!なんだその武器は!変な技を使っているみたいだが、ただ防いでるお前が俺に勝てるか!?」


 実際、柊 サイことフェルゴールの人間体で黒い氷の槍を持ち、相手の攻撃に合わせて防いでいるだけだった


『ナルホド……人間デハナイナ。』


「お前が魔剣か、話は聞いている。まともな会話が出来そうな奴が人間ではなく、魔剣とは。」


『我個人トシテモ、オ前ニハ興味ヲ抱イテイル。』


「そりゃあ、どうも。」


 フェルゴール自身はオードロブよりも、魔剣が気になるところであった。


「ハッ!話してる余裕あるのかよ!」


「あるよ。」



 ザシュッ!


「ガ!ヴッ……!」


 スキをついて左肩を貫いたその時、すぐさまオードロブが傷を押えて退いた。

 追い打ちを仕掛ける--

 オードロブを蹴り上げ、浮き上がったところを蹴り落とす。


「ヴアアアアアアアアアアアア!」



 ドゴォン!



 オードロブは、高層ビル並の高さから地に叩きつけられた。



「じゃあ、後はその機械兵に任せるか。一番の仕事は、魔剣のデータ収集だからな。」


「お前……お前ええぇぇええええ!!許さねえ!許さねえぞ!絶対に……絶対に殺してやる!殺しきってやるぞ!人間風情があああああああああああぁぁぁ!絶対に!絶対に!」


 見下しながら、口角を上げる柊 サイの顔を見たオードロブの怒りが爆発する。


 オードロブは全身から黒い血管を暴れさせ、柊 サイに向けて伸ばす。


 しかし、機械兵……光式機動レーザーマシンが襲いかかってくる。


 放出した黒い血管の方向を転換し、機械兵に向ける。

 黒い血管で捕らえた機械兵を突き刺し、地面に叩きつける。



 怒りに燃えるオードロブが、獣のように叫んだ。



『オードロブヨ、オ前ハ進化シタ。』


「なに?」


『今ナラ、更ナル力ヲ振ウコトガ出来ルダロウ。』



 その言葉を聞いて、オードロブは歪んだ笑みを浮かべた。

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元人間の怪人・フェルゴールの行く末 湯田一凪 @ichinagi

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