第5話
今井詩歌。
年齢不詳。女性。二年前「青い瞬き」でデビュー。その後も半年に一作のペースで本を出版し続ける。一部に熱狂的なファンはいるものの、ハッピーエンドを好んで書くことからか、どの作品も似通っていると評価されることが多い。
「ふーん……」
携帯電話で今井詩歌の評価に目を通しながら椛から借りた彼女の作品に目をやる。インターネットで調べた通り、どれもハッピーエンドで終わるものだった。それも偏執的なまでに。椛は四作目の終盤までのつなげ方が爽快だと言っていたが、伏線を回収しているというよりは全てをまとめてゴールへ引っ張っていくような強引さを感じた。悪人ですら最後には赦され、未来に希望を持って進んでいく。死人ですら皆最後には望みを叶えて満足して死んでゆく。
「彼方、この本の作者知ってるか?」
「ああ、一冊だけ読んだことがあるよ」
「感想は?」
「まあまあ面白かったけど人に薦めるほどではなかったかな」
あの作戦会議から三日が経った。姉からしばらく椛に触れないでおいてくれとのお達しが出たので俺はあれから八代家に行っていない。遊姫ちゃんは日常会話はしているらしいが遊姫ちゃんからみて椛が特に変わったようには見えないらしい。
「宵宮は読んだの?」
「椛に無理やり押し付けられたからな。全部読んだよ。俺も概ねお前と同じ感想だ。」
椛は名作と言いながら薦めてきたのでやはり好みが分かれる作風なのだろう。
「僕は好みの問題というよりそのときの状態の問題かなと思ったけどね」
「状態?どういう意味だ?」
「機嫌とか気分……うーん、コンディションって言った方がよかったかな。日によって食べたいものって変わるでしょ?多分この作風を好きになる条件があるんじゃないかって思ったかな」
確かになにか大きな悩みを抱えている人、辛い状態にある人達にとってはハッピーエンドへ導いてくれるという確信は大きいのかもしれない。そんなときにバッドエンドの物語を読まされるのは辛いものがあるだろう。
「熱狂的なファンってのは椛と似たような状態の人たちってことか」
そのとき、携帯にメッセージが届いた。
『いますぐ校門まで来て』
件の熱狂的なファンからだった。目を疑った。あれほどまでに学校に来ることを拒んでいた椛が学校に来ている?
瞼の裏のその色は @aquaharuka
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